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February 14, 2007

『らんぷの本』二冊

 愛媛みやげのミカンがうまくてうまくて。いろんな品種があって、「せとか」というのは、でかいわ甘いわ値段も高いわ。これだけ甘みが強いのはすごい。ただ酸味をまったく感じないのがちょっと。もうひとつは「まりひめ」で、甘くて香りもじゅうぶん。こっちのほうが好みかな。

 ひきつづき高畠華宵の話。

 河出書房新社『らんぷの本』シリーズは、画家だけでも、茂田井武、蕗谷虹児、武井武雄、岡本帰一、内藤ルネ、田村セツコ、竹久夢二、長沢節、石原豪人、岩田専太郎、松本かつぢ、などなど。おてごろ価格で文章も多い小画集、たいへんケッコウなシリーズです。

 で、愛媛で買った、華宵関係の『らんぷの本』シリーズ二冊。まずこちら。

・中村圭子「昭和美少年手帖」(2003年河出書房新社、1400円+税)

 これは以前、図書館で借りて読んだことがありました。高畠華宵、山口将吉郎、伊藤彦造、山川惣治、石原豪人、という五人の画家が描く「美少年」だけを集めた、欲張った本です。

 表紙は、高畠華宵描くところの刺青の若衆。すでにエロエロです。華宵の代表的な美少年絵の「馬賊の唄」も見られます。

 伊藤彦造は戦後もかなり長く活躍してました。わたしも子ども時代によく読んでて大好きだったのですが、戦前のものは密度が違う。しかも美少年がねっとりとエロい。「豹の眼」の挿絵は掲載されてますが、「角兵衛獅子」がないのが惜しい。

 この本、マンガにも目配りしてて、「昭和の少女まんがに登場した美少年」「少年まんがに登場した美少年」(後者は青島広志による文章。ほら、テレビでオーケストラを指揮してる、よくしゃべる髪のない音楽家のセンセ)などのコラムもあるのですが、ここはちょっと内容がうすいかな。それより、美少年の顔の描き方の変遷を、鼻・顎・目・輪郭のパーツごとに分けて比較した図がおもしろいです。

 そして「日本の美少年絵画」という小論文は、本来「美少年」という言葉には性的ニュアンスがなかったことを教えてくれます。絵画上、美少年とエロスが切り離せなくなったのは、華宵・彦造以後だという文章などは、ずいぶんと勉強になりますねー。

 もう一冊がこれ。

・松本品子「高畠華宵 大正・昭和☆レトロビューティー」(2004年河出書房新社、1500円+税)

 この本、高畠華宵の画業がコンパクトにまとまってます。美しい絵を多く見ることができ、かつ華宵の生涯も知ることができてよろしいのですが、ずいぶんかたよったつくりの本でした。何がかたよってるかといいますと、女性の絵だけしかないっ。

 華宵が描く美少年の絵は、ほんのちょっとだけという編集。これはあんまりだと思うのはわたしだけなのかしら。しかも華宵に関して、ホモセクシャルのホの字も出てこない。

 たしかに華宵は男性よりも女性を多く描いたに違いなく、女性ファッションデザインにこそ本領があったのかもしれませんが、華宵の本を書いておいて、彼の美少年趣味についてきちんと言及しないでどうしますか。華宵御殿での生活に触れ、「華宵は常にお伽の国の住人であった」と記されているだけじゃなあ。ただし、それでも少しだけ掲載されてる華宵の美少年絵を見ると、隠しきれないエロスが発散されているのですけどね。

 著者は弥生美術館学芸員のかたで、弥生美術館理事長・鹿野琢見は華宵晩年の恩人、館長・古賀三枝子は若いときからの華宵の友人、副館長・森武彦は12歳から華宵の弟子。こういう事情が筆を抑えさせたのかもしれないと考えるのは、邪推に過ぎるかな。

 いずれにしても、この本一冊だけで華宵を知るには不十分、他の本で補完しなければならないのでありました。

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Comments

お買い上げどうもです。付録のぐらこん、わたしも全部持ってたはず。でも今捜しますと見つからんのですなこれが。いずれ発掘しなきゃ。

Posted by: 漫棚通信 | February 19, 2007 09:24 PM

 ご無沙汰しております。昔コメントしたものです。こちらの記事を見て思わず、中村圭子氏「昭和美少年手帖」をネット注文してしまいました。(汗) わたくし腐女子どころか50台なのでもう貴腐人ですね。
 COMの付録 「ぐらこん」 の表紙を順次アップする予定ですので、お暇なときにでも見に来てくだされば幸いです。

Posted by: トミー。(猫とマンガとゴルフ~の管理人) | February 19, 2007 04:05 PM

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