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July 21, 2006

ミー・ターザン! ユー・ジェーン!(その1)

 タイトルにしているのは、映画のなかで、英語を覚え始めたターザンが、たどたどしくジェーンに言ったことばです。あちこちでギャグに使われてからは、男性がこれを叫んでから女性を押し倒すという、エッチなシチュエーションをイメージしちゃいますけど。

 手塚治虫の最初のヒット作「新宝島」(1947年)にも、バロンという名のターザンに似た青年が登場していました。手塚には「ターザンの秘密基地」「ターザンの洞窟」「ターザンの王城」というタイトルの作品もあり、著作権どうこうは別にして、戦後すぐ、日本ではターザンブームだったのがよくわかります。手塚以外の赤本マンガにも、ターザンが登場するのがいっぱいあったらしい。

 それでは、ターザンとは何者だったのか。

 これはもう、誰もが知ってるとおり、アフリカのジャングルで、あーあーと叫びながら、半裸で、ツタにぶらさがって移動する、白人ヒーローです。史上もっとも有名なヒーローキャラクターと認定されたこともあるそうですよ。

 日本では、ハヤカワ文庫でイラストを担当していた武部本一郎の描くターザンが有名。

 ターザンは1912年、アメリカ人、エドガー・ライス・バローズ Edger Rice Burroughs の手によって誕生しました(創元では“バローズ”、ハヤカワでは“バロウズ”ですが、とりあえずこの文章ではバローズで表記していきます)。

 バローズは「火星のプリンセス」で作家デビューしましたが、第二作の原稿は出版社からつき返されてしまいます。その後書いたのがターザンシリーズの最初の作品「Tarzan of the Apes」(ハヤカワでは「類猿人ターザン」、創元では「ターザン」)です。この作品は成功し、以後ターザンシリーズは1944年まで書き続けられることになります。

 しかしターザンが世界的に有名になったのは、やはり映画によるものでしょう。1918年、最初のターザン映画が公開されました。主演はエルモ・リンカーン。彼は「見るからに役にぴったりな、強い男だった。ひどく毛深いたちで、観客が類人猿と見まちがえないように、日に二度は毛を剃らなけりゃならないほどだった」そうです。ちょっとこれはヒトとしてどうかと思うぞ。

 この映画は大成功し、日本でも、翌1919年に公開されています。ターザン映画は主役を次々と変えながら多数の作品が作られ、多くが日本でも公開されました。ジーン・ポーラー、P・デンプシー・テイプラー、ジェームズ・H・ピアース、フランク・メリル、ときて6代目がジョニイ・ワイズミュラーです。

 水泳オリンピック・チャンピオンの肉体美。トーキー時代になって、裏声のあーアアアあーアアアあーが評判になりました。ただしこの声はワイズミュラーの声じゃなくて、人工的に作った音だそうですけどね。

 ワイズミュラーの第1作「類猿人ターザン Tarzan the Ape Man」(1932年製作→日本公開も同年)、これがターザン映画の最高傑作との呼び声が高い作品。第2作「ターザンの復讐 Tarzan and His Mate」(1934年→同年)、第3作「ターザンの逆襲 Tarzan Escapes」(1936年→1937年)、第4作「ターザン猛襲 Tarzan Finds a Son!」(1939年→同年)までが戦前の日本でも公開されました。

 ワイズミュラー以後の戦前公開ターザンものとしては、ドロシー・ラムーア主演の「ジャングルの女王 The Jungle Princess」(1936年→同年、役名は“Ulah”)なんてのもありました。

 そして敗戦。

 ターザン映画は戦後すぐから輸入再開され、まず日本で公開されたのが、8代目ターザン、ハーマン・ブリッグス主演の「鉄腕ターザン」(1938年→1946年2月)。これは連続活劇をまとめたものでしたが、ワイズミュラー主演のものも、前述の「逆襲」(1936年→1946年)、「猛襲」(1939年→1947年)も戦後すぐリバイバル上映されました。「復讐」(1934年→1953年)も遅れてリバイバルされてますし、その他にもこんなターザン映画が。

