「刺繍」とは何でしょか
昨年発売されたマルジャン・サトラピ「ペルセポリス」1・2巻は、戦争下そして宗教圧力の強い社会で生きるイラン人女性の自伝的マンガで、それはまあ考えさせる、かつ感動の作品であったわけですが、今回、彼女の別の作品が翻訳されています。「刺繍 イラン人女性が語る恋愛と結婚」(原著は2003年)であります。
前作の14年にわたる暗く重い展開と違いまして、「刺繍」では9人のイラン人女性がお茶をしてるだけ。彼女たちの多くは親戚で、ふたりだけご近所の女性がまじってるのかな、年齢も経歴もバラバラ。ただし、イランではインテリで金銭的に余裕のある階層に属します。
家庭での女性だけのおしゃべり。テーマはタイトルにあるとおり、恋愛と結婚(とセックス)。自分や知り合いのセックスと結婚を、セキララと言いますか、ホンネで語ってみんなで大笑い。「初夜に処女を装う話」「56歳上の男性と結婚する話」「好きな男と結婚するためのオマジナイの話」「美容形成の話」などなど。
んで、タイトルの「刺繍」でありますが、イランではやってる女性の趣味か、伝統工芸かと思うでしょ。ところがこれは、かつては日本にもありましたな、「○○膜を縫いなおす手術」のことであります。おーい。これがタイトルかよ。わたしゃ腰がくだけました。
イランではけっこう普及してて、全面刺繍と部分刺繍があるらしい。ホントかっ。
基本的にお気楽な展開ですから、絵もゆるい。コマの枠は描かれず、背景もほとんどなし。人物とフキダシだけが宙に浮いてるページがほとんど。前作と違って楽しく読めるのでありました。
ただし、わたし、日本人男性高年齢オタク読者として、こういうお話はちょっとひっかかるところがありまくりなのですが、これはわたしが男のせいなのか、イラン-日本の距離のせいなのか。この作品、国籍を越えて女性にとって普遍的なものかどうか、よくわかんなくなって、同居人に聞いてみますと、少なくとも彼女はじゅうぶん共感できるぞと。
じゃあ、これはどうだ、日本人女性のホンネ(多くはオシャレ系諸問題について)を語った、岡崎京子「女のケモノ道」。これをイラン人女性に読ませたとすると、共感を得られるのかどうか。同居人はこれもOKなんじゃないかと。
うーむ、もしかすると、男と女の間に流れる河の幅は、国籍のそれより大きいのかもしんない。
Comments
日本の読者は世界一マンガを読んでますが、日本作品だけで完結していてかなり視野が狭いのは確かですね。マンガスタイルが進歩しすぎちゃって、それ以外のスタイルを受け入れられなくなってるのでしょうか。
Posted by: 漫棚通信 | September 19, 2006 02:29 PM
こんにちは。雑誌で見た話なのですが、「ペルセポリス」
の原作者、マルジャン・サトラピ氏の話が載ってまして、この作品、今度アメリカでアニメ化されるそうです。
しかし、この作品、世界的な反響を巻き起こした割には漫画の宗主国、日本ではついぞ話題になりませんね。
アメリカじゃコリンパウエルがこの作品に言及したり、士官学校で地域学習での教材に使われたりしたそうです。
OEL漫画、日本を避けて欧米で浸食させようとするマンファの例もあるのに、こんなに外部に無関係なことでいいのかなと思わずにいられません。
Posted by: はわわ | September 19, 2006 12:28 AM