「ひまわりっ 健一レジェンド」70年代ギャグの再現
東村アキコ「ひまわりっ 健一レジェンド」は、主人公の父・健一のスカタンな言動にずっこけましょう、という展開で開始されましたが、実際のところ大きく笑いをとっているのは、猿渡副主任を中心に演じられる仮装コントであります。
お話の途中で、謎の女性・猿渡副主任が主人公・アキコをからかうため、突然変身してお芝居を始めます。彼女は、大奥に忍び込んだ忍者、明智に倒される織田信長、風紀委員の女学生、アニーのオーディションを受ける少女、マンガ家A先生、などに変身するのですが、同じ会社の主任やエビちゃん、さらには他の登場人物も巻き込み、時空を飛び越えて衣装や背景も自在に変化。いや、笑わせてくれます。
これをマンガ以外でやろうとすると、どれだけたいへんか。演劇ではまずムリですし、映画でやるのは手間がかかってしょうがない。アニメならどうだろうか、コマごとに衣装や背景が変化するのを再現できるかな。東村アキコの場合、古い少女マンガのタッチや演出も再現してくれてて、まさにマンガじゃなければできない表現でしょう。
東村アキコの仮装コントは、すでに「きせかえユカちゃん」で始まっています。モデルなみのスタイルの小学生・ユカちゃんは、登場したときからコマごとにとっかえひっかえ衣装を着替えていました。これが伏線。そのうち、1巻7話では、空想シーンでユカちゃんや友人のみどりちゃんが、ホントのモデルや会社社長を演じるように。
その後2巻16話の、みどりちゃんのママの古典的少女マンガタッチの妄想を経て、ユカちゃんは3巻おまじないスペシャル編で独身貴族の女王様と昼休みのOLに、3巻22話で戦国武将に、3巻23話でスケバンと反抗期の娘を持つ父親に変身するようになります。ついに出た、現実世界を浸食する仮装コントの始まり。
こういう仮装コント、登場人物の自由な変身は、さかのぼればもちろん手塚治虫や杉浦茂や赤塚不二夫に先例があるでしょう。さらには落語の中には突然芝居や浄瑠璃口調になる登場人物がいましたし、もちろん現実に日常会話の中で芝居や浄瑠璃を引用するようなヤツはいたでしょうから、そのあたりが源流か。
でも直接のお手本として思いうかぶのは、パタリロとかパイレーツとかマカロニほうれん荘とかがきデカとか、1970年代の狂騒的ギャグのかずかずです。最初は代官と越後屋のちょっとした会話で笑わせていただけだったものが、どんどん衣装や背景を整えて、過激なナンセンスとパロディに突き進んでいきます。「萩尾望都描くところの阿修羅王」に扮したこまわり君には、大笑いしましたねえ。
東村アキコの作品は、1970年代末から1980年代初期のギャグマンガ、多士済々のあの時代を再現しているように感じられます。おちょくられる主人公・アキコ、謎の人・猿渡副主任、美人だけど性格がアレなエビちゃんのトリオは、じつは着ぐるみ。背中のチャックを開けると、それぞれ「マカロニほうれん荘」のそーじ、きんどーさん、トシちゃんが出てくるに違いない。そう考えると、「ひまわりっ」でときどきトビラページに描かれる登場人物のコスプレも、「マカロニほうれん荘」のトビラを意識してるのかな。
ああ、こんなところで再会できるとは。
Comments
「マカロニほうれん荘」・・・
連載当時、友人たちと「カルチャー・インパルスショツト・ギャグ」
などと、命名して悦に入っていたのは今は恥ずかしい思い出です(笑)
Posted by: 流転 | January 29, 2007 09:09 PM