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October 16, 2006

マンガの中の外国語:「のだめカンタービレ」の場合

(今回のエントリはコチラの続きになります)

 二ノ宮知子「のだめカンタービレ」では、クラシック音楽界が舞台だけあって複数言語がとびかっています。この作品で外国語はどのように処理されているでしょうか。

 この作品は今のところ、前半の日本編と10巻以降のフランス編に別れます。日本編での外国語は主に横書きで表現され、フランス編の外国語は主にフォントの違いで表現されています。

 「のだめ」の日本編にまず出てくるのが、2巻40ページの外国人教授ですが、最初のセリフは「デハ今日ハ第2楽章カラハジメマス」と縦書きカタカナでしゃべってます。2ページ後には「GET OUT!!(出てけー!!)」と横書きで叫んでますから、彼のセリフは英語だったようです。

 ミルヒーことシュトレーゼマンは日本語ぺらぺらという設定ですので、「ここで会ったがヒャク年め~♡」などとしゃべっていても、これはもう全部「日本語が下手な外国人がしゃべる日本語」なので、ちょっと特殊なタイプ。

 4巻に登場する、ミルヒーの秘書、エリーゼは、横書きでしゃべります。彼女に対して千秋が「Einen Augenblick!(ちょっと待ってください)」と呼びかけていますから、彼女のしゃべってたのはドイツ語ね。

 以後、「のだめ」日本編では、外国人がしゃべる言葉は横書きで表現されるようになりました。4巻99ページ、外国人講師が横書きで「弾いてください」、これに対してのだめが縦書きで「弾く? 弾くってなにを?」というギャグは、英語対日本語で会話されていることになります。

 8巻106ページ。カイ・ドゥーンという巨匠が縦書きで「カイ・ドゥーンです ヨロシコ」、これは日本語ね。その後、横書きで「ん? 君ドイツ語できるの!?」、ここからドイツ語に変化します。

 このように「のだめ」日本編の横書き外国語は、たいへんわかりやすい表現でした。

 例外として、日本編1巻12ページの回想シーン、子どものころの千秋と指揮者ヴィエラがしゃべってるとき、細いゴシック体のフォントが使用されています。あれ、これが外国語表現かな、と思うのですが、じつは回想シーンの会話文字はこのフォントで統一されていて、日本人同士でも同じゴシックが使われてます。というわけで、日本編ではフォントの違いによる外国語表現はありませんでした。

 もひとつ、5巻の特別編、少年時代の千秋の物語では、日本語外国語の区別をしないという、「のだめ」の中ではもっともルーズなフキダシ内表現を採用していました。


 さて、フランス編。日本人より外国人登場人物が多くなりますし、のだめたちもフランス語でしゃべることがほとんどになります。これでずっと横書きというのも読みにくいのじゃないか。ですから、フランス編で会話は基本的に縦書きされるように変化しました。そこで採用されたのがフォントの違いです。

 以前からマンガのフキダシ内のフォントは、漢字はゴシック体、ひらがなやカタカナは明朝体というのが標準でした。「のだめ」フランス編では、この「漢字ゴシックかな明朝」で書かれた部分は日本語、「全部ゴシック」で書かれた部分はフランス語であるとされました。

 おもしろいのは、複数の外国人と複数の日本人が同時に存在しているとき。日本人同士でもフランス語を使って、まわりに会話内容を伝えようとすることが多いのですが、たとえばフランス語が苦手な片平や、留学初期の黒木がまじると、彼らは日本語=漢字ゴシックかな明朝しか使っていません。フランス語が達者になると、共通言語としてフランス語をしゃべるようになるんですけどね。

 フランス語が強調されるときは、アルファベットでフランス語そのものが記載されます。フランス到着したときの10巻レストランのシーン。のだめがフランス語がわからないというギャグですが、「Est-ce que je peux prendre la commande?」とフランス人給仕は日本語訳なしでしゃべっています。

