Bug-Eyed Girls
SF用語に「BEM」というのがありまして、これは「Bug-Eyed Monsters」の略です。昆虫のように目玉の大きな宇宙人や怪物を意味しますが、古典的な造形ですから今はほとんど死語に近いのかもしれません。
さてこれをもじって、少女マンガの登場人物を「BEG=Bug-Eyed Girls」と呼んだのは、米沢嘉博の初単行本「戦後少女マンガ史」(1980年)のオビでした。そのころは高橋真琴の絵などをイメージしてたのでしょうが、その後、一時小さくなってた少女たちの目は、今、史上もっと大きくなってるのじゃないでしょうか。いや、「ちゃお」とか「なかよし」方面での話です。
ウチの小学生が買ってる「なかよし」をときどき読んでるのですが、みんな目がでかい。ふつう、顔の縦の長さの三分の一が、目の縦方向の長さです。鼻は目の下線より、上にあります。へたすると上唇も、目の下線の上にあります。いやなんというか。
これはあれですな、突然変異的に大きな目が出現したのじゃなくて、目の大きさを競ってるうちにバランスを失して次第に大きくなってきたのだと見た。このまま行くと、顔の二分の一が目になるね。
最近の小学生向け少女マンガがどんなものかといいますと、ファーストキスがどうしたこうした、あこがれのきみがどうしたこうした、告白するのがどうしたこうした。ちょっとは恋愛から離れんかーいっ。ああ、オッサンが読んでると恥ずかしいったら。(←あたりまえです)
「なかよし」の看板連載のひとつ、今年の講談社漫画賞を受賞した、安藤なつみ/小林深雪「キッチンのお姫さま」というのがあります。お菓子作りの天才少女が、北海道から上京し、いじめられながらもコンクールに出場したりする物語。もちろん恋愛は大きなテーマのひとつです。ああ、なにやらなつかしい展開。大映ドラマみたいでしょ。
主人公は当然のごとく巨大目の持ち主で、設定やお話の展開には新しいところはあんまりありません。それがきっと今の小学生向け少女マンガなのでしょう。小学生読者はこれで、「お約束」とか「ベタな展開」を勉強している最中なのじゃないかな。毎回お菓子のレシピが掲載されてるところが、ちょっと実用的。
このマンガで、最近、意外な展開がありました。主人公は、同じ学校に通う兄弟から好かれ、彼女もふたりの間で心ゆれるという三角関係だったのですが、このうちのひとり、秀才の兄のほうが、このあいだ交通事故で死んでしまった。
三角関係、兄弟、交通事故、とくればこれはもう、あだち充「タッチ」だーと、ウチの小学生は騒いでましたが、わたしは「アタックNo.1」を思い出してました。まあまあ、子どものころにはそういうルーティンな展開や定型を知ることも大切、こういうのは本歌取りというてね、てなテキトーなことを言っておきました。
「なかよし」のなかでは、安野モヨコ「シュガシュガルーン」なんかまだ目が小さいほうですね。もっとも目が小さいのは、「ローゼンメイデン」を描いたPEACH-PITの「しゅごキャラ!」でして、これはけっこう萌え絵でオッサンでも読めます。この二作が今の「なかよし」ではもっともおもしろいとオッサンは思うのですが、ともに「なかよし」の主流マンガではありませんので、世間の小学生読者からの評価についてはわかりません。
Comments
これはおもしろいなあ。ドイツ人が描くドイツ少女が主人公のスポーツマンガ。少女マンガの造形そのままで、フツーにドイツ人なのですね。同人誌即売会を舞台にした少女マンガもあったりして、いやー、思わずいっしょけんめい読んでしまいました。ありがとうございます。
Posted by: 漫棚通信 | October 23, 2006 10:26 PM
http://www.tokyopop.de/buecher/manga/gothic_sports/index.php
ドイツ人の漫画家です。
向こうが少女漫画を書けばこうなるという見本なんですが、
皿のように大きくなくても普通に少女漫画って書けるものなんだとなぜドイツの女性漫画家に教えてもらうことになっているんでしょうね。
少女漫画がこのままいくと案外”本家”の欧州漫画家たちに本家取りをされてしまうのかもしれません。
ほら、基本的に少女漫画って白人を容貌的に人物表現の基本にしているみたいですから
Posted by: hawawa | October 23, 2006 06:16 AM