「ターザンの黄金 Tarzan's Secret Treasure」(1941年→1948年)
「ターザン紐育へ行く Tarzan's New York Adventure」(1942年→1950年)
「ターザンの凱歌 Tarzan Triumphs」(1943年→1948年)
「ターザン砂漠へ行く Tarzan's Desert Mystery」(1943年→1949年)
「魔境のターザン Tarzan and the Amazons」(1945年→1951年)
「ターザンと豹女 Tarzan and the Leopard Women」(1946年→1950年)
「ターザンの怒り Tarzan and the Huntress」(1947年→1949年)
「絶海のターザン Tarzan and the Mermaids」(1948年→1952年)

 ここまでがワイズミュラー主演のもの。これ以後は10代目レックス・バーカー主演。

「ターザン魔法の泉 Tarzan's Magic Fountain」(1949年→1953年)
「ターザンと密林の女王 Tarzan and the Slave Girl (Tarzan and the Jungle Queen)」(1950年→1954年)
「ターザンの憤激 Tarzan's Peril」(1951年→1953年)
「ターザンと巨象の襲撃 Tarzan's Savage Fury」(1952年→1955年)

 ここから11代目ゴードン・スコット。

「ターザンと消えた探検隊 Tarzan and the Lost Safari」(1957年→同年)
「ターザンの激闘 Tarzan's Fight for Life」(1958年→同年)
「ターザンの決闘 Tarzan's Greatest Adventure」(1959年→同年)
「ターザン大いに怒る Tarzan the Magnificent」(1960年→同年)

 以後13代目ジャック・マホニー。

「ターザンと猛獣の怒り Tarzan Goes to India」(1962年→同年)
「ターザン三つの挑戦 Tarzan's Three Challenges」(1963年→同年)

 以後14代目マイク・ヘンリー。

「ターザンと黄金の谷 Tarzan and the Valley of Gold」(1966年→1967年)
「ターザンの大逆襲 Tarzan and the Jungle Boy」(1968年→1970年)

 このあとボー・デレクがエッチなジェーンを演じた「類猿人ターザン Tarzan, the Ape Man」(1981年→同年)とか、原作を忠実に映画化した人間ドラマ「グレイストーク -類人猿の王者- ターザンの伝説 Greystoke: The Legend of Tarzan, Lord of the Apes」(1984年→同年)などもありました。

 いちばん最近のターザンは、ディズニーのアニメーション「ターザン Tarzan」(1999年→同年)かな。

 もちろん、日本公開されなかったターザンは、それこそ山のようにあります。

 やっぱ日本での公開は、ワイズミュラーがダントツに多いです。ワイズミュラーはターザン以外にも同工異曲の作品にも出演してます。以下の「ジャングル・ジム」シリーズ。原作は、「フラッシュ・ゴードン」で有名なアレックス・レイモンドが描いたアメコミです。戦前にジム・ブラッドリー主演で制作された連続活劇のリメイクになります。

「ジャングル・ジム Jungle Jim」(1948年→1950年)
「ジャングルの宝庫 The Lost Tribe」(1949年→1951年)
「密林の黄金 Mark of the Gorilla」(1950年→1951年)

 日本公開はこの三作だけのようですが、アメリカでは1948年から1954年にかけて13作も製作されました。

 さらに、もちろんターザンはテレビシリーズにもなっています。日本で放映されたターザンものにはこんなものがありました。

●ジャングル・ジム Jungle Jim
 放映は1956年。ジョニイ・ワイズミュラーが主演した上記ジャングル・ジムの映画シリーズをテレビ向けに再編集したもの。のちに1964年にも再放送されました。

●ジャングルの女王 Sheena, Queen of the Jungle
 1957年放映、アイリッシュ・マッカラ主演。ブロンドの白人娘が女ターザンとして活躍。

●ジャングル・ボンバ Bomba, the Jungle Boy
 1963年放映。主演のジョン・シェフィールドは、1939年から1947年までワイズミュラー版ターザンで「ボーイ」を演じていた少年。といっても実の息子じゃなくて、両親がジャングルの飛行機事故で亡くなって、ターザンとジェーンの養子になったという設定で、もちろん白人。このシェフィールドの主演で1949年から作られた映画がボンバ・シリーズです。1931年生まれですから、このとき18歳でお若い。1955年までに12作が作られ、テレビ版はこれを再編集したもの。

●ターザン Tarzan
 1967年放映。ロン・エリー主演。それまでのターザンのイメージをくつがえし、原作どおり教養豊かなターザンを描いたもの。

 ん? 教養豊かなターザン? ターザンってそんなひとだったっけ。

 以下次回。

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