 10巻193ページ、レストランで日本人ゆうことのだめが日本語でケンカをしている。そこへフランス人ジャンがゴシック体で「ゆうこ!」と発言する。「ゆうこ」はフランス語でも日本語でも「ゆうこ」ですが、フランス人がしゃべってるからゴシック体。それに続いてアルファベットでフランス語のセリフが書かれます。つまり、日本語の会話中、フランス語が割り込んできたということが強調されているのです。

 11巻153ページ、レストランオーナーにゴシックで「この曲は弾けるか?」と譜面を渡されたのだめ、漢字ゴシックかな明朝で「ロッシーニの……なに?」 これに対してオーナー、ゴシックで「セヴィリャの理髪師」 日本語とフランス語が混じったシーン。

 しかし、ちゃんと読んでほしいギャグになると、フォントの違いだけではたよりない。10巻58ページ、日本人のだめとフランス人フランツが、それぞれの母国語でスカタンな会話をするシーン、のだめが漢字ゴシックかな明朝で、「試験の時ごちそうしてくれたお菓子」「あれどこで売ってるんですか?」 これに答えてフランツが全部ゴシックで「ボクの部屋にも遊びにきてよ!」 さすがにフォントの違いだけではわかりにくいギャグなので、それぞれ「日本語」「フランス語」と表示してあります。

 15巻72ページ、ディナーのときは当然フランス語会話なのですが、のだめと千秋がこっそりと漢字ゴシックかな明朝で、「バカ飲めよ一杯くらい」「ワインだけだぞうまいのは」なーんて言ってるシーン。これも「日本語」と表示があります。

 混乱しているのが中国のシーンです。11巻109ページで、千秋が中国スタッフと全部ゴシックでしゃべってますが、ここではフランス語なのか? そんなはずはないでしょう。11巻139ページ、孫RUIと千秋のデートシーン、ふたりは全部ゴシックでしゃべってます。さらに店員も全部ゴシック。この時期、RUIはフランス語しゃべれないはずで、店員もまさかねえ。本来、ここは英語のはずでしょう。あと、11巻176ページで、RUIママも全部ゴシックでしゃべってます。

 これが修正されたのが、13巻99ページ、孫RUIがパリに登場したシーン。フランス語の苦手な彼女は、ここでなんと、「漢字もかなも明朝体」でしゃべっていたのです。つまり、このシーンで、このマンガには日本語でもなくフランス語でもない第三の言語が表現されるようになりました。英語の登場。

 これにあわせて、千秋やRUIママも、RUIとしゃべるときは「全部明朝」でしゃべるようになります。つまり、英語ね。これに対してのだめは英語しゃべれないから、RUIに対しては「漢字ゴシックかな明朝」でしゃべったり、「全部ゴシック」でしゃべったり。これ以後、フォントによる外国語表現は、かなり複雑かつこまかく使い分けられるようになります。わかりにくいっ。けど、こまかく読むとおもしろいっ。

 最新16巻25ページ。オーケストラスタッフのテオが日本にいるデプリーストの妻に電話するシーン。ここは全部明朝ですから、おそらく英語。電話を千秋に代わって、全部明朝で「千秋です」←これはおそらく英語。これに対してデプリーストが漢字ゴシックかな明朝で、「やあ千秋」←きっと日本語。横からミルヒーが口を出すときは全部明朝で「ジミー」「マーメイド飲むー?」←きっと英語。ああっ、わかりにくいっ。

 というわけで、フォントに注目して読むことで、「のだめ」の世界がますます広がるのでありました。

 ただーし。

 こういう読み方をしてると、納得できないところも出てきまして、16巻153ページ、のだめと千秋がふたりきりでしゃべってるシーン。ここがなぜか全部ゴシックだっ。そんなはずはないだろう。ここは日本語=漢字ゴシックかな明朝じゃなきゃね。

