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May 31, 2006

必殺のクロスカウンター

 前回のエントリにみなもと先生にコメントいただいて以来、「あしたのジョー」を再読しておったのですが、いやまあ、何度読んでも、名作。

 ただしそれとは別に、ヘンなところもいろいろありまして、マンガがまだ若かった時代と言いますか、それも含めて面白い。

 たとえば、空飛ぶボクサー、ハリマオの空中2回転。どう考えても物理法則を無視しているとしか思えません。

 あるいは、ジョーが減量で苦しんだ金竜飛戦のあと、ウエイトで悩むことはなくなります。これについての丹下段平の説明が、「あれだけ過酷な減量をやりぬきそいつを克服したってこたあ いままでのジョーの体重に水ましの要素があったってことさ」 そうか? そのひとことですませていいのか?

 さて、クロスカウンターであります。

 クロスカウンターは、作中でも説明されているように、梶原一騎の発明ではなく、ボクシングのテクニックのひとつ。ただし、「あしたのジョー」世界のクロスカウンターは、かなり奇妙なものでした。

 最初にクロスカウンターが登場するのは、少年院のブタ騒動のあと、ジョーと力石の初対決のシーン。ジョーの右ストレートをひょいとよけた力石が、右ストレートをジョーの顔面に打ち込む。見ていた院生から、「で…出た…」「り…力石さんの必殺クロスカウンター」

 しかし、これ、実はクロスカウンターではありません。本当のクロスカウンターは、相手の右ストレートに対して左ストレートあるいは左フックを、左ストレートに対しては右のパンチを合わせるものですから、力石のはクロスでもなんでもない。つまり、この観客の院生は、まわりのみんなや読者にウソを教えているわけで、いけませんね。反省しておくように。

 これに対して、丹下段平がジョーに「あしたのためにその3」として伝授したクロスカウンターは、左ストレートに対して、右ストレートを合わせるもの。その意味では正しいのですが、なぜかジョーは、相手の左ストレートを顔面で受けるのです。そしてほぼ同時に出した自分の右ストレートも相手の顔面に。

 これ、どう考えても相打ちとしか思えませんし、実際、少年院の試合では、ジョーと力石はダブルダウンしちゃうのです。「あしたのジョー」世界では、丹下段平がこのように説明します。

「ましてやクロスさせたばあい」「あいてのうでの上を」「交差した自分のうでがすべり」「必然的にテコの作用をはたして」「三倍…いやさ四倍!」「思うだに身の毛もよだつ」「威力を生みだす!」

 どこがテコやねーん! と、おそらく当時の読者の三分の一ぐらいはツッこんだ説明であります。さらに四倍てのは誰がどのように計算した数値かっ。

 だいたいクロスカウンターで、いちいち相手のパンチを顔で受けていては、ボクシングとしてあかんでしょ。腕が長いほうが有利なパンチにしか見えません。ところが、ジョーはこの後、この顔で受けるクロスカウンターを自分の必殺技として多用することになります。

 そしてウルフ金串戦。

 ウルフ金串が左ストレート。ジョーがこれに合わせて右ストレート。ウルフは左ひじを曲げてジョーの右手をはじきとばし、右ストレートをジョーの顔面に。これが、ダブル・クロスカウンターであります。ジョーはこれを3回もくらってしまう。ジョー、危うし!

 ところが、ウルフの右ストレートに対してさらに左ストレートを合わせたジョー。これぞ、トリプル・クロスカウンター! テレビ解説者の説明によると、

「わかりやすく数字であらわすとすれば」「ふつうのクロス・カウンターでさえ四倍」「ダブルクロスとなれば八倍」「トリプルとなっては十二倍もの破壊力があるといえるでしょう」

 いや、それはないない。

 今度の説明には、当時の読者の三分の二がツッこみましたね。

 当時のわたし、ガッコで同級生と、左ストレート、に対してクロスカウンター、をはじいて右ストレート、に対してまたクロスカウンター、をはじいて左ストレート、に対してまたまたクロスカウンター、をはじいて右ストレート、と延々とくりかえして遊んでました。何回くりかえそうが、カウンターはカウンター。十二倍なんて数字は出ませんです。

 プロでのジョー対力石戦では、クロスカウンターの読み合いの末、力石が放ったアッパーカットで決着がつきました。

 ジョー、最後の戦い、ホセ・メンドーサ戦の最終ラウンド。ジョーがひさしぶりに見せたクロスカウンターは、相手の左ストレートの内側を右ストレーがとおる、普通のクロスカウンターになってました。テコの原理はもうなしね。

 でもさらにそのあとに見せたジョーのトリプル・クロスカウンターは、昔ながらの顔で受けるタイプ。「あしたのジョー」は、クロスカウンターに始まりクロスカウンターに終わったのでした。

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Comments

私がよけいな事を書いたおかげで、漫棚さんにオマケ仕事をさせてしまったようで、相スミマセン。
私は年齢的にクロスカウンター確認ごっこはしておりませんが、梶原原作に限らず、マンガの嘘は楽しむっきゃ無いと、恐らく多くの方々同様の気分を抱いております。ちば先生は「紫電改のタカ」を描かれた時、必殺技・逆タカ落しは物理的に不可能なのでためらっておられた所、編集部から「そんな事言ってるようじゃ、漫画家失格だよ」的なことを言われ、それ以来嘘も割り切って描くようになられたそうですね。出典は忘れましたがソコソコ有名な話です。まあ「ハリスの旋風」でも主人公・国松と大番長の対決は十倍くらいの身長差があり、番長の片手で国松の全身が握り込まれたりしてますから、まるでゴジラですわ。
それはそれとして、ここでまた話を戻してしまって申し訳無いのですが「川崎のぼると園田光慶」、もちろん共に「さいとう・たかを貸本劇画」に大影響を受けた(というより、共に進んできた)世代の方ですから、絵柄が似てしまうのは当然で(特に現代からの目で見れば、ほとんど見分けもつかないのは、極端な話、浮世絵や泰西名画と同じで)マア止むをえないことではあります。両者が混ざって描かれた「巨人の星」は分かり辛いかもしれませんが、その直前に二人が合作されている「タイガー66(名義はすべて川崎のぼる)」なら、前半約3分の1を園田光慶、後半3分の1を川崎のぼる、とハッキリ区別がついていますから、比較的判断し易いですよ。どうしてこういう作品が生まれたのか迄は、私は存じませんが。
(昭和43年発行・小学館ゴールデン・コミックス。118ページ迄と119ページ以降で絵柄もネーム構成もガラリと変わります。)

Posted by: みなもと太郎 | June 01, 2006 at 01:08 AM

>みなもと先生
いえいえ、久しぶりにあしたのジョーを読んでたいへん楽しかったです。川崎のぼるがサンデーに連載した「死神博士」も「アニマル1」も覚えてるのに、その間にあったはずの「タイガー66」については全く記憶がありません。少年ブックの「スカイヤーズ5」と間違えて覚えてるのかな?

Posted by: 漫棚通信 | June 01, 2006 at 07:52 PM

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