「少年忍者部隊月光」のチーム編成
以前にヒーロー・チームの編成について書いたとき(1、2、3)、わたしは良いチームの条件を以下のように考えていました。
1)人数があまり多くなくて、それぞれのキャラが立っている。
2)女性を含む。
3)子どもを含む。
4)チーム内に対立がある。
これを満たす理想のチームと考えられるのが「科学忍者隊ガッチャマン」。5人編成で、(1)主人公、(2)ライバル、(3)女性、(4)力持ち、(5)子ども、がそろっています。この原型となったのが、テレビドラマ版「忍者部隊月光」(1964年〜1966年)でした。
そのさらに原型となる原作版マンガ、吉田竜夫「少年忍者部隊月光」が、マンガショップから全4巻で復刻されています。これはうれしい。これでやっと、マンガ版「月光」の全貌を知ることができましたよ。
「少年忍者部隊月光」は「週刊少年キング」1963年1号から1965年10号まで連載。テレビドラマ版は現代を舞台で敵が秘密結社や国際ギャング団だったのに比べ、マンガ版は第二次大戦中のお話。少年忍者部隊は中野学校卒業生で編成された、スパイ集団であります。敵はアメリカ軍やイギリス軍、さらに中国の妖術師。舞台も太平洋からインド、中国、ドイツ、イギリス、果てはアフリカまで世界じゅう。
ですから、テレビの設定がなにやらファンタジーめいていたのに対し(なんで現代のスパイがヘルメットに日本刀を背負って、『拳銃は最後の武器だ』なんて言うのか?)、マンガのほうは言ってみれば戦記マンガのバリエーション。忍者たちもミッドウェーやソロモン海戦に参加しています。
忍者アクションは、先行していた白土三平作品や「伊賀の影丸」にかなり影響受けてます。でも、いちばん感心したのはこの絵。いやー、すごいわ。こんなアングルで描けるひと、めったにいないでしょ。吉田竜夫うまいなあ。
さて、チーム編成のお話。少年忍者部隊は最初8人編成でした。
主人公・月光、美形の月影、顔が四角くて力持ちタイプの月形。ここまでがメインの3人で、あと丸顔が3人とやせたのがひとり、それぞれの名は、名月・満月・月の輪と三日月。
もひとり、月蝕というザンバラ髪のメンバーがいるのですが、これが最初登場してたときは汚いつくりでちょっと不気味でコワイ顔。どう考えても男性なのですが、なんと連載6回目あたりで、突然、美少女という設定に変更されてしまいました。紅一点メンバーの登場です。
「ほっほほほほ」「おっ!! へんなわらいかた…」「月蝕は少女だったんだな!!」「戦闘がつづいていたのでわすれていたよ」 こらこら。
以後、メンバーが戦死してゆきます。キャラの立ってない連中から。まず、月の輪と満月。このふたり、連続して死んでますので、どうも整理されたっぽい。そしてしばらくしてから三日月も。このあたり、「ワイルド7」メンバーの死となにやら似てますねえ。
三日月が死んだあとの月蝕のセリフ。「わたしのために 身がわりになって死んでいった 三日月……」「いまから…… 月蝕の名を…… 三日月にかえることにしたわ」
この時点ですでにテレビドラマ版「忍者部隊月光」が始まっていましたが、その紅一点キャラの名は三日月。というわけで、このマンガ版三日月の死と月蝕の名前変更も、テレビと整合させるためなのでしょう。
その後、月の輪の弟の少年忍者が新しくメンバーに加わります。彼も兄同様「月の輪」と呼ばれていましたが、しばらくすると「一人前の忍者じゃない」という理由で、「半月」というあだ名をつけられてしまいます。これも、テレビに登場する少年忍者の名が半月だからでした。
これでマンガ版忍者部隊の編成の完成。メインの3人に、紅一点、子どもひとり。丸顔はひとりに整理されて、合計6人となりました。
連載のはじめよりかなり進歩しましたが、やはりキャラの立ちぐあいがもうひとつなのと、チーム内対立がない。
先行作品、手塚治虫「ナンバー7」(1961年〜1963年、「日の丸」連載)では、途中から佐々木小次郎という強烈なチーム内ライバルが登場して、さすが手塚なのですが、やっぱその他のメンバーの影が薄い。1964年からの石森章太郎「サイボーグ009」は、それぞれのキャラクターの描き込みがこれがまたすごく細かくて、キャラ立ちまくりです。でも9人は多すぎた。
こののち、1966年の「ウルトラマン」科特隊チーム、1967年の石森章太郎/平井和正「幻魔大戦」チームを経て、1972年「科学忍者隊ガッチャマン」で、ヒーロー・チーム編成は一応の完成を見ることになります。
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