少年小説大系のマンガ集
戦前の冒険小説などを読むとき、いちばんまとまってて便利なのが、三一書房の「少年小説大系」です。少年小説だけじゃなくて、少女小説や戦後のものも収録されている楽しいシリーズ。ただし、高垣眸集になぜ「豹の眼」がはいってないのか、海野十三集のラインナップはこれでいいのか、というようなご不満もいろいろおありでしょうが。
ハードカバーのごっつい全集ですが、このうちマンガ関連が4冊。別巻1「少年漫画集」、別巻3「少年漫画傑作集(一)」、別巻4「少年漫画傑作集(二)」、資料編1「スピード太郎」です。内容は以下のとおり。
・別巻1「少年漫画集」:1988年
織田小星/東風人(樺島勝一)「正チヤンの冒険」
山田みのる「忍術漫画」
宮尾しげを「かるとびかるすけ(軽飛軽助)」
藤井一郎「活動漫画ロイドの冒険」
巌谷小波/岡本帰一「木兎小僧一代記」
武井武雄「くるみ太郎」
横山隆一/小山内龍「新イソップ物語」
初山滋「ペコポンポン」
武井武雄「ハツメイハッチャン」
島田啓三「ネコ七先生」
大城のぼる「汽車旅行」
「正チヤンの冒険」は、カラー版の「お伽 正チヤンの冒険」の復刻が少しだけ。2003年小学館クリエイティブ発行の復刻版でも「正チヤン」のごく一部のエピソードしか読めないのですが、この本では小学館クリエイティブ版には収録されなかった「ウサギ」「ヒナマツリ」「オモチヤノクニ」が読めます。
「かるとびかるすけ」は全編の復刻。この本で最も多くのページがさかれています。宮尾しげをの奇想が楽しい。一部しか読んだことのない「団子串助漫遊記」もこんな感じのものだったのでしょう。
「ネコ七先生」はフェリックスそっくりのネコが主人公。島田啓三は、一種ポップな感じの、ほんとにコドモマンガらしい絵を描きます。
大城のぼるは、「火星探検」の復刻が晶文社から1980年、それに続く復刻が1988年のこの「汽車旅行」でした。元になった本は、松本零士提供ですから、のちの2005年に小学館クリエイティブ発行の復刻版と同じものなのかな。ヨゴレとかの位置がそっくりです。
ただし印刷の色調がかなりちがってて、小学館クリエイティブ版の毒々しい感じのカラーより、かなりおとなしい色です。大きく違うのは、見開き2ページのとき、本のノドの部分、さらに両側の外の部分の絵が切れてしまってること。小学館クリエイティブ版は、ここもしっかり見えますから、ここ10年で復刻技術の進歩があったのでしょう。
・別巻3「少年漫画傑作集(一)」:1993年
大城のぼる「愉快な探検隊」
謝花凡太郎「まんが忠臣蔵」
芳賀たかし「人類物語・坊やの密林征服」
野村胡堂/大田雅光「太郎の旅・月世界探検」
「愉快な探検隊」を読むと、大城のぼるが田河水泡「のらくろ」のエピゴーネンから始まったことがよくわかります。主人公のペット「ブル君」は、「のらくろ」に出てくるブル連隊長にそっくり。
でもそれを言うなら、謝花凡太郎の「まんが忠臣蔵」も動物たちが忠臣蔵を演じてるのですが、とくに犬は「のらくろ」そっくり。
芳賀たかしの「坊やの密林征服」は、最近創風社から刊行された「愉快な子熊/坊やの密林征服」という復刻本にも収録されました。さらに続いて「ぼくらの燈台/五少年漂流記」という復刻もあります。
・別巻4「少年漫画傑作集(二)」:1993年
新関青花「象さん豆日記」
新関青花「仲よし日記帳」
花野原芳明「コグモの冒険」
花野原芳明「でっぷり船長の冒険」
今、普通に読める新関青花(健之助)は、この本だけでしょう。戦後も「かば大王さま」で有名ですが、なんせやたらとうまい絵を描くひとで、内容ものんびり。古典的コドモマンガの完成形とも言えるのじゃないかしら。
・資料編1:宍戸左行「スピード太郎」:1988年
資料編1とありますが2は存在しません。大判、布張り、箱入り、上質紙オールカラーの豪華な復刻版。
おどろくべきは、今回ネットで調べてみると、なんとこの全集、とっくに絶版と思っていたら、今でもほとんどが新刊で手にはいるらしいじゃないですか。お値段がアレなのがちょっとアレですが。
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