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Comments

 マンガのセリフで「漢字ゴシックかな明朝」と書かれた部分ですが、これは「漢字ゴシックかなアンチック」というのが写植をベースに考えた場合、正しい表現になります。

 http://www.morisawa.co.jp/font/lib/ps_fonts/pskana_antiquej.html

 写植屋さんへの指定では「アンチG」「アンチゴジ」などと書きました。いまはコンピューターフォントで代用することも多く、明朝系の「リューミンライト」が使われることもあります。また、「漢字ゴシックかなアンチック」に似た「コミックフォント」というのも出ていますが、商業誌で使われているのかどうかは知りません。

Posted by: すがやみつる | October 17, 2006 at 10:02 AM

コメントありがとうございます。アンチック体という言葉を初めて知りました。今調べてみると、大正明治までさかのぼる由緒ある活字だそうですね。今回この文章書いたあと、書体に注目しながらマンガ読んでますと、一冊の雑誌の中でもけっこういろんな書体が使われてるものだなーと感心しました。

Posted by: 漫棚通信 | October 17, 2006 at 03:23 PM

アンチ。
編集さんんは「20Qアンチ」なんて級数指定をして
写植屋さんへ、ネームを写し取ったトレペを
渡していました。セリフは大体18Q~20Qくらい。
拡大率にもよるんですが…。

赤塚の「マガジン」時代には、講談社はビル地下?かに
子会社か関連の指定写植屋さんがあったらしい。
入稿時間が午後7時より遅くなると、受付てくれない。

ネームの遅れた赤塚は困った五十嵐記者に
「少年画報」専属のところに頼め!と言ってました。
ここはご兄弟でやっているところで、徹夜でやって
くれたんです。
「規則でいけないんですけれど、この際、そうします」
と、五十嵐記者。結構ベンリしたものですね。

お礼に、箱根の宿で「ドボン大会」をやるときに
お兄さんを招待し、「ここの賭場は全員女言葉で会話するのが
規則。男言葉で話したら、場に千円出すんだ」と言って彼を
困らせたりしたもんです。ズレましたね。

Posted by: 長谷邦夫 | October 19, 2006 at 09:30 PM

マンガ描き→写植の級数指定→写植制作→写植貼り込み。どれもこれも時間に追われた職人仕事でたいへんそうですね。今はほとんどDTPフォントなんでしょうか。

Posted by: 漫棚通信 | October 20, 2006 at 02:15 PM

京都精華大学が刊行し、関西方面では一般書店にも出た
「KINO」VOL・1の表紙に浦沢直樹の4色カラー
原稿が掲載されていましたが、写植だったので、ちょっと
ビックリしました。
『20世紀少年』でしたから。
DTPフォントはどのあたりまで浸透しているんでしょう。

専門学校製作の生徒同人誌ネームは
ウインドウズ・ワードの明朝。
出力して作者がハサミで切って貼ってます。(笑)

Posted by: 長谷邦夫 | October 20, 2006 at 07:58 PM

 講談社の写植を一手に引き受けていたのは、大山スタジオという写植屋さんです。1970年頃は、護国寺方向にちょっと歩いたビルの中にありました。

「少年マガジン」の下請け編集などしていた関係で、講談社の入稿方法も知っていたものですから、マンガ家としてデビュー後、深夜に講談社に遅れた原稿を持っていき、自分で入稿したことがあります。担当編集者が新人で、カラー原稿の入稿方法がわからないとのことだったもので。ネームの指定をしたトレペは「大山スタジオ」宛ての箱に入れ、原稿にもトレペをかけて、こちらには縮尺とカラーの指定をして印刷会社宛ての箱に入れて入稿……という手順でした。

 編集をやっていて色指定の知識もあったものですから、書き文字は色を塗らず、「金赤ベタ」「アイ100%、キ100%」などと指定ですませておりました。

Posted by: すがやみつる | October 24, 2006 at 04:16 PM

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