第10回手塚治虫文化賞大予想!
さて、予告してありましたエントリ、第10回手塚治虫文化賞大予想であります。
とか言ってたら、とっくに選考は終わってるらしくて、今さらどうか、という気もしますが、気をとりなおして。今年の結果をご存知のかたも、知らないフリをしてお読みください。
過去の受賞作はコチラをどうぞ。
選ぶのはあくまで選考委員。というわけで、今年の選考委員はこのかたがただっ。
荒俣宏(あらまた・ひろし) 作家
いしかわじゅん マンガ家
印口崇(おしぐち・たかし) マンガ専門店店長
香山リカ(かやま・りか) 精神科医 ・帝塚山学院大学教授
呉智英(くれ・ともふさ) 評論家
萩尾望都(はぎお・もと) マンガ家
藤本由香里(ふじもと・ゆかり) 編集者・評論家
村上知彦(むらかみ・ともひこ) 評論家・神戸松蔭女子学院大学講師
手塚治虫文化賞は3年ごとに選考委員が変更されるようになってます。第1回から第3回までは24~25人の大所帯でしたが、第4回からは15人。第7回からさらに減って8人。以後第9回まで同じ選考委員でやってきてましたが、今回入れ替えとなりました。清水勲、関川夏央、マット・ソーンが抜けて、印口崇、藤本由香里、村上知彦が復帰。あとの5人は同じメンバーです。
さて、それぞれの選考委員の好みを見ていきましょう。今回は過去の新聞を捜して読むまでの気力がなかったので、全部ネット上の記録を読んですませちゃいました。マチガイがあったらスミマセン。
まず、荒俣宏、いしかわじゅん、呉智英。三人とも第1回からすべてに参加しています。
■荒俣宏の投票は以下の如く。タイトルのあとの数字はその委員がいれた点数です。
第1回一次選考:陰陽師5、チワワちゃん4、Palepoli 4、超・学校法人スタア学園1、レベルE 1
第1回最終選考:蒼天航路5、ドラゴンヘッド4、残酷な神が支配する3、ドラえもん1、ピンポン1
第2回一次選考:COBRA、デビルマンレディー、乾からびた胎児、唐沢なをきの楽園座、月的愛人
第3回一次選考:学園天国5、陰陽師3、カイジ3、木槌の誘い3、致死量ドーリス1
第3回最終選考:UNTITLED5、神童4、ベルセルク3
第1回から第3回までは選考委員が多いことと、最初は賞の性格が決まってなかったので、手探り状態。荒俣宏も自分の好きな一次選考作品を最終選考に残すことができてません。(第2回は投票結果がネット上になかったので、点数抜きで作品名だけ挙げてます)
第4回一次選考:うずまき5、バガボンド5、西遊妖猿伝2、金瓶梅2、輝夜姫1
第4回最終選考:西遊妖猿伝6、ドラゴンヘッド5、The World Is Mine 4、ベルセルク3、イティハーサ2、ONE PIECE 1
第5回一次選考:カスミ伝△4、陰陽師3、刑務所の中3、サラリーマン金太郎3、愚か者の楽園2
第5回最終選考:陰陽師6、弥次喜多 in DEEP 5、バガボンド4、ベルセルク3、グーグーだってネコである2、ONE PIECE 1
第6回一次選考:ちひろ5、あずまんが大王3、真ッ赤な東京3、秘密-トップ・シークレット-2、福神町綺譚2
第6回最終選考:秘密-トップ・シークレット-6、ヒカルの碁5、The World Is Mine 4、バガボンド3、ONE PIECE 2、ベルセルク1
4、5回でやっと大賞に投票できました。
第7回一次選考:黄色い本5、ヒカルの碁3、もっけ3、風雲児たち幕末編2、ONE PIECE 2
第8回一次選考:舞姫テレプシコーラ5、ブラックジャックによろしく4、風雲児たち幕末編3、さちことねこさま2、まんが紀行奥の細道1
第9回一次選考:舞姫テレプシコーラ4、夕凪の街 桜の国4
6回までは最終選考も投票でしたが、7回以後は最終選考は話し合いで決定されるように変更されました。選考委員が8人とさらに減ったこともあって、いかに自分の押す作品を最終選考に残すかという戦略が必要になってきます。荒俣宏はかつて「陰陽師」をずっと推してましたが、最近は「舞姫」ね。あと唐沢なをき、楠本まきがお気に入り。
ただしマンガは専門外のようで、かなりのんびりしてらっしゃる印象ですが。
(第9回の一次選考の投票結果はネットでは上位しか記載されておらず、誰が何に投票したのか正確にはわかりません)
■いしかわじゅん
第1回一次選考:覚悟のススメ3、行け!稲中卓球部2、風の大地2
