「月館の殺人」下巻を読む楽しみ
佐々木倫子/綾次行人「月館の殺人」上巻を読んで、『「月館の殺人」を推理する』というタイトルのエントリを書いたのはもう一年前。以後ずっと、下巻が出るのを楽しみにしてまして、やっと全貌を知ることができました。
上巻は第一の死体が発見されるまででしたが、下巻になるとこれが連続殺人であることが明らかになります。
推理マンガは通常のマンガとは違います。普通、連載マンガは連載当初にこれでもかというくらい見せ場をつっこんで読者を引きつけないと、連載中止になっちゃう可能性が常にある。感動の大団円を用意してても、そこまで連載が続かないと意味がありません。ですから、全体の構成を無視してバランスを崩してでも、それぞれの回に全力投球する。
これに対して、推理マンガは最終のできあがりがすべて。それぞれの回の描写のひとつひとつが伏線かミスディレクションであるべきで、あらゆるものが最終回に向けて収斂していく。この点で「月館の殺人」は、たいへんおもしろく読みました。
下巻はもしかすると謎解き部分を袋とじにするかも、と思っていましたが、謎解き以降の紙の色を変えるという造本でした。これはよかった。主人公が、「わたし… わかった──」と言ったあと、本を置いて、もっかい上巻から読み直しだー。
■以下、トリックをバラします。未読のかたはくれぐれも読まないように。
えー、上巻から読み直した結果、わたし、ラストの謎解き以前にメイントリックはわかりました、えっへん。証人は、わたしの同居人しかいませんけど。
連続殺人が起こるとき、死体○○の順と△△の順が違うのはよくありますから、なれた読者は疑いながら読んでます。腕時計を持ってたはずなのに×××してたのが決定的。この部分、推理の根拠となる部分をフェアプレイですべてマンガの絵として見せたのは、おみごとです。TV「安楽椅子探偵」パターンですな。
推理マンガかずかずあれど、ここまできっちりやってるのはなかなかないんだ。さらに、テツどもの狂騒的なドタバタやウンチクも、黒死館殺人事件の衒学趣味などと同じく、トリックを隠すためのミスディレクションだったのね。
ただし、○○を殺したのが、実はあのときの××だったというのはわかんなかった。ここがわたしの詰めの甘いところ。くやしー。
造本で、もひとつ。原作者あとがきが、裏の見返しと表3の真っ黒なページに黒字で印刷してあります。しゃれてるけど、読みにくいぞっと。その前のページには、黒ページに黒で印刷された主人公も描いてありますよ。デザインは祖父江慎。
Comments
情報ありがとうございます。IKKIのほうでも特集されてますね。テレプシコーラの続きも気になるし、立ち読みというわけにもいかんでしょう。
Posted by: 漫棚通信 | August 03, 2006 11:18 PM
まもなく発売の「ダ・ヴィンチ」9月号の「コミック ダ・ヴィンチ」で「月館の殺人」を特集しております。
作品ができるまでの経緯や過程などを紹介していますので、立ち読みしてください。
Posted by: なかのはるゆき | August 03, 2006 04:09 PM