しりあがり寿による「マンガ入門」
今、新書が売れてるそうですね。各社とも新書のタイトルは、マーケティングに基づいて練りに練られてるらしい。
で、しりあがり寿「表現したい人のためのマンガ入門」。背の部分には「マンガ入門」とだけしか書いてなくて、これも考えられた結果のパッケージなんでしょう。オビにはこうあります。
21世紀の自己表現法!
自分をプロデュースしてみよう まったく新しいマンガ入門書の登場!
タイトルが懐かしの「マンガ家入門」じゃなくて、「マンガ入門」なのが微妙なところ。プチクリをイメージさせようとしてる?
マンガ家とキリンビール宣伝部サラリーマンの二足のわらじをはいていたので有名なしりあがり寿ですが、会社員としては、デザイナーに発注する立場。すなわち、彼はクリエイターであり、編集者、プロデューサーでもあったことになります。
前半は、マンガ論、なんですが、著者の経験を生かした発言が、この本の中心でしょう。
●マンガには「商品」と「作品」という側面があります。「商品」の評価は読者が下します。
●ボクの場合(略)自分の中に「しりあがり寿」という作家と「しりあがり寿」を担当しているマネージャーがいます。作家である「しりあがり寿」いつどこでどんなことを考え出すかわからない、ヘンテコな「ケダモノ」であり、それを担当するマネージャーは、そんなヤヤコシイ「ケダモノ」を担当する「調教師」、あるいは飼いならす「オリ」といったところでしょうか。
●最終的には読者を喜ばすことが目的になるかもしれません。でもその前に必要なのは、発注者を喜ばす、ということです。
ううーん。読者の立場では、ぼーっと考えてはいたことですが、ここまできっちり指摘されると、なるほどそうかと、膝を打ちます。さすが日々商品として作品を売っている実作者の考えてることは違う。
著者は笑いについても考えています。笑いを「覚醒」と「麻痺」に分類します。前者は権威を笑うこと、風刺など、どちらかというとイジワルな笑いのこと。後者は失敗やドジを笑ってすます、その場をうやむやにする笑い。そうか、こういうリクツを考えながらマンガは描かれているのか。
後半は自伝と自作解説。こんなマンガが描きたいんだという心の叫びが表現されてる部分。そしてこう描いてきたという自負もあるところ。ここ、熱く語られてます。
しりあがり寿はやたらに作品数が多いので、さすがに全部は追っかけきれてないですが、相当数は読んできたつもり。それでもこの本を読むと、作家の全貌はつかめてないなあと思ってしまう。なかなか奥の深いひとです。
Comments
はい。
彼ならもっともっと面白い
マンガ入門が書けるはず~って
思ってるんです。
どうも新書は、編集部の注文が多いのでは
ないでしょうか。
編集部の「つくり」で売れる~といった…。
そんな印象を受けました。
点の辛い分は編集部批判?!なのかも。
Posted by: 長谷邦夫 | August 13, 2006 08:23 PM
たしかに分類しづらい本ではあります。それにしても65点はちょっと辛すぎじゃないでしょうか。
Posted by: 漫棚通信 | August 13, 2006 01:21 PM
宇都宮パルコ・紀伊国屋で入手。
う~~~ん、なんか、ちょっと
ポイントがはっきりしない
本でしたね。
しりあがりサンにしては、65点
かなあ~。
Posted by: 長谷邦夫 | August 13, 2006 12:33 AM
コメントありがとうございます。「マンガ入門」のはいってる講談社現代新書は、大塚英志の諸作品とか、ササキバラ・ゴウ「美少女の現代史」、山崎敬之「テレビアニメ魂」、東浩紀「動物化するポストモダン」、古くは夏目房之介「マンガと戦争」とか、なかなかのラインナップだと思います。各社からまんべんなくマンガ関連新書が出てる気もしますが、競争はキビシイのですね。
Posted by: 漫棚通信 | August 05, 2006 09:35 PM
3軒ほどの書店で見ましたが、無かったです。
売れてしまったのかなあ~。
ある編集者から、マンガに関するものでいいから
新書の企画を立ててくれと依頼されました。
しかし彼が売り込みに行ったら、新書判は読者が
オジサンだから、やらないと三社から断られて
しまいました。
面白いから、もう書き出していいよ~とまで
気に入ってもらった企画でしたが…。
しりあがりサンは、新聞・中年週刊誌もこなす
著名マンガ家ですから、この点では文句ない。
今年、アニメ試写会で初めてお会いし、お話し
しました。
Posted by: 長谷邦夫 | August 05, 2006 09:07 PM