第1回最終選考:ドラゴンヘッド5、ピンポン5、覚悟のススメ5
第2回一次選考:ゆんぼくん、行け!稲中卓球部、SEED、ミナミの帝王、奈緒子
第3回一次選考:ベルセルク5、神童5、ドラゴンヘッド5
第3回最終選考:ベルセルク5、神童4、ドラゴンヘッド3、MONSTER3
初期から、自分の推す作品を最終選考に残すことに成功しているいしかわじゅん。かなりの戦略家です。第3回なんかどんぴしゃ。
第4回一次選考:ベルセルク5、地雷震4、西遊妖猿伝3、カイジ2、ロダンのこころ1
第4回最終選考:ベルセルク6、西遊妖猿伝5、ドラゴンヘッド4、ONE PIECE 3、The Worls Is Mine 2、イティハーサ1
第5回一次選考:バガボンド5、刑務所の中3、女には向かない職業3、弥次喜多 in DEEP 2、天才柳沢教授の生活
第5回最終選考:バガボンド6、弥次喜多 in DEEP 5、陰陽師4、ベルセルク3、ONE PIECE 2、グーグーだって猫である1
第6回一次選考:バガボンド5、あたしンち5、真ッ赤な東京3、ぶっせん3
第6回最終選考:バガボンド6、ベルセルク5、ONE PIECE 4、ヒカルの碁3、The World Is Mine 2、秘密-トップ・シークレット-1
第6回は、大賞が「バガボンド」、優秀賞が「ベルセルク」で、以前から毎回候補に上がってたこの二作品をイッキにかたづけちゃった回です。
第7回一次選考:軍鶏5、百鬼夜行抄4、黄色い本3、昴2、魁!!クロマティ高校1
第8回一次選考:ブラックジャックによろしく5、百鬼夜行抄4、SEX MACHINE 3、少年少女2、カジムヌガタイ-風が語る沖縄戦-1
第9回一次選考:PLUTO 5、舞姫テレプシコーラ1
昨年の「PLUTO」も、一次から積極的に推してたのが、いしかわじゅんと萩尾望都。
■呉智英
第1回一次選考:ドラえもん5、ドラゴンヘッド5、ぼのぼの3、銀と金2
第1回最終選考:ドラえもん5、ドラゴンヘッド5
第2回一次選考:ドラゴンヘッド、The World Is Mine、カイジ、ぼくんち、真夜中の弥次さん喜多さん
第3回一次選考:The World Is Mine 5、神童4、夢の木の下で(諸星大二郎)4、新ゴーマニズム宣言SPECIAL戦争論1、詩人ケン1
第3回最終選考:神童5、ドラゴンヘッド5、UNTITLED 2
第4回一次選考:西遊妖猿伝4、The World Is Mine 4、ドラゴンヘッド4、ゴーダ哲学堂3
第4回最終選考:西遊妖猿伝6、The World Is Mine 5、ドラゴンヘッド4、べルセルク3、イティハーサ2、ONE PIECE 1
第5回一次選考:刑務所の中5、弥次喜多 in DEEP 5、The World Is Mine 5
第5回最終選考:弥次喜多 in DEEP 6、バガボンド5、陰陽師4、ベルセルク3、ONE PIECE 2、グーグーだって猫である1
第6回一次選考:The World Is Mine 5、人間区人体町5、ハーイあっこです5
第6回最終選考:The World Is Mine 6、バガボンド5、秘密-トップ・シークレット-4、ベルセルク3、ヒカルの碁2、ONE PIECE 1
いしかわじゅんと同じく戦略家。第1回で「ドラえもん」を大賞に、第3回で「神童」を優秀賞、第4回で「西遊妖猿伝」を大賞に。
第7回一次選考:風雲児たち幕末編5、黄色い本3、ハーイあっこです3、神罰2、虫けら様2
第8回一次選考:風雲児たち幕末編5、リーマン戦記独身3 4、こんちゅう稼業3、賭博破壊録カイジ3
第9回一次選考:水鏡綺譚5、団地ともお5、ヒストリエ3
「風雲児たち」を推し続けて第8回の特別賞に。さらに候補じゃなかった「難波鉦異本」を第8回の新生賞にいれたのも呉智英のはずです。なかなか黒幕っぽい。
かつて第1回から第6回まで選考委員だったのが、印口崇と村上知彦。
■印口崇
第1回一次選考:かちかちやま5、きらきらひかる4、おたんこナース3、大平面の小さな罪3
第1回最終選考:ピンポン5、覚悟のススメ4、蒼天航路3、ドラえもん3
第2回一次選考:「坊ちゃん」の時代、ベルセルク、Spirit of Wonder、ランポ、ネオブラッド
第3回一次選考:ARMS 5、西遊奇伝・大猿王5、多重人格探偵サイコ5
