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September 01, 2006

「虹ヶ原ホログラフ」をじっくり読んでみる(その1)

 さて、浅野いにお「虹ヶ原ホログラフ」であります。これはきつい。

 全一巻で完結しているとはいいながら、複数の加害者が複数の被害者を傷つけたり殺したりする複雑なプロットが、時系列じゃなくて時空をトビまわりながら語られます。しかも過去や未来の自分と出会うシーンがあるわ、何かの象徴である蝶が飛ぶわ、難解だなあ。

 ただし、絵や構成が破綻しているわけではなく、著者が読者に内容をきっちり伝えようと努力しているのがよくわかりますので、こっちも受けて立とうじゃあーりませんか。


■以下、当然のごとくネタバレしますので、未読のかたはご遠慮ください。というか、読んでないと意味不明だと思います。

■物語はかなり複雑で要約しづらいので、登場人物から攻めてみましょう。便宜上、小学校裏に虹ヶ原がある町を、虹ヶ原町と呼ばせていただきます。

(1)鈴木アマヒコ

 世界を滅ぼすことも可能なブリキ缶を持つ主人公。

 虹ヶ原町で、木村父、木村母の子として生まれる。木村有江とは(おそらく)双子の兄妹。木村母が木村父と離婚して鈴木父と結婚、連れ子となり埼玉へ転居。実の母の失踪後、鈴木父は鈴木母と再婚。以後、血のつながらない彼ら夫婦の子として育つ。

 東京の小学校でいじめにあい、屋上から転落。小学五年生のとき虹ヶ原町に引っ越したが、義母の精神は病んでいる。1年間で再度、他の地区に引っ越し。18歳で義母死亡。その後、義父死亡のあと虹ヶ原町に帰ってきたとき、妹・木村有江と再会。

「…運命によって離ればなれになった蝶が」「ひとつになって」「幸せな平穏な時間の流れに」「人は還る」

と小松崎によって予言されるように、アマヒコと有江の再会がこの作品のクライマックスとなります。


(2)木村有江

 トンネルの中の怪物が世界を滅ぼすことを知る少女。

 鈴木アマヒコとは双子の兄妹。父母の離婚後は、木村父とふたりで生活していた。トンネルの怪物の物語を、日暮兄からもらったノートに書く。日暮兄に強姦されたのち、同級生からのいじめにあい、トンネル内に転落。以後意識がない状態での入院が続く。11年後、意識を取り戻し、鈴木アマヒコと再会。

「トンネルの中の怪物が」「いつか世界を終わらせるよ」

 おそらく彼女は、預言者であるところの偉人=異人です。彼女は世界が滅ぶことを知っており、社会に受け入れられることはありません。


(3)木村父

 実の娘を性の対象にするペド野郎。

 木村父が木村有江に性的欲求を抱いていることは、勃起の描写であきらかです。プロローグで病院内でのSEXが描かれていますが、これはおそらく木村父が意識のない実の娘を犯しているシーン。ぼーっとした風貌ですが、まちがいなく悪人です。

 木村母と離婚後、木村有江とふたりで生活。彼女が意識をなくして入院後、スーパーマーケットに勤務。小松崎がスーパー店長を殺したとき、小松崎から首に傷を負わされる。木村有江が目覚めるのと同時に、自殺。


(4)木村母

 鈴木アマヒコと木村有江の母親。物語の中核となる人物。死後、蝶となって子どもたちを見守る。

 木村父と離婚後、アマヒコをつれて鈴木父と再婚。1年後失踪。さらに5年後、トンネル内で死体で発見される。発見したのは(おそらく)初潮をむかえたときの木村有江。

 死の原因は自殺とされていますが、木村父に殺されたのでないかという疑惑が、作中でくりかえしほのめかされています。


(5)小松崎航太

 もといじめっ子。スーパーナチュラルな能力を持つ。木村母のしもべとなり、予言者かつ殺人者として悪をほろぼす。

 さあ、こいつの要約がむずかしい。この登場人物をどう考えるかで、この物語の理解も大きく違ってくると思います。異論もあるでしょうが、わたしは上記のように考えます。彼の異質な能力が心の病と言われてしまえば、それまでですけど。

