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July 06, 2006

デスノート完結

 小畑健/大場つぐみ「デスノート」12巻で完結。いろんな情報にはあえて一所懸命耳をふさいでいましたので、単行本でやっと読めました。

 総合的な評価として、傑作と考えます。いや、たいしたもんだ。

 きちんと終わってるじゃないですか。少年誌で悪人を主人公にするからには、主人公が破滅する以外の結末はありえない。あとは、最後に主人公が改心するかどうかですが、これは夜神月をこういう極悪キャラクターにしたからには、必然の結末でしょう。

 作劇から言うと、デスノートが世界を支配する寸前までの展開を見せておいて、どんでん返しで主人公の敗北、というパターンは、限りなく理想に近い。(1)キラとエルの戦い→(2)キラの勝利、エルの死→(3)キラによる世界征服、キラとエルの後継者の戦い→(4)キラの敗北、という王道的なストーリーが、週刊連載、しかも人気で展開が変わると言われるジャンプで、よくもまあ可能だったと感心してしまうのです。

 ですから、エルの死のあとの中だるみ的な展開も、すべてはラスト1巻への布石。最終12巻には、キラとニアの知能戦以外にも、以下のような見せ場があって盛り上がります。

(1)連載1回分を費やしての、キラとニアの道徳問答。全編を通じて、ほとんど初めて、悪とは何か、正義とは何かを議論するシーン。こういうのは連載初期にあってしかるべしと思うのですが、このシーンをラストまで引っ張ったのも、著者の計画どおりでしょう。

(2)キラの死に際の醜態。悪をけっしてカッコよくは死なせない。殺人を扱ってきたマンガとして、倫理の最後の一線はここにあります。

(3)エピローグ的な松田による推理。ニアがデスノートを使ったかもしれないとにおわせるとは、善も悪も等価である可能性の再度の提示です。このマンガのゲーム性を強く示唆させる部分。

(4)キラ教団の成立。カルトと言えばそうですが、キラ復活を願うひとびとを登場させ、さらにもう一度、悪とは何か、正義とは何かの問いかけで終わります。

 さて、デスノート全編を読み直してみますと、マンガとしていかにもよくできている。

 まず全12巻というコンパクトなパッケージ。人気のある日本の週刊誌連載マンガとして、破格の短さです。ところが、大量の会話文は論理を追うのがたいへんで、読むのにやたら時間がかかる。こういうマンガはほとんどなかった。その間をもたせる演出は、エルのお菓子や、ニアのおもちゃです。

 これを可能にしたのが小畑健のすばらしい作画。静的なシーンが続いても飽きさせることはない。キャラクターの描き分けは的確。写実的で、かつ萌え絵であるという、アクロバティックなことを成功させてもいます。

 マンガ的におもしろいのは目の表現です。黒目には光が入れられるのが標準となっている現在の日本マンガで、エルとニアには、あえて真っ黒で光のない大きな黒目を持たせ、何を考えているのかわからない人物として表現しました。

 そして、変幻自在に変化する、月=キラの黒目の大きさ。他の登場人物に見せる顔と、読者に見せる顔を黒目の大きさで描き分ける。さらに最終巻が近づくにつれて、キラの目からも光が消えていきます。主人公は、この変化する黒目、無邪気な表情と三白眼を使い分けて、ハンサムな主役でかつ極悪な悪役を演じきりました。

 この作品は、大量殺人を扱いながらも、死神を登場させることでファンタジーの衣をまとい、ミステリと同じように知的エンターテインメントとして受け入れられ、現代の日本では、幸いにも社会的非難(教育上よろしくないっ、とか)を浴びることはありませんでした。マンガを巡る状況の変化とも言えるでしょう。

 将来も、古典として残りうる条件がそろった作品です。絶賛しておきますね。

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Comments

デスノートやっと読み終わりまして、遅ればせながらのコメントです。

ネームの日本語がこなれていない、わかりにくいことが最後まで気になりました。

でも、やっぱり傑作。楽しめました。

Posted by: osunupapa | July 20, 2006 04:19 PM

作者の意向が強くても、なかなか止めさせてもらえない「少年ジャンプ」が、人気のあるマンガを、最良の形で完結させてくれたことが、奇跡です。
ゲーム性が強いので、引っ張れば引っ張れたのではないでしょうか。たった12巻で終わりにするのはもったいないと、編集部は思ったはずなのだが。
あっという間に終わってしまったので、前作同様、何か、差別がらみで、終わりにさせられたのかと思った。

