「金魚屋古書店」と「ルパン三世」単行本
「金魚屋古書店」シリーズは、古書マンガと人情話をくっつける作劇にどうしてもノリきれず、ウンチクマンガとして読むことにしてるんですが、今回の小学館版3巻でちょっと気になったこと。
第18話「金魚屋日記〈山吹の巻〉」に、こういうシーンが出てきます。古本マンガのセドリを商売にしてる男・オカドメが、愛の告白のため、小篠あゆさんにマンガ本を手渡す。
小篠 俺のきもちだ。
うわ~!! 『ルパン三世』の初版美品だ!!
こういう人気作品の一巻の初・美って すごく入手が難しいんだよね~!!
そして欄外に注釈が。
※『ルパン三世』:モンキー・パンチ著。'67年~「週刊漫画アクション」(双葉社)。単行本は'68年発刊。'72年アニメ化、'74年実写化もされた、誰もが知っている名作。
ちょっと待ってくれよー。確かにそれぞれの文章にマチガイはありませんが、こう並べて書かれるとマズくないかい。
この場面で登場人物が手にしている「ルパン三世」の単行本は、双葉社が出した新書版のパワァコミックス版の第1巻です。でもこれは、欄外に書かれてる1968年に刊行されたものじゃなくて、1974年に刊行されたもの。
「ルパン三世」は、漫画アクションの創刊号(1967年)から連載され、それまで見たこともないような作風で人気を得ます。モンキー・パンチはアクションの表紙も描いてましたしね。ところが、単行本という点では冷遇されてました。
ルパンの初単行本は、連載開始の翌1968年、「漫画アクションコミックス」という形で2冊発売されましたが、実はこれはB5版平綴じ、いわゆる総集編でした。
双葉社はアクションを創刊した1967年から「ACTION COMICS」というB6単行本を刊行し始め、「子連れ狼」や「高校生無頼控」を大ヒットさせるのですが、「ルパン三世」がB6単行本で刊行されることはありませんでした。なぜなんだろ。
双葉社が1969年から1970年にかけて刊行したハードカバー全12巻の「現代コミック」という選集がありますが、その第7巻「棚下照生/モンキー・パンチ集」にルパン三世が7作収録され、そのころルパンで手に入るものといえば、これくらいしかなかったのですよ。
「ルパン三世」の最初の雑誌連載は、1967年から1969年まで。その後、1971年10月から半年間のTVアニメ放映に合わせる形で、ほぼその時期に一致して8ヵ月だけ雑誌に再連載されました。でも、この時期も単行本は、なし。
1974年に目黒祐樹主演(田中邦衛が次元で、伊藤四郎が銭形だよ)の映画「ルパン三世 念力珍作戦」の公開に先立って、「漫画アクション増刊ルパン三世総集編」の形で1973年に3冊の総集編が刊行されています。
そしてやっと1974年9月、双葉社が新書版コミックスとして始めた「パワァ コミックス」で、「ルパン三世」が刊行されることになりました。ついに、という感じでしたね。なんと連載開始から、7年もたってから。初期から単行本が刊行されていた「子連れ狼」と比べて、この差はなに。
1974年は「少年サンデーコミックス」が開始された年でもあります。小学館は少年向けの自社作品を多く持っていましたが、双葉社はそうじゃなかった。
初期の双葉社パワァコミックスは、「ルパン三世」以外にこんなラインナップでした。
・横山光輝/辻真先「戦国獅子伝」
・かざま鋭二/佐々木守「野球魂」
・手塚治虫「アラバスター」…は広告だけで、実際に発売されたのは「鬼丸大将」
・石森章太郎「フラッシュZ」
・赤塚不二夫「チビ太」
・あだち充/佐々木守「リトルボーイ」
・バロン吉元「黒い鷲」
うーむ、後発の新書版はなかなか苦しそうだ。双葉社が「少年アクション」を創刊するのは1975年です。残念ながらその後1年間しか続きませんでしたが。
TVアニメのほうのルパン三世は、再放送が繰り返されることで人気が出て、1977年10月から第2期(いわゆる赤ルパン)の放映が始まります。そして雑誌にも1977年6月から「新ルパン三世」として連載が再開されました。
雑誌連載の初期1967年ごろのルパンは、二色ページが多く、モノクロの単行本にすると、どうしても、かなり読みにくいものになってしまってます。パワァコミックス版の「ルパン三世」もそうでした。その意味ではきっと二色ページもあったはずの、1968年漫画アクションコミックス版のほうが読みやすいんじゃないかな(持ってませんが)。
「金魚屋古書店」ぐらいの何でも揃う古本屋なら、「ルパン三世」も当然、1968年漫画アクションコミックス版の在庫ぐらい持ってるはず。そこに出入りしてるセドリのオカドメっ、あんたも女の子にプレゼントして愛を告白するんだから、レア物のそっちを探し出してこんかーいっ。
Comments
コメントありがとうございます。
>アクションコミックス
おっしゃるとおりです。80年代のそれは失念してました。パワァコミックス→100てんランドコミックス→アクションコミックス→中央公論社愛蔵版の順だったですね。
Posted by: 漫棚通信 | April 04, 2006 08:29 PM
本論とは関係の無い些末な指摘になりますが…
>「ルパン三世」がB6単行本で刊行されることはありませんでした。
というのは誤解を生む表現ではないでしょうか?
グッと時代は下りますが、TVアニメ第三期(ルパン三世PARTIII)の放映に合わせる形で
84年から85年にかけてB6判のアクションコミックスとして刊行されておりますから。
Posted by: 池本 剛 | April 04, 2006 07:45 AM