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October 12, 2006

岡野玲子インタビューふたつ

 今週のNHK「マンガノゲンバ」は、出演者が、天野ひろゆき、なぎら健壱、夢枕獏、中野晴行でありまして、取り上げられたのが星野之宣「宗像教授異考録」と岡野玲子「陰陽師」「妖魅変成夜話」だもんですから、なかなかに濃いメンバーと作品でした。だからといって番組がおもしろいというわけではない、というところがなんともですが。

 岡野玲子「陰陽師」は昨年全13巻で完結しましたが、この作品を読み解くことは大きな宿題として残されています。マンガ史に残る主要作品の中で、おそらくもっとも難解な作品でありましょう。プロットや表現は暗喩に満ち、作者は読者の百歩ぐらい前を歩いています。

 夢枕獏くらいじゃないと、この作品をちゃんと評価するのはムリじゃないのかな。でも原作者だから批評なんかするわけないし。わたしも知識がない、能力がない、とてもじゃないけど、陰陽師を解読するには力不足であります。だもんで、思考停止のままでした。

 今週の「マンガノゲンバ」では、陰陽師13巻の真葛が晴明を復活させようとする見開き2ページのシーンの原稿を見せてくれてました(といっても、13巻は見開きばっかりですけどね。ノンブルないから伝えづらいなあ、「十六 術」の回です)。

 陰陽師ってCG処理してるのかと思いきや、人物の絵にトレペを重ねて唐草模様を描いて、これが原稿では白で印刷される唐草。さらにもう一枚トレペを重ねて今度は黒で印刷される唐草が描いてある。うーん、あのもやっとした絵は、すべてアナクロで描かれ印刷段階で処理されたものだったのですね。

 あと、岡野玲子が筆でペン入れ、ってのも変ですね、筆入れしてるところも映ってました。背筋が伸びててかっこいい。墨も自分ですってます。

 インタビューがもひとつ。大阪芸術大学/小池書院が出してる「大学漫画」6号に、岡野玲子と作家柴崎友香の対談が載ってます。

 「陰陽師」、とくに12巻と13巻の難解な点は、まず、何でまたエジプトやらツタンカーメンが出てくるんだよう、わけわからんよう、というところなのですが、これに対して岡野玲子はこう語っております。

一般的にはギリシャ哲学の宇宙と数理と調和というのが哲学の基礎になってますが、実はその「以前」があって、古代エジプト文明には宇宙の根源的、調和的思想がすでにあって、それと同じくらい古く中国にも天地合一の哲学があったんです。

 だからエジプトだったの? 晴明の死と再生についても語られてます。

晴明と道満が対峙するシーンは、晴明を助けようとして働いている博雅や、保憲や真葛が、完璧に各々の役目をつとめればつとめるほど、晴明を死へと導いてしまうんです。それに気づいているのは保憲だけなんですね。対峙している晴明と道満はお互いの役割を了解している。その瞬間、殺と愛とが表裏一体であることがわかるんです。

 ごめんなさい、よくわかりません。

絹帯を締めてそのシーンを描き上げると、保憲が朗々と祭文を詠み上げる声が頭の中に聴こえて来て、実は真葛や博雅や保憲が打った一点や、五芒星や九字に晴明を蘇えらせる活路があることが、自分のハートから泉が湧き出るようにあふれて来てわかるんです。それが説話で有名な「射覆(せきふ)」の大柑子15個の数と一致していることも。

 ああ、わからんっ。射覆ってのは、晴明と道満が術比べをしたとき、長持の中の夏ミカン15個を晴明が術でネズミに変えちゃったという話ですが、いったい15にどういう意味が。

 というわけで、これで陰陽師読解の手がかりが、ちょっとだけつかめたような気が……やっぱしません。むずかしいわ。

 この対談では、陰陽師を全12巻と計画したのは、実は装丁の祖父江慎だった、なんて話もありまして、そりゃま、たしかに13巻よりは12巻だったほうがかっこいいですけどねー。装丁者がそこまでするか、というところは笑いました。

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