Posted by: momotarou | July 11, 2006 01:01 PM

はじめまして。
私も、これ以外ないというくらい綺麗な終わり方だったかなと思います。満足です。
少年誌だから極悪である月を格好よく退場させることができなかった、とはよく言われていますが、個人的にはむしろ、「ヒーロー」であった月を無様に終わらせるというこの結末のほうが、少年マンガらしくなかったのではないかと。
だからこそ、多くの少年マンガ好きに拒絶されるリスクを知った上で、それでもこの結末を選んだ作者には拍手を送りたいと思います。

Posted by: ビーフハート | July 11, 2006 09:59 AM

コメントありがとうございます。デスノートの元ネタとされている水木しげる「不思議な手帖」も、ラストは手帖を使う人間の破滅です。やっぱこれ以外の結末はないでしょ。

Posted by: 漫棚通信 | July 10, 2006 09:18 PM

 実は私もデスノートは単行本で読もうとしていまして連載で1巻と2巻の途中までを読んで、以降全く情報を入れていませんでした。
 そして、映画を観ました。これについては私の持っている情報は絶妙で、中途半端な知識がかえって映画も楽しめました。
 それから、マンガの大人買いで一気に全巻を読破しました。時間的には通常より3倍はかかりましたね。やはり、面白かった。
 感想という点では、漫棚通信様の書いているとおりです。ただ、1,2巻しか読んでいなかった(それも連載分)私は、映画でこのような感想を持ってしまったんです。私のブログからの抜粋です。
「夜神月が、頭良く見えなかった。少し正義感の強い坊やが力を手に入れたぐらいの設定に見えた。新世界の秩序との件のセリフなど、少し演劇風すぎてほんとアホに見えた。(誇大妄想の犯罪者ってか!)Lも頭脳明晰な部分がわからず残念。」
 ところが、Lの死以降、後半の月はダメダメの誇大妄想犯罪者の色が強くなってピカレスクロマン(設定が恵まれすぎだが)かアンチヒーローとして感情移入が出来なくなる。まさに、映画の演出どおりなのである。あああ~~。
 個人的には、登場時のカッコイイ月が犯罪者には鉄槌を下し、追っ手には苦悩しながらも非情に排除する。そして、破れるときも格好良く死んでいく。そして、読者に正義と悪についてバランスよく考えさせる。
 って、少年誌では、殺人者をヒーローには出来ないですもんね。
デスノートのヒットでジャンプの懐の深さを知りました。恐るべしジャンプ。

Posted by: ラッキーゲラン | July 10, 2006 05:14 PM

コメントありがとございます。デスノートにつきましてはわが家では、同居人その1が「前半はおもしろかったんだけどね」派、同居人その2が「あと出しじゃんけんのごとくあとから設定がいっぱい出てきてわけわからん」派で、絶賛してるのはわたしだけ、という状況です。でもやっぱり傑作、と言いたいっ。

Posted by: 漫棚通信 | July 07, 2006 08:28 PM

 初めまして。当方50歳代の女性マンガ読みです。しばらく前にこちらを知り、すっかりはまって毎日のようにお伺いし、楽しく読ませていただいています。HPの方も読んだのですが、あまり興味の無いアメコミや外国マンガの欄はまだ全部読んでいません・・・。凄い量なんですもの。
 
 先日、デスノートの映画の方を見てきました。マンガの方ももちろん読みたいのですが、私はマンガ喫茶で読むのが主なので、(興味の有るもの全部買っていたら、倉庫がいりますものね) まだ未見です。この記事を読んでいよいよ見たくなってきました。

 「COM」の記事など懐かしく(創刊より70年頃まで持っています)今後とも、楽しみにしておりますので、宜しくお願い申し上げます。

Posted by: トミー。猫とマンガとゴルフ~の管理人 | July 07, 2006 01:38 PM

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