リウマチの理解は難しい
あけましておめでとうございます。あいも変わりませず、どうでもいいこまかいことをぽつぽつと書いていく予定です。本年もどうぞよろしく。
リウマチは理解するのがかなり難しい病気であります。現代ではけっこう整理されてきているのですが、この言葉、歴史的に複雑な経緯をとってきました。
もともとリウマチとはギリシア語の「Rheuma」から来ていると言われます。古来より関節炎という意味でリウマチということばが使われていたそうです。現在で言う変形性膝関節症(←加齢に伴うもの)も痛風(←血液中の尿酸過剰)も、かつては「関節の病気」という意味で広義のリウマチ性疾患でありました。ルネッサンス期になると、現在の関節リウマチを代表とする一連の全身性疾患を、リウマチと呼ぶようになります。
19世紀になると、ひとつの疾患としての関節リウマチが確立されます。20世紀、1942年になって膠原病という概念が提唱されるようになり、関節リウマチは全身性エリテマトーデスなどといっしょにこのグループにはいり、「関節の病気」という意味が薄れ「全身の病気」と理解されるようになります。この結果、リウマチ性疾患というくくり方は次第に時代遅れになっていきます。
というわけで、時代によってリウマチという言葉の意味が微妙に異なります。現代でもリウマチという言葉は「関節リウマチ」「リウマチ熱」「リウマチ性多発筋痛症」という病名に残っていますが、関節リウマチは膠原病の一種、リウマチ熱は細菌による感染症、リウマチ性多発筋痛症は原因不明の筋肉痛。それぞれリウマチという名がついていますが、現代ではまったく別の病気と考えられています。全部「リウマチ」という言葉がはいってるので混乱のもと。
このうち、リウマチ性多発筋痛症は言われ出してからまだ50年ほどしかたっていませんが、関節リウマチとリウマチ熱の歴史は古い。関節リウマチは有名。関節の痛みと変形を特徴とする、現代でも難病のひとつです。
いっぽうのリウマチ熱は、A群溶連菌感染が原因で発熱と関節炎を伴います。基本的には子どもの病気で現在は抗生物質で治るのですが、将来的に心臓弁膜症、とくに僧帽弁狭窄症という病気をおこすことがあるので、それを予防するため長期間にわたって薬を飲むそうです。日本では減りましたが、東南アジアではまだまだ若年での僧帽弁狭窄症発症が多いらしい。
さて、やっとマンガの話であります。みなもと太郎「風雲児たち 幕末編」10巻、時代は安政の大地震(1855年)前後。ここに登場する、福沢諭吉の兄が「リウマチ」で苦しんでいる描写が出てきます。
現代日本人であるところのわたしとしましては、江戸時代にすでにリウマチという言葉があったことに驚くのですが、考えてみれば緒方洪庵などは洋書で医学書いっぱい読んでたでしょうから、当時最新の知見であった関節リウマチという病名は知ってたはず。それ以前の日本にも関節リウマチは存在したはずですが、どんなふうに呼ばれてたのでしょうね。
ただ、福沢兄の病気が、現代でいう関節リウマチだったのか、その他のリウマチ性疾患のひとつだったのかは今となってはわかりません。
で、ちょっとアレなのが緒方洪庵のこの言葉。「おまはんのリウマチはな」「知っての通り心臓からくる病で全快というのが無い」 あれれ、これでは福沢兄の病気はリウマチ熱だということになってしまいます。
まずリウマチと心臓病については、原因と結果が逆です。関節リウマチでも心症状をきたすことがありますが、これはまれなこと。リウマチ熱には関節症状とのちに出現する心症状がありますが、通常、成人には発症しないはず。ここは緒方先生、あるいは当時の日本人蘭学医が、関節リウマチとリウマチ熱を混同してるみたいですね。
大昔にはリウマチ熱が慢性化したのが関節リウマチという説もあったらしいのですが、19世紀半ばの日本ではどのように考えられていたのか。ううーん、こんなひとことでも、調べ出すときりがありません。考証はたいへんだ。
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Comments
そうですか、全経過が半年で小康状態ののち最期が突然死、しかも諭吉がリウマチと記載している。いかにもリウマチ熱みたいな感じですね。ただし、関節リウマチにも心症状があるらしいので、こっちかもしれませんが。
Posted by: 漫棚通信 | January 06, 2007 09:15 AM
おっとっとっと。
そうですか、ご指摘有難うございます。
あのエピソードは「福翁自伝」しかネタ本がございませんでね。
僂痲質斯、と書いて「レウマチス」のルビがふってあるんですよ。
緒方洪庵先生が諭吉に献身的看病をしたのは事実ですが、
その時一緒に兄の治療をした記述はありません。私の願望的
フィクションです。
雑誌のほうでは今月号発売してますのでネタばらしますが、春に発病
した兄は九月に頓死します。詳しい記述はありませんが突然死のようで
あり、やはり心臓にいってたんでしょうかね。
10巻の記述については再版が出せる時に訂正いたしましょう。
また何かありましたらお願いします(何かだらけですけどね)
では
Posted by: みなもと太郎 | January 06, 2007 12:44 AM