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April 08, 2006

偉大なる「美味しんぼ」フォーマット

 大河原遁「王様の仕立て屋~サルト・フィニート~」を読みながら、「美味しんぼ」の成り立ちについて考えていました。

 では、その設定とはいかなるものか。

1)作品としての成り立ち

1-1)読切連作である。
1-2)あるテーマについてのウンチクが語られ、読者は知識を得ることができる。
1-3)ウンチクで事件、問題が解決される。
1-4)勝負、対決がある。

2)主人公像

2-1)主人公はあるテーマについて知識が豊富である。
2-2)主人公はあるテーマについての特殊技能を持っている。

 さて、「美味しんぼ」の先行作品から考えてみます。

 読切連作でウンチク、となれば、まず思い浮かぶのがさいとう・たかを「ゴルゴ13」(1968年連載開始)です。別にゴルゴがウンチクを語るわけではないのですが、世界各国を舞台にした結果、国際情勢をマンガで知ることができるようになりました。

 そして、そのゴルゴから直接影響を受けたと思われるのが、手塚治虫「ブラック・ジャック」(1973年連載開始)です。これも読切連作でウンチク。ブラック・ジャックはみずから医学ネタのウンチクを開示してくれます。

 さらにこのふたりが似ているのは、その主人公設定。一匹狼。アウトロー。天才的な技術。法外な報酬。謎めいた過去。世間の常識とは外れた価値観。でも、もしかしたら人情家かもしれないと思わせる。

 この二作品、ゴルゴとブラック・ジャックこそ、「美味しんぼ」の父と母であると考えています。ともに(1-1)と(1-2)を満たしていますし、さらに天才的スナイパーと天才的外科医ですから、主人公像として(2-2)と(2-4)の項目を満たします。

 ただし、二者とも問題の解決はウンチクではなく、天才的な技術によってなされていました。そこへ1983年登場した「美味しんぼ」が、新たな要素を付け加えました。この世界ではウンチクこそが問題を解決します。(1-3)が「美味しんぼ」フォーマットの中心となる設定です。

 「美味しんぼ」の世界では、技術も大切ではありますが、最終的な問題の解決は、料理の味よりも(当然マンガでは味は表現できません)、知識とウンチクと弁舌によってなされます。読者は、主人公が最後にぺらぺらしゃべるのを待っている。あなたはゴルゴやブラック・ジャックには到底なれませんが、努力すれば山岡史郎になら、なれるかもしれない。

 さらに(1-4)の料理勝負が加わります。これは「庖丁人味平」などで繰り返された手法でした。かつては、珍奇なアイデアで驚かせたほうが勝ち、みたいなノリでしたが、それをオトナ読者向けに、ちゃんと正しい(と思わせる)知識で理論武装した形で提出したのが、新しい。古い皮袋に新しい酒を。

 これで「美味しんぼ」フォーマットのできあがり。「美味しんぼ」の設定がいかに完成されたものであるかは、そのフォロワーの多さが物語っています。つまり、マネがしやすい。「料理」のウンチクを他のものに取り替えるだけで、マンガとして成り立ってしまうのです。

 子ども向けには(1-4)の勝負の要素を大きくする。オトナ向けには(1-3)の事件、問題を人情話系でまとめる。もちろん、ウンチクでもって読者に知識を提供するのが前提となります。

 「美味しんぼ」の偉大な点は、作品そのものの完成度より、このフォーマットを作り上げたことじゃないかしら。

 このフォーマットを使えば、けっこうそれなりのストーリーができそうな気になっちゃいます。問題は、どのジャンルのウンチクであるか、という点。料理、おしゃれ、美術、音楽、金融、裁判、格闘技、勉強、水商売、なんでもこいだー。

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Comments

美味んぼ が84年(もう22年ですね・・・)に出てきたときは 「こんな漫画を待ってた。」と、思い 嬉しかったのを覚えています。父と子の対決はさておいて(笑) 食に関する薀蓄ですね。「味平」以来に感じました。雁屋哲氏は「男組で稼いだ金を全部食べ歩きに使った」などと山本益博氏よりも幅が広いことをやってのけたようですね。食文化が見直されていったと言うことは凄いことなのです。醤油も大手メーカーが「丸大豆使用」なんて表示するようになったのです。
ウンチク漫画を描こうとするならとにかく取材が大変でしょうし、それを漫画として面白く仕上げることは漫画家の力量でしょうが、編集者も大変なような気がします。かつてファッション漫画(?)「こっとん鉄丸」ではそういうことが行われたはずもなく、いしかわ氏に「ファッションを知らないやつ」と、評されたのでしょう。
「美味しんぼ」は初期の花咲アキラ氏の絵が大好きでした。今は本当に記号化されてしまっていて残念ですし、長く続きすぎているので親子の軋轢(山岡の一方的な)もどうでもよくなりました。

Posted by: not a second time | April 09, 2006 06:28 AM

実は「美味しんぼ」、65巻で買うのやめちゃったんですが、知らないうちになんと94巻も出てるんですねー。たまに立ち読みすると、20年前とまったく変わらないのに驚くというか感心するというか。

Posted by: 漫棚通信 | April 10, 2006 09:53 PM

はじめまして。いつも楽しく拝見しております。

「読切連作でウンチク」となれば、『あぶさん』もありますね。これまた73年連載開始です。アウトロー、野球うんちく、勝負、人情と全部揃ってます。

Posted by: TOSHI | April 10, 2006 10:51 PM

ゴルゴとブラック・ジャックが『美味しんぼ』の父というのはうなずけますね。『ギャラリー・フェイク』なんかは典型的なブラック・ジャックの子供な気がします。

Posted by: 坂元 | April 11, 2006 12:37 PM

"『ギャラリー・フェイク』なんかは典型的なブラック・ジャックの子供"ならば、「王様の仕立屋」とおなじスーパージャンプに掲載の「ゼロ」はゴルゴ13の直系ですな。
無口だったり国籍本名不詳の有名人でおよそ不可能がなかったり・・

というか、ヤング誌以上の年齢層を狙った雑誌には大体もれなく「美味しんぼ」フォーマット系うんちく作品がありそうな気がします。

Posted by: ゴンベイ | April 11, 2006 05:17 PM

みなさまコメントありがとうございます。もともと学習マンガというのがありましたし、マンガは物語だけじゃなくて知識を提供するのに適したジャンルなのでしょう。読者も面白さだけじゃなくて「面白くて役に立つ」のを求めてるのかな。

Posted by: 漫棚通信 | April 11, 2006 09:09 PM

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