「現代漫画博物館」はエンサイクロペディアたりうるか
やっと発行されましたね、小学館の「現代漫画博物館」。英文タイトルが「The Encyclopedia of Contemporary MANGA」です。1945年から2005年までの60年間、主要マンガ700作を紹介したもの。とりあげられた作家は350人に及びます。労作です。貴重な本の書影もいっぱい、雑誌連載時のトビラページも多く収録されてます。
でも、350人じゃやっぱ無理なんですよ。アレがない、コレがない、あの人はどうした、そもそもオレがはいってないじゃないかっ、なんてね。もともと万人を納得させるのは不可能な企画ではあります。誰を残して誰を削るか、編集作業はむずかしかっただろうなあ。編集委員は、竹内オサム、故・米沢嘉博、ヤマダトモコ。ごくろうさまです。
この本での選考は、マンガ各賞を重視した形になってます。妥当といえば妥当。個性に欠けるといえばそうかもしんない。そこが不満な点でもあります。
赤本・貸本マンガ系は、大野きよし「鉄仮面」、手塚治虫の各作品、高橋真琴「パリ~東京」、前谷惟光「ロボット三等兵」、さいとう・たかを「台風五郎」、白土三平「忍者武芸帳 影丸伝」、水木しげる「墓場の鬼太郎」「河童の三平」「悪魔くん」、佐藤まさあき「黒い傷痕の男」、永島慎二「漫画家残酷物語」、山本まさはる「中村くんシリーズ」、みやわき心太郎「ハートコレクション」、平田弘史「闘魂」、園田光慶「アイアンマッスル」、矢代まさこ「ようこシリーズ」。ま、これじゃ足りないけどしょうがないか。わたしの好きな下元克己あたりまで望むのは無理かなあ。
おとなマンガ系のミーム=文化遺伝子(←これ便利なことばですね)を持ってるひとびとは以下。横山隆一「フクちゃん」、南部正太郎「ヤネウラ3ちゃん」、秋吉馨「轟先生」、小島功「仙人部落」、園山俊二「がんばれゴンベ」「ギャートルズ」、東海林さだお「新漫画文学全集」、砂川しげひさ「寄らば斬るド」、秋竜山「ギャグおじさん」、谷岡ヤスジ「ヤスジのメッタメタガキ道講座」、植田まさし「フリテンくん」。
戦後派に限ってるとしても、加藤芳郎はどうした福地泡介はどうした、という話は出てくるわけです。高橋春男はオレはどうなってんだと言いたいだろうし、最近おとなマンガ系でもっとも出版の多い二階堂正宏だっているはずです。おとなマンガに関しては、この本のもっとも弱いところ。
ガロ系が、楠勝平「おせん」、つげ義春「紅い花」「長八の宿」「ねじ式」「無能の人」、滝田ゆう「寺島町奇譚」、林静一「赤色エレジー」、赤瀬川源平「櫻画報」、安部慎一「美代子阿佐ヶ谷気分」、つげ忠男「無頼の街」、佐々木マキ「ピクルス街異聞」、鈴木翁二「東京グッドバイ」、やまだ紫「性悪猫」、蛭子能収「地獄のサラリーマン」、ガロ時代じゃないけど杉浦日向子「風流江戸雀」と近藤ようこ「見晴らしガ丘にて」、そして内田春菊「南くんの恋人」。テリー湯村は? 根本敬は?
エロ系は、石井隆「天使のはらわた」と山本直樹「あさってDance」だけで、その他の作家はほとんど無視です。ダーティ・松本みたいなベテランはどうか、ケン月影はどうか。
相原コージ/竹熊健太郎「サルまん」を選んだのはなかなかの見識です。でも、安彦良和が「王道の狗」でいいのかとか、福山庸治が「F氏的日常」でいいのか。いしかわじゅんはまったく無視されてるがどうか、「超人ロック」はどこ行った、とかね。もっとも手薄なのが2000年以降の今、活躍中の現代作家ですが、これはしょうがないかなー。
最大の欠落は、長谷川町子「サザエさん」が、ないっ。誰がどう考えても掲載すべき作家と作品ですから、これはもう、凡例に書いてあるとおり、「作者の希望で今回は掲載を見合わせた」例に違いないと考えますがどうか。
もしかすると、エンサイクロペディアのコンプリート版は、ネットの中でこそ可能となるのかもしれません。日本語じゃないですが、わたしがよく参照する英語のマンガ家紹介サイトはこのあたり。
http://www.bpib.com/illustra.htm
http://www.lambiek.net/artists/index.htm
前者は出版社が運営してまして、現在は100ちょっとの作家の紹介。それぞれかなり詳しい記述です。後者は書店が運営してるサイトで、なんと8000以上の作家が紹介されています。日本人作家も多く解説されている。小学館もこれくらいやってくんないかなあ。
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