第3回最終選考:MONSTER 5、神童5、ベルセルク5
第4回一次選考:エイリアン9 5、ARMS 4、ヒカルの碁3、HELLSING 3
第4回最終選考:ベルセルク6、西遊妖猿伝5、イティハーサ4、ONE PIECE 3、ドラゴンヘッド2、The World Is Mine 1
第5回一次選考:ベルセルク5、ARMS 5、破壊魔定光3、あずまんが大王2
第5回最終選考:バガボンド6、陰陽師5、ベルセルク4、グーグーだって猫である3、弥次喜多 in DEEP 2、ONE PIECE 1
第6回一次選考:攻殻機動隊5、あずまんが大王5、プラネテス5
第6回最終選考:ヒカルの碁6、ベルセルク5、バガボンド4、ONE PIECE 3、秘密-トップ・シークレット-2、The World Is Mine 1
印口崇は、一次選考で、できるだけ多彩な作品をすくいあげようとしているような印象です。無理に最終選考に残らなくてもいい、のかな。一部に熱狂的な人気があるのに賞と無縁な作品に光を。
■村上知彦
第1回一次選考:残酷な神が支配する5、MONSTER 3、ぼくんち3、新世紀エヴァンゲリオン2、青い車2、
第1回最終選考:残酷な神が支配する5、ドラゴンヘッド4、ピンポン4、蒼天航路1、覚悟のススメ1
第2回一次選考:「坊ちゃん」の時代、MONSTER、ゆんぼくん、フラグメンツ
第3回一次選考:UNTITLED 4、MONSTER 3、神童3、輝夜姫3、The World Is Mine 2
第3回最終選考:UNTITLED 5、MONSTER 3、神童3、ベルセルク2、ドラゴンヘッド2
第4回一次選考:西遊妖猿伝5、輝夜姫4、ドラゴンヘッド2、YASHA-夜叉-2、弥次喜多 in DEEP 2
第4回最終選考:西遊妖猿伝6、イティハーサ5、ドラゴンヘッド4、ONE PIECE 3、The World Is Mine 2、ベルセルク1
第5回一次選考:グーグーだって猫である4、GOGOモンスター4、できるかなリターンズ3、女には向かない職業2、犬夜叉2
第5回最終選考:陰陽師6、グーグーだって猫である5、弥次喜多 in DEEP 4、ONE PIECE 3、ベルセルク2、バガボンド1
第6回一次選考:犬夜叉5、The World Is Mine 4、ちひろ4、日露戦争物語2
第6回最終選考:ONE PIECE 6、The World Is Mine 5、ベルセルク4、秘密-トップ・シークレット-3、バガボンド2、ヒカルの碁1
最初は高率に最終選考作を選んでましたが、後半ではアタリが減ってきた傾向あり。第6回で「ONE PIECE」が1位で「ヒカルの碁」が6位というのはどういう意図なのかしら。「日露戦争物語」に票を入れたのは村上知彦だけじゃありませんが、この2002年ごろはまだ面白かったのかなあ。
第4回から6回まで選考委員だった藤本由香里。
■藤本由香里
第4回一次選考:ベルセルク5、イティハーサ5、め組の大吾3、弥次喜多 in DEEP 2
第4回最終選考:ベルセルク6、イティハーサ5、ドラゴンヘッド4、西遊妖猿伝3、ONE PIECE 2、The World Is Mine 1
第5回一次選考:ベルセルク5、陰陽師5、弥次喜多 in DEEP 2、天馬の血族2、ヒカルの碁1
第5回最終選考:ベルセルク6、陰陽師5、弥次喜多 in DEEP 4、バガボンド3、グーグーだって猫である2、ONE PIECE 1
第6回一次選考:秘密-トップ・シークレット-5、ベルセルク5、ヒカルの碁5
第6回最終選考:秘密-トップ・シークレット-6、ベルセルク5、ヒカルの碁4、The World Is Mine 3、バガボンド2、ONE PIECE 1
自分の推す作品を最終選考に残す、という意味ではもっとも打率高し。豪腕ぶりを見せております。ただし、微妙に大賞ははずしてます。
香山リカと萩尾望都が第7回以後。
■香山リカ
第7回一次選考:ブラックジャックによろしく5、黄色い本4、あずまんが大王3、グーグーだって猫である2、NANA 1
第8回一次選考:ヘルタースケルター5、NANA 5、鋼の錬金術師5
第9回一次選考:PLUTO 4、ヒストリエ4、水鏡綺譚2、のだめカンタービレ2
■萩尾望都
