「かわいい」論とほっぺた
先日見ていたアメリカ映画では、女性が男性を指して「彼はcuteだ」と言ってました。どうも状況からすると、性的欲求をモヨオスようなニュアンスを含んでるみたいに聞こえる。
やっぱり「cute」と「かわいい」はまったく別のものなんですねえ。コトバは難しいなあ。日本語の「かわいい」に含まれるビミョーさを考察した、四方田犬彦『「かわいい」論』読みました。
「かわいい」の語源、他国語に訳すとどうなるか、から始まり、学生へのアンケート、女性雑誌での「かわいい」の使われ方、東京「かわいい」スポット探訪まで、現在の日本での「かわいい」とは何か、さらには「かわいい」が世界に進出する理由を探る。
最初に出てくるのが、枕草子です。古語の「うつくしきもの」って、現代語になおすと「かわいいもの」だったんだ、そうだそうだ、忘れてました。
清少納言のこの文章、かわいいものをずらずらと挙げてますが、これが現代日本人の考えるカワイイモノと全く変わらない。これがまず大きなオドロキ。「かわいい」は日本固有の伝統である、と言われると眉にツバつけちゃうほうなのですが、枕草子から書き起こされると、納得させられてしまいました。
「かわいい」の語源は「かほ・はゆし」(=顔・映ゆし)で、本来は「恥ずかしくて顔がほてる」意味だそうです。そして、学生アンケートで、「かわいいと呼ばれたことがありますか」という設問に、「突然の失敗」(方言丸出しでしゃべった時、など)というのがでてくる。
そうかっ、「ドジッ娘」とは、コトバ本来の意味で「かわいい」ものだったのかっ。さらには、以前わたしが「ほっぺたのアレはなんやねん」というエントリで書いた、あの、ほっぺたのヨゴレは、「顔が火照る」→「かわいい」という意味をこめた、「かわいい」記号だったのかっ。
カワイイはほっぺたに宿る。
ほっぺたのヨゴレが描かれるのは、コドモだけ。オトナに描かれることはほとんどありません。「コドモ」(=未成熟、小さい、保護される対象)+「ほっぺたのアレ」→「顔が火照る」→「かわいい」となるのかそうか。てなことを考えながら読んでおりました。
もちろん、「かわいい」についてのすべてを網羅した書物ではなく、ほんの取っ掛かりを示したものですが、いろいろ考えさせられて、面白かったです。言葉はナマモノですから、もしかすると10年後、「かっわいー」の意味は変わってるかもしれない。今、読むべき本なのでしょう。
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Comments
実は大塚英志氏のその2作、読んでおりません(一冊は未読の山に埋もれておりますが)。宿題と思って挑戦してみます。
Posted by: 漫棚通信 | February 20, 2006 06:24 PM
大塚英志さんの『たそがれ時に見つけたもの』
~「りぼん」の付録とその時代~での、かわいいカルチャー論が参照されていませんでしたよね。
『少女民俗学』(カッパブックス)との関連で
読んでおくことも一応必要かなとも思います。
小生は「現代風俗文化論」講義の中で
これらを取り上げています。
いろいろ問題視される大塚さんですが、
↑は、彼の個性的な論考として、いまも
読まれていいと思うんですが…。
Posted by: 長谷邦夫 | February 19, 2006 12:00 PM