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December 21, 2006

男のクリスマス

 NHKの15分番組「あの歌がきこえる」というのがありまして、視聴者からナツメロにまつわるエピソードを募集して、それを原作にプロのマンガ家がカラーでマンガを描く。これをカメラで撮影して、音楽、ナレーション、セリフをかぶせて、物語として構成するという(ヘンな)番組。これを相変わらずときどき見ておるのですが、昨日のはこれまでのうち最高傑作、島本和彦「瞳はダイアモンド」でありました。

 ときは1983年。ブサイクな男子大学生と美人の彼女。

「クリスマスには‥ふたりっきりでレストラン……そう…海の見えるレストランで食事がしたいな」
「!!」「か…考えとくね」

 でも彼はそんなレストランに心当たりがない。そこへ先輩からの情報がっ。

「それならザヨコのスカイラウンジの窓ぎわだ!!」
「ザヨコって何すか先輩!?」
「ホテル・ザ・ヨコハマだ!」
「すぐに電話します!」

 彼はさっそく電話に走ります。

「スカイラウンジ ザヨコ!」「ザヨコ!」「スカイラウンジ窓ぎわ!」
「ザヨコですか!?」「スカイラウンジの窓ぎわを!」
「ひとつ空いてる!?」

 しかし重要な問題が。彼の顔色は(物理的に)青くなる。

「そんな値段…」
「い いや‥はい 全然大丈夫ですっ!」「予約をお願いします」

 命がけの値段に彼はバイトにはげみます。彼のバイト先は。

「零下という極寒の倉庫!」「その中で輸送されてくる新巻鮭の重さを量る!!」
「ああ」「まつげが凍る!」「鼻水も凍る!」「手はかじかみ」「足先の感覚はなくなる!」
「しかし全然辛くないぞ」「何だ…この盛り上がる気持ちは?」
「むしろ心があたたかい!」「俺は命がけで 今 彼女の一瞬の笑顔のためにこの過酷な状況に身をおいているのだ!!」

 ああ、燃える。ところがある日、彼は彼女から一通の手紙を手渡される。

“ヒデキへ 何も言わないで別れてください。バイバイ。ヨーコ。”

 なにーっ。そして12月24日。彼はその日も冷凍倉庫でバイトをしています。

「凍傷になったって凍え死んだってかまうもんか…」「どうせ俺はもうフラれたんだ…もうやけっぱちだ!」
「いかん‥‥泣きそうになってきた!」「あんな女のために涙なんか流してたまるか!!」

 夜の11時。そこへラジオから流れる松田聖子の「瞳はダイアモンド」。

♪愛してたって言わないで……
♪映画色の街 美しい日々が 切れ切れに映る いつ過去形に変わったの?……
♪Ah 泣かないで MEMORIES 私はもっと強いはずよ
♪でもあふれて止まらぬ 涙はダイアモンド

 彼の目からは涙があふれ、それがつぎつぎと凍ってゆきます。ダイアモンドのように……

 いやー、松本隆の詞が泣ける。ウチにある松田聖子「瞳はダイアモンド」のCD(←そんなものを持っているのですね)を繰り返し聞いてしまいました。

 島本和彦ブログによりますと、島本和彦自身がエピソードを選び、構成もしているようです。実話のおもしろさ、音楽、マンガ、さらにセリフ、ナレーションとすべてがそろった奇跡の傑作でありました。再放送もしてるみたいなので、興味がおありのかたは、どうぞ。

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