清水おさむの自伝マンガ「JUKU ジュク」
アニメ絵が日本マンガのエロを席巻する以前、かつて、「三流劇画」「エロ劇画」あるいは「三流エロ劇画」と呼ばれた作品群がありました(どう考えても、ひどいネーミングですが、この時代のこれら一連のマンガはすでに歴史上のものになってしまってて、この呼称しかないんですよ)。
「エロトピア」「漫画エロジェニカ」「漫画大快楽」「劇画アリス」らの雑誌に掲載された作品は、どれもアナーキーな魅力に満ち、マスコミにもとりあげられ、短い間でしたがある種のブームとなりました。
別冊新評が「三流劇画の世界」を特集したのが1979年。ニューウェーブと三流エロ劇画が混在していた時代です。
その中心人物のひとりが清水おさむでした。
首は飛ぶわ乳房は切られるわの、過激な作品が特徴。「別冊新評 三流劇画の世界」でも、作家代表として中島史雄とともに座談会に出席していました。
数年前、清水おさむ/清水ひろ子「劇画 最後の弾左衛門」(批評社)を見つけたとき、おおっと、清水おさむだあ、と思ってこのぶ厚い上下巻を買いました。内容は、江戸時代の被差別民の頭領だった弾左衛門、その最後となる十三代目弾左衛門直樹を主人公としたマンガ。
批評社が発行している塩見鮮一郎の小説「浅草弾左衛門」を参考に描かれたもののようです。時代劇らしく、勢いのある太く荒々しい線で描かれたマンガで、首が飛ぶシーンなどを除けば、かつての清水おさむじゃないみたい。
この本の著者略歴を見ると、エロ劇画時代の履歴がまったく書かかれていませんでした。この清水おさむは、わたしの知ってる清水おさむとは別人なのか、としばらく悩みましたよ。どうも、清水おさむにとっては、エロ劇画時代には複雑な思いがあるようです。
彼の自伝マンガ「JUKU ジュク 私の実録新宿歌舞伎町」が発売されています。
埼玉県に住む白土三平の忍者マンガが大好きな高校生、水町努(美少年!)が、新宿の喫茶店コボタンに行って、怪人・つゆきサブローこと杉本五郎に出会う。その後、アニメーターを経て、ひばり書房で単行本デビューするまで。まだエロ劇画時代には到着していません。
ところが、その途中で主人公はヤクザに監禁されて覚醒剤を注射されたり、マスクをかぶって夜のショーでダンスをしたり、ヤクザとオカマのクラブママの「コドモ」として女装して遊んだり、どうにもこうにも波乱万丈の人生らしいのですが、このあたり、意外とあっさり流されてて、ヒトコマだけの説明で終わったりします。もっと読ませてくれよう。
そのかわり、絵の描き込みとセリフの多さがスゴイ。三島由紀夫の切腹シーン、自身の美しい母親の描写、ヤクザの戦争中の体験などが、これでもかと描き込まれます。
バランスを失した構成もなんのそのの過剰さ。著者の内部でも整理できていないのでしょう。吾妻ひでお「失踪日記」のごとく自身を客観化することがいかに困難なことか、よくわかります。
傑作ではありません。でも、著者にとっても制御できない思いを読むのは、わくわくするような読書体験でした。
第一部完ですが、続くのかな?
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