 小学生時代はいじめっ子のリーダー。木村有江が好きだった。子分の若松隼人から反撃され、トンネル内に投げ込まれる。以後精神的に不安定となり、成人するまで薬を服用。のち、スーパーマーケット勤務。スーパー店長を殺害、木村父を傷害。以後トンネル内に隠れる。日暮兄が荒川マキを殺そうとする寸前、日暮兄を殺害(に近いほどの傷をおわせる)。

 その後、荒川マキと都会のアパートに暮らすようになる。

 スーパーナチュラルな能力を持っていることは、子ども時代、木村父の黒いオーラを見るところからもわかります。いじめっ子のリーダーから転落した彼は、鈴木アマヒコの行くさきざきに現れ、思わせぶりな言葉をつぶやきます。

 雪の中、倒れた鈴木アマヒコを眺めながら、「…それでも君はまだ生きるんだ」

 木村有江の病室に現れた鈴木アマヒコに対して、「まだだよ」「目を覚ますのはまだ先の話」「その時までしばらくの間」「さようなら」

 プロローグで薬(←きっと精神系)を飲んでいるとき、いないはずの女性の手が彼を導きます。おそらくこれが、木村母が彼を召還したシーンでしょう。


(6)荒川マキ

 小学校時代、木村有江をいじめ、トンネル内に転落させる。成長して日暮兄の喫茶店でバイト。日暮兄に殺されそうになるところを、小松崎航太に救われる。

 以後、小松崎航太と都会のアパートに暮らすようになる。


(7)日暮兄

 純粋な悪人、かつサイコ。

 木村有江と出会い、彼女にトンネルの怪物の話を書かせる。木村有江を強姦しているところ、彼女の担任教師・榊恭子に見つかり、榊恭子に怪我を負わせる。自分の家に放火し、両親と妹を殺害。のちに喫茶店経営をしながら、その二階で木村有江を模した人形と共に、トンネルの怪物の物語を書き続ける。

 荒川マキを殺そうとしたとき、小松崎航太に殺害される(ほどの深い傷を受ける)。


(8)若松隼人

 もといじめっ子。ボスの小松崎航太に反撃して、彼を殴ったのちトンネル内に放り込む。成長してのち、警官になる。荒川マキが好き。


(9)高浜

 もといじめられっ子。成長してのちサイコとなり、小学校に侵入して児童を傷つける。


(10)榊恭子

 子どもたちの担任教師。日暮兄が木村有江を強姦しているのを目撃し、助けようとして日暮兄にブロックで顔を殴られる。のち、同僚の羽鳥と結婚。双子を生むが、自身の子どもを虐待しているらしい。


(11)スーパー店長

 もと小学校教師。スーパーマーケット店長に転身。遠藤父に、指を切断した保険金で借金を返せとせまる。成長した小松崎航太に殺害される。悪人です。


 このように、ほとんどすべての登場人物が、傷つけるか傷つけられるか(あるいはその両方)しています。陰鬱で陰惨な物語であるのも当然ですねえ。でもこれがわたしたちの住む世界の鏡像なのです。

 以下次回。

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Comments

とてもわかりやすくてよかったです

Posted by: くみ | December 12, 2008 11:44 AM

今日、この漫画を読んで、色々詰め込まれすぎて整理ができなくて・・・

井戸の中で暮らしてたのは誰?
お母さんは井戸に監禁されていたのでは?
木村娘は初潮ではなくてレイプ後?
お父さんから?喫茶店高校生の人から?

主人公のお父さんは木村父?
髭のよだれまみれの鈴木さんは小学校教師の父親=コンビニ経営の父親?

最後にアマヒコが木村娘を犯すのはなぜ
こいつさえいなければ?
心のよりどころ?ひとつになりたい?
立っているのはお母さん???

ホームレスになっていた女は鈴木母?

Posted by: mit | March 08, 2009 02:12 AM

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