フは復讐のフ 「V フォー・ヴェンデッタ」
アラン・ムーア/デヴィッド・ロイド「V for Vendetta」の日本語版が小学館プロダクションより刊行。もちろん映画公開にあわせた原作マンガ発売です。
訳しにくいタイトルですが、さすがに日本語タイトルがそのまま「V フォー・ヴェンデッタ」てのはどうなのかしら。ブラッドベリの「R is for Roket」が「ウは宇宙船のウ」と訳されてるのにならって、「フは復讐のフ」というのはいかがと思ったのですが、主人公の名前が「V」ですからね、これでは意味をなしません。「V はヴェンデッタのV」ではさらに何やらわからんですね。
イギリスで1982年から週刊連載され、1985年掲載誌の休刊のため中断。その後アメリカDCに移籍し1989年に完結、という作品です。この間にアラン・ムーアは「ウォッチメン」というオールタイム・ベスト級の作品を発表しています。
主人公のV は、仮面にマント姿の超人的テロリスト。近未来、核戦争後に全体主義国家となったイギリスで、主人公が、殺人、コンピューター・ハッキング、爆破テロをくりかえす、ノワールなオトナのマンガです。
いつものアラン・ムーアのように、文学、音楽、映画、ポップカルチャーの引用だらけで、ストーリーそのものよりバックグラウンドが難解ですが、そこはそれ、用語解説がきっちりしていてタイヘンうれしい。
マンガとしては、今回「心の声」や効果音を廃してセリフだけでストーリーを進めているのが実験だったようです。さらに日本マンガに慣れた目からは、集中線がない、動線がない、コメカミの汗などの漫符がない、動きに対してコマを細かく割らない、など、なるほどこういう手があるんだなあと新鮮。
深夜、主人公V がビルの屋上でチャイコフスキーの曲に合わせて指揮をする。指揮棒をふるたびに市街のあちこちで爆発の炎が上がるという恐ろしくも美しいシーン。このクライマックスがカットバックを使いながら6ページで表現されます。お見事な描写だと思うのですが、日本マンガならここをどう描くでしょうか。
この作品、雑誌連載時はモノクロで発表されていたそうです。イギリスのマンガはモノクロ週刊誌が主流だったという話に驚きました。1972年マーヴルUKが創刊した「マイティ・ワールド・オブ・マーヴル」も週刊モノクロでアメリカ作品の再録をしてたらしい。大西洋をはさんだアメリカとフランスでカラーマンガが主流だったのに、その間のイギリスではモノクロ。お国でいろいろ違うのね、「欧米」なんてひとくくりにしててスミマセンでした。
作品の構造としては、ファシズム国家が悪、革命をめざすテロリストが善、という古典的構図で、今となってはちょっと懐かしくも感じてしまいます。ただし倒される悪役や端役も細かい書き込みをするのがムーア流。
そして、仮面の反逆者が死んだのち、別人がその仮面を受け継ぎ、二代目となる。二代目○○という、アメコミでご存知の設定ではありますが、なーんかどっかで読んだような気が……? そうだっ、忍者武芸帳だっ。
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Comments
コメントありがとうございます。ストライクスアゲインは9.11をはさんで刊行されてました。あえて言うなら、もう少し遅れて描かれるべきだった作品じゃないかな、なんて。
20世紀最後の日本の首相は森喜朗だったです。はー。
Posted by: 漫棚通信 | May 02, 2006 09:19 PM
V フォー・ヴェンデッタがサッチャー時代のイギリスなら
バットマン:ダークナイトストライクアゲインがブッシュ政権、20世紀少年が小泉政権へのテロになってて比較すると面白かったですね。
Vが古典の引用してるのに後者2つはオタ作品からの引用ばかりで。
Posted by: 国立珠美 | May 02, 2006 01:18 AM