第7回一次選考:ヒカルの碁5、ブラックジャックによろしく4、百鬼夜行抄3、リアル3
第8回一次選考:ヘルタースケルター5、ONE PIECE 4、ブラックジャックによろしく3、リアル3
第9回一次選考:PLUTO 5、百鬼夜行抄5、リアル5
情報が少ないのですが、ふたりとも第8回、第9回では「ヘルタースケルター」「PLUTO」を一次選考からプッシュして見事大賞にみちびいてます。萩尾望都は「リアル」がお気に入り。
現在は投票じゃなくて審議によるようですので、こうなると、戦略家・いしかわじゅんと呉智英、対、女性陣三人、みたいな感じがしてきちゃいます。もちろんおそらく一人一派でだれがオトナの対応をするか、ということになるのでしょうが。
ということをふまえて、賞の予想はいかに。今回わたしの評価は別。あくまで当てにいきます。
現在の手塚治虫文化賞は、まず、選考委員が投票で一次選考をおこなう。この上位がノミネート作品となります。おそらくここでカケヒキがあって、いかに自分の推す作品を最終選考に残すか、で持ち点のわりふりをするのでしょう。
ただし、以前の選考委員は24~25人の大所帯でしたから、バリエーションに富んだ作品が集まってくるのですが、今のシステムでは取りこぼしが多いような気がしてしょうがないのですがね。
今年の最終選考ノミネート作品は以下のとおり(著者50音順)。
失踪日記:吾妻ひでお
働きマン:安野モヨコ
リトル・フォレスト:五十嵐大介
もやしもん:石川雅之
リアル:井上雄彦
ヒストリエ:岩明均
王様の仕立て屋~サルト・フィニート~:大河原遁
団地ともお:小田扉
のだめカンタービレ:二ノ宮知子
NANA:矢沢あい
イヴの眠り:吉田秋生
誰が考えても大本命は「失踪日記」。なんせ文化庁メディア芸術祭大賞で、日本漫画家協会賞大賞です。これに対抗する作品はありうるのか。
「王様の仕立て屋~サルト・フィニート~」を最終選考に残させたのは印口崇でしょう。「このマンガがすごい!2006・オトコ版」で1位に推しています。ただしここでもこの作品に投票したのは彼ひとりだから、ちょっときつい。
「リアル」は、くりかえし推薦している萩尾望都でしょうか。しかし井上雄彦は「バガボンド」で受賞してますし、浦沢直樹につづいて二年連続の二作目受賞はありえないでしょう。
「ヒストリエ」をこれまでに推薦してきたのは、呉智英と香山リカ。「団地ともお」を推してたのは呉智英。ただし呉智英は「このマンガを読め!2006」で、「失踪日記」と「団地ともお」を同点にしてます。
さて、女性作家の四作、「働きマン」「のだめカンタービレ」「NANA」「イヴの眠り」があるのですが、ここで「失踪日記」に対抗できるとすれば、マンガというジャンルを超えた人気、かつベストセラーという意味で、「NANA」しかないでしょう。
これまでしつこく推薦してるのが、香山リカ。ここで女性選考委員がタッグを組めば、「NANA」受賞も可能とは思うのですが、萩尾望都はおそらく「失踪日記」に行くだろうというのがわたしの予想。ラララ書店にも、「失踪日記」「のだめ」「働きマン」は置いてあっても、「NANA」はないのです。
藤本由香里はバランスのひと(だと思うのですが)なので、「このマンガを読め!2006」では、「失踪日記」「働きマン」「のだめ」「DEATH NOTE」「おおきく振りかぶって」と、シュンなのを集めてますし、「このマンガがすごい!2006・オトコ版」でも「失踪日記」がトップ(オンナ版では「サプリ」です)。
「NANA」には票が集まりにくい気がします。逆に言うと、今回の手塚治虫文化賞のテーマは、『ベストセラーである「NANA」を抑えて受賞する理由』が必要となるのじゃないでしょうか。となるとこれはもう。
やっぱ「失踪日記」のテッパンレース。おっちゃんウソ言わへんで。これに賭けなはれ。
続いて新生賞。この候補は「リトル・フォレスト」「もやしもん」「団地ともお」になるのでしょう。呉智英が将来の大賞受賞をにらんで「団地ともお」をひっこめるのじゃないかな(←勝手な邪推)。「リトル・フォレスト」と「もやしもん」の一騎打ちと見た。
ここで「手塚治虫」というカンムリがものを言って、コドモにもうける「もやしもん」受賞で決まりだっ。
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