過剰な『鈴木先生』
いやー、武富健治『鈴木先生』2巻(2007年双葉社、819円+税)読んでて、何にびっくりしたかというと、裏カバーソデの作者紹介。
まず、これが1巻の作者紹介↓。
昭和45年8月21日生。獅子座O型。佐賀生まれ、主に東京育ち。幼少時よりメジャー漫画家を目指しオリジナル漫画を製作するが、10代半ばより「文芸漫画」を模索。大学在学中にいくつかの新人賞で佳作などに入賞するが掲載には至らず、中山乃梨子氏のアシスタントを務める。母校の中学校で教育実習を体験。卒業後、投稿活動を続ける傍ら、個人サークル「胡蝶社」を旗揚げし同人活動を開始。『掃除当番』『蟲愛づる姫君』などを発表。27歳時に『屋根の上の魔女』で商業誌デビュー。その後高田靖彦氏のアシスタントを務めながら一年に1本のペースで『シャイ子と本の虫』などの短編を数編発表するも読み切り短編『鈴木先生』の案が通らず精神的疲労から休筆。『まんぼう』で2年ぶりに商業誌復活を果たすが、『鈴木先生』のボツをきっかけに再び沈黙。2年間演劇活動に没頭の後、漫画活動の本格的復帰を目指し、多田拓郎氏の紹介で、『鈴木先生』を漫画アクション誌に持ち込み、掲載が決定。現在、実話誌などで原作付の仕事をしながら、長編『鈴木先生』に全力を注ぐ。
↑これでもそうとうな量で、イッタイドウシタンダと思ってしまうのですが、2巻ではこうなります↓。
昭和45年8月21日生。獅子座O型。佐賀生まれ、父の仕事の関係で、愛知県豊川、東京都小平市、北海道倶知安町などを転々とし、転園・転校を重ねる。小5末に目黒区に越してから後は、現在に至るまで東京在住。目黒区東山中学校卒業。幼少時は、虫捕りとともに、テレビまんがや特撮ヒーロー番組の鑑賞に熱中。藤子不二雄・手塚治虫・松本零士・石森章太郎などの作品と出会い、小3の頃よりヒーロー漫画を描き始める。その後、少年漫画を中心に、楳図かずおや古賀新一などの恐怖漫画や萩尾望都や竹宮景子(ママ)などの少女漫画などにも触れ始め、影響を受ける。当時全盛だった劇場大作アニメや富野由悠季などの制作するロボットアニメにも熱中。中3の頃から、白土三平・村野守美・永島慎二・つげ義春などの異色作品に出会い、高2の頃より、志賀直哉・横光利一・森鴎外などの近代日本文学に親しみ、浪人時には世界文学に興味の中心を移す。20歳前後では、チェーホフ・トーマス・マン・ガルシン・シュティフターなどの作品に傾倒。その頃より、文芸漫画の道を探り始める。大学在学中にいくつかの新人賞で佳作などに入賞するが掲載には至らず、コミケやコミティアなどの即売会に参加しつつ投稿活動を続ける。27歳時の商業誌デビュー後、数作の短編を発表するも力尽き再び数年間沈黙。その間に、ドストエフスキー・川端康成などの作品の魅力に気付くと共に、かつて熱中した小説作品と出会い直す。その後、現代演劇の世界に縁を持ち、ハイナー・ミュラーやベケットなどの戯曲や、実際の演劇家の舞台活動に強い影響を受け、漫画制作に復帰。現在では、実話誌などでの原作付漫画の仕事を縮小し、長編『鈴木先生』に全力を注ぐ。
青にした部分が新しく追加された部分で、ほとんどが書き直されております。こんなに長い作者紹介は、めったにお目にかかれません。おそらく自筆でしょう。
この過剰さが『鈴木先生』の特徴ですね。登場人物の感情や行動がみんな過剰。梶原一騎マンガの登場人物がすべて梶原一騎の分身であるのと同じく、『鈴木先生』の登場人物は、教師も生徒も親も、みんな作者であることがよっくわかります。過剰な赤面、過剰な汗、過剰な会話、過剰な感情、過剰な妄想。
1巻の表カバーソデには、エピグラフとして、ルソー『エミール』からの引用がフランス語付きで書いてありました。2巻になると、ドストエフスキー『カラマーゾフ兄弟』からの引用がロシア語で。これはかっこいいな。
さて、わたし、うかつながら、この作品が短編連作じゃなくて、長編であることに2巻ではじめて気づきました(←著者が最初っからそう書いてるってば)。このあと長編としてのストーリーが展開され、「近代文学的な重厚な成熟をみせる」(『映画秘宝』2006年1月号のインタビューより)結末が、本当に待っているのか。
The comments to this entry are closed.
Comments
著者自身のサイトの自己紹介とか年譜とかもすごいですが、この作品解説はすごい。ここはもう、『鈴木先生』3巻でご本人に長文のあとがきを書いていただくべきでしょう。
Posted by: 漫棚通信 | March 07, 2007 06:50 AM
私もこの人のサイトにいってみて
自己作品を解説する言葉の「過剰」ぶりに驚かされました。
と口サガなく評論。
http://www.oxna.net/itiran3.html#Anchor-----43679
Posted by: 紙屋研究所 | March 07, 2007 01:17 AM