ゆるゆるの楽しさ「王様の仕立て屋」
第10回手塚治虫文化賞のノミネート作品が発表になってます(以下著者アイウエオ順)。
・失踪日記:吾妻ひでお
・働きマン:安野モヨコ
・リトル・フォレスト:五十嵐大介
・もやしもん:石川雅之
・リアル:井上雄彦
・ヒストリエ:岩明均
・王様の仕立て屋~サルト・フィニート~:大河原遁
・団地ともお:小田扉
・のだめカンタービレ:二ノ宮知子
・NANA:矢沢あい
・イヴの眠り:吉田秋生
そうそうたるメンバーの中で、はっきり言って意外だったのが、大河原遁「王様の仕立て屋~サルト・フィニート~」です。スーパージャンプ連載のこの作品、楽しく読めるのは知ってましたが、賞の候補となるとは。これはびっくり。さっそく既刊九巻を買ってきました。
主人公は、イタリアはナポリ在住の仕立て職人、日本人のオリベ・ユウ。彼がウンチクを語りながら天才的なスーツの仕立ての腕を発揮して、いろんな事件・問題(多くは人情話系)を解決します。
ってこれ、「美味しんぼ」以来、あちこちでデフォルトとなったウンチクマンガの設定です。ときどき仕立て勝負もあったりして。「美味しんぼ」フォーマットは破綻なく面白くすることができて、偉大だなあ。
絵はゆるゆるです。連載第1回のカラーページ、キャプションで「サンタ・マリア・デッレ・アニメ教会」(実在するらしい)とあるのに、何やらわからん建物の壁が描いてあるところから脱力。
見開き2ページの多くのコマがあっても、背景がヒトコマも描かれていない箇所が、どれほどあるか。背景の変わりにバックの宙に浮かぶのは、ウズマキやらバッテンやらイチゴのスクリーントーン。
広い空白。角度ですごく変化する登場人物の顔。著者はうまく描こうという意欲を放棄しています。
主人公は、最初登場したとき、一匹狼・無頼・酒飲み・伝法な口調・法外な報酬・実は人情家・正義漢・博識・天才的な腕、と、笑わせてくれるくらい典型的でした(書けば書くほど、酒飲み以外はブラック・ジャック、一匹狼と法外な報酬を除けば山岡史郎だなあ)。
絵のゆるさに比例したのか、ストーリーもぐずぐずに。
ナポリ服飾業界の敵として登場した企業家の若き6人の女性は、いつのまにやらコケまくりスベりまくり。靴作り職人をめざすはずのリハツなイタリア少年は、落語を一席うかがうように。主人公のライバルとなるべく登場した天才少女は、メイド服でお給仕。伯爵家の令嬢は日本でタイヤキかじってる。
3巻あたりでは、「俺は今」「猛烈に感冒しているっ」というダジャレを1ページ使ってやってて、1巻とは別のマンガのよう。
ところが、このマンガ、このゆるゆるがいいんですよ。あわせて主人公も、ボケるわツッコむわ。いつのまにやら、ウンチクと人情話もあるコメディに変化してしまいました。「こち亀」系?
イタリア、イギリス、日本と世界を駆け巡ってるのに、スケールが大きくなるかというとそんなことはなく、なにやらご近所商店街物語の雰囲気。国際派ビジネスマンガのはずだったのに、こっちのほうがお気楽で楽しいなっと。
9巻からは会社のお家騒動という(ちょっとシビアな)新展開のようで、もとの路線に戻しつつあるのかな。基本のウンチクさえおさえておけば、コメカミに汗かかずに、もっとゆるゆるでもいいんじゃないかしら。
Comments
知り合いのウチは農家で漁師で、海苔の採集(養殖じゃなくて)もしてますから、こういうのは海苔農家というかも。
短篇賞、特別賞は候補作以外から出るみたいですよ。新生賞は候補だったり、そうじゃなかったり。
Posted by: 漫棚通信 | April 08, 2006 10:11 PM
エントリー先取りで
大賞は「のだめ」ちなみに「のだめ」で実家の海苔農家とあるのはどう考えても「海苔養殖業」の間違い・・・地元では海苔は漁業で漁業組合に所属。
新生賞は「もやしもん」か「リトル・フォレスト」・・・
短編賞は「失踪日記」でしょう。
特別賞は・・・・「もやしもん」にやりたい。
Posted by: not a second time | April 08, 2006 08:43 PM
今年はめずらしく候補作を全作完読してますので「手塚治虫文化賞大予想!」エントリを準備中です。近日公開。
Posted by: 漫棚通信 | April 08, 2006 09:00 AM
『王様の仕立て屋』(1)、本日購入してみました。
まだ、読んではおりませんが…。
Posted by: 長谷邦夫 | April 07, 2006 08:55 PM
「失踪日記」の一人勝ちっぽいラインナップですね。
Posted by: 国立珠美 | April 07, 2006 08:27 PM