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May 11, 2007

第11回手塚治虫文化賞感想

 第11回手塚治虫文化賞は、大賞が山岸凉子『舞姫 テレプシコーラ』、短編賞が森下裕美『大阪ハムレット』、新生賞がのぞゑのぶひさ/岩田和博/大西巨人『神聖喜劇』でした。みなさま、おめでとうございます。

 大賞が山岸凉子『舞姫 テレプシコーラ』。過去の経過から荒俣宏と萩尾望都が強く押すことはわかってましたから、『デスノート』との一騎打ちになるかと思ってたのですが、見事に大賞受賞。今までも候補に挙げられてましたが、やっぱ第一部終盤、あの衝撃の事件からあとの盛り上がりは、今年の大賞にふさわしいです。

 ただし、『デスノート』をあっさり無視しちゃっていいのか、という疑問も残るのではありますが。

 『大阪ハムレット』は、わたし大絶賛なのでまったく異論なし。『神聖喜劇』も第1巻読んだときはどうなるかとちょっと不安だったのですが、きちんと6巻で完結したのはチカラワザでしたねえ。ちゃんと読める作品になっててほっとした。

 二ノ宮知子『のだめカンタービレ』は一次選考で二位だったのに(香山リカ・萩尾望都・藤本由香里が5点、いしかわじゅんが3点入れてます)、辞退しちゃっのは残念でした。講談社漫画賞はもらってるのにね。過去にも花輪和一や佐藤秀峰が辞退してますが、これは各人の考え方ですからしょうがないです。

 ただし今回、なんだかなあだったのはこれ。朝日新聞2007年5月10日朝刊によると、

特別賞については、マンガ評論家の故・米沢嘉博さんらを推す声もあったが、専門家の意見を参考に、朝日新聞社内で検討した結果、該当者なしとした。

 ずいぶん謎を秘めた文章でして、「米沢嘉博さんら」の「ら」とは誰だったんでしょう。「社内の検討」は誰と誰で検討したのか。そして、米沢嘉博を不可とした「専門家」とはいったい何者かっ。なにやら山崎豊子の小説に登場する、フィクサーか黒幕を想像してしまいました。

 今年は米沢嘉博を顕彰する最後のチャンスだったと思います。プロの作家、出版編集、読者という古典的三極に加えて、同人誌という新しい立場でマンガに参加できる場を提供、確立させた功績ははかりしれません。手塚治虫文化賞、これでいいのか?

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Comments

はじめまして。いつも拝見させて頂いております。
米沢嘉博さんの受賞が見送られた背景は、選考委員いしかわじゅんさん自身のHP日記によると
「特別賞は、米澤くんの評論活動を評価したいんだけど、
コミケの版権問題がやっぱりネックになったなあ。
朝日がお墨付き出すわけにもいかないだろうし。」
とのことです。黒幕とまではいかなくても、こういった複雑な事情は、やはりあるのだなぁ、と思わされました。

Posted by: 丸 | May 12, 2007 at 02:16 AM

そうでしたか。いまだにコミケはアンダーグラウンドでグレイゾーンなのですねえ。

Posted by: 漫棚通信 | May 12, 2007 at 12:19 PM

通りすがり、というよりは業界の話がほの見える立場のものからです。
審査員はもちろん、業界に多少かかわっている人間でしたら聞こえてくるお話を書きます。
さて、漫棚通信様の慧眼恐るべしというのか、さすがと存じます。
順番に申しますと「ら」はおりません。米澤さんを入れるか入れないかの議論でした。

 そこで、米澤氏を不可としたのは、審査員の萩尾望都氏です。審査員の中で彼女が強行かつ激烈に反対しています。これは今年だけの事ではなく、彼女の審査員就任以来一貫しています。これが、いしかわじゅん氏が書いている

>今日は、朝日新聞の手塚治虫文化賞選考会だった。
>うーん、今日はいろいろ難しかった。
>なにがどう難しかったかについては内緒だが、
>ここ数年の持ち越し懸案事項を、ついに解決しなくてはいけなかった。
>まあ解決は結局まだしてはいないんだけど。

 の真実です。ウイキペディア「手塚治虫文化賞」を覗いていただくと判りますが、米澤さん退任と同時に萩尾氏就任という構図ですので満場一致の推薦ができなかった-最後の今年まで-ということです。

 彼女が反対する動機は明らかではありません。しかし、米澤氏が同人であった「迷宮」が編んだ『漫画新批評大系』という漫画批評誌に掲載された「ポルの一族」が主因であろうと想像されます。タイトルからおわかりのように「ポーの一族」のパロディ作品です。彼女がまだ若く二十代の頃ですので、その表現に傷つけられたのかもしれません。

