あかんやん「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
実はわたし、日本マンガこそ世界一である、とは思っておりません。フランク・ミラーやアラン・ムーアのベスト作品を読むと、口が裂けてもそういうことは言えませんのです。ま、苦労して英語で読んだというのも、アメコミの評価が高くなっちゃう理由かもしれませんが。
どうしても海外マンガには点が甘くなってしまいます。でも、今度発売された小学館プロダクション「ヒストリー・オブ・バイオレンス」には、困ってしまいました。
いやね、日本マンガと同じようにアメコミにも評価対象外作品はいっぱいあるのでしょうが、アメコミ翻訳がきわめて少ない日本で、選ばれて翻訳される作品が、これじゃあなあ。
世評の高いクローネンバーグ監督映画「ヒストリー・オブ・バイオレンス」の原作マンガです。ジョン・ワグナー作、ヴィンス・ロック画の1997年作品。かつてDCコミックスのパラドックス・プレスというレーベルで出版されたシリーズで、モノクロ長編のグラルフィック・ノベルと呼ばれるタイプ。トム・ハンクス主演で映画化された「ロード・トゥ・パーディション」も、このシリーズのグラフィック・ノベルでした。
で、マンガのデキはどうかと言いますと、ストーリーはとくに前半がすばらしい。サイトの紹介文をそのまま載せますと、
アメリカ中西部の田舎町、トム・マッケンナは愛する家族に囲まれ、幸福な日々を送っていた。だが、平穏で幸せな毎日に、恐怖は突然訪れた。きっかけはトムの経営する店が二人組の強盗殺人犯に襲われたことだった。一瞬の隙をつき、見事犯人を撃ち殺したトムは一躍、街のヒーローに。しかし、その後、謎の訪問者の出現で家族は思いもかけない危険にさらされていく…。
期待高まるオープニングです。ただし後半はかなり残虐な展開で、江戸川乱歩風味はいってます。映画ではどうなってんのかしら。
困ったのは絵です。いかにマンガとアメコミやグラフィック・ノベルの文法が違うものだとはいえ、これはひどい。
まず、キャラクターの区別がつかないのが致命的。少年が数人登場しますが、服と髪形を一所懸命にらんで、やっとこれが誰かをつきとめなきゃならない。察するに、ていねいに描くのがイケナイと思ってるのかなあ、さらさらとイキオイで描いてあるのですが、残念ながら味になっていない。
ギャングものですから、弾着のシーンも多い。ところがこれが迫力ゼロ。せめて日本の劇画レベルであってほしい。せっかくのアクションシーンにも魅力がない。
コマ構成が日本マンガと違うのはしょうがないとしても、これぞ、というキメのコマ、かっこいい「絵」もないんだから、マンガとしてどうか。マンガで描かれた映画のシナリオ、絵コンテといった感じでしょうか。
これではすぐれた作品とはとても言えませんし、これがアメコミやグラフィック・ノベルの標準とも思いたくない。この作品は確かに映画化されるほどすぐれたストーリーを持っているのでしょうが、マンガとしては原作の単なる絵解きにすぎないみたい。実は「ロード・トゥ・パーディション」もあまり感心しませんでした。両作品ともマンガ(この場合はアメコミか)の進歩に寄与してるようには思えないのです。
海を越えたところから、日本人が10年近く古い作品に何を文句タレておるか、というようなものですが、日本マンガだけじゃなくて、アメコミのすぐれた作品も読みたいんですよー。映画化されて喜んでるようじゃダメっ。次に日本で出版される「V フォー・ヴェンデッタ」に期待しますか。
Comments
一つ、よいところを紹介しますから、この方に聞いてみてはどうでしょうか。http://www.planetcomics.jp/index.php
http://ppgcom.blog12.fc2.com/
アメコミ関係のサイトは他にもあるのですが、
管理人さんと直接話がつきそうなものはこれぐらいと思います。
あと、ヒストリーの方はHPで少し試し読みできましたが、どこに行っても袋詰めになってて、とても確認も出来なかったので、上の感想を見ることで結果、悩まんでもよかったあ…
Posted by: kara | March 20, 2006 06:49 AM