 しかし、「ポルの一族」は米澤氏が描いているわけではなく「米澤氏が関わった同人誌に掲載された」作品です。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、「迷宮」憎にくけりゃコミケも憎い、そしてコミケ憎けりゃ米澤憎いとばかりです。

 個人的には、お互いそれなりの立場を築いたのですから、素直に業績を評価してあげればとも思うのですが、このような事になってしまいました。

さてもう一点。

 特別賞は選考委員の意見を受けて朝日新聞社内で検討することになっています。知る範囲では激烈な反対は萩尾氏のみあとは米澤氏にというトーンだったといいます。それがひっくり返された。ここでいしかわじゅん氏の日記です。
>特別賞は、米澤くんの評論活動を評価したいんだけど、
>コミケの版権問題がやっぱりネックになったなあ。
>朝日がお墨付き出すわけにもいかないだろうし。
ここからは想像です。おそらく、朝日が萩尾氏の反対意見をテコにして、米澤氏の顕彰をスルーしてしまったということです。米澤氏の巨大な功績-コミケ同人誌文化の創造、評論家としての功績より、児童ポルノ法、著作権問題等々の片付いていない課題から逃げてしまった、という事でしょうか。おそらく、組織のやっていることなので、担当社員に聞いても木で鼻をくくったような言葉しかでてこないと存じます。
近い将来にやってくるだろう米澤氏の再評価の時に(思うに、日本ではなく海外から高まるのではと考えます)これらの行いが悔恨として残るのではと愚考いたします。

Posted by: 通りすがり | May 23, 2007 at 08:32 PM

コメントありがとうございます。
あくまでうわさ話でありましょうし結果的に萩尾望都氏を批判する内容のコメントではありますが、あまりにおもしろいのでしばらく削除せずに残しておきます。
管理人から反論をひとつ。「ポルの一族」(1975年より)のあとでも米沢氏は、イラスト集「萩尾望都の世界」に協力していたり、萩尾氏と光瀬龍の対談の司会をしてたりします。これはいかがでしょうか。あえて言うなら「毎日グラフ」で米沢氏がシリーズで少女漫画家のインタビューをしたとき、萩尾氏の回だけ米沢氏の著書『スピーチバルーン・パレード』(1988年)に収録されませんでした。それまではおふたりの間に反目はなかったように見受けられますが。

Posted by: 漫棚通信 | May 23, 2007 at 09:31 PM

萩尾先生は大好きですし、米沢さんも凄い業績があるだけにいちマンガ文化ファンとしては、非常に残念です。
萩尾先生が反対されたのは、そうした私怨からの反対ではなく、もっと大所高所からの存念がおありのことだと信じたいです。

Posted by: アトラン | May 27, 2007 at 03:40 PM

漫棚通信さま

米澤-萩尾間の関係についてご指摘ありがとうございます。
なるほど、時系列できちんと追うとそうなりますか。
文章をよく読んでいただければわかるのですが、私が前回書いた「彼女が反対する動機」は私の推測にすぎません。申し訳ございません。すこし反省しているのですが、この文章では、曖昧かつ萩尾氏を非難するようなトーンが強くでてしまいました。
その結果、ロジックの精度を欠きこの文章自体の信憑性を損なうこととなった。それが、この書き込みが(これだけ視聴率の高いブログにもかかわらず)話題にならなかった理由のひとつでしょう。あと、もうひとつは、結果発表の直後に書かなかったこと。当時は逡巡がありました。

今一度単純に整理すると、
「米澤氏は何度も特別賞に推されていた」
「それが一人の委員の(私怨をも思わせるような)激烈な反対のために受賞を逸してきた」
「それは、彼が亡くなって受賞資格が無くなる(←この点不正確です。もしかするとあるかもしれません)最後の年も、受賞を逸した」
「それはせんないことなので、もう誰のせいという気もない」
「しかし皆さんにはその事実だけを知っていただきたい」
ということです。

 ちなみに、一漫画読者としての私は萩尾先生の熱烈なファンです。ですのでわたしもアトラン
さんのおっしゃるようなことを感じている。

 そんな私がこの不幸な出来事を書いている。これまた不幸なことです。

 漫棚通信様に最後のお願いです。

 すぐに消されても仕方のない書き込みをここまで放置いただきありがとうございました。

 手塚文化賞授賞式のある来週いっぱいくらいまでこの書き込みを前のものともどもお残しいただけますでしょうか。

 それ以降は消していただいても一向に構いません。

 それでは、さようなら。 

Posted by: 再びとおりすがり | May 31, 2007 at 07:43 PM

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