「キャラ/キャラクター」で困ったこと
伊藤剛「テヅカ・イズ・デッド」では、「キャラ」と「キャラクター」を分けて論じるということをやっております。この本によると、「キャラクター」が従来からの物語の中の登場人物で、「キャラ」は物語から遊離した記号的な絵。
この「キャラ/キャラクター」論は、紙屋研究所で書かれているように、いろいろと「使える」んですね。キャラ/キャラクターを分けることで、マンガとその状況を理解するのにたいへん便利。
で、何が困るかというと、この本を読んでしまうと、「キャラ/キャラクター」という言葉の使用法が難しくなってしまって(以下、かなり読みにくい文章になりますがご勘弁)。
『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラクター』とは、もともと存在したキャラクターという言葉を定義し直したものです。さらに、これまでキャラという言葉は、単純にキャラクターを略したものであったのに、『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラ』は、新しい意味を付加してこまかく定義されています。だもんで、映画や演劇で使われるキャラクターやキャラという言葉とは、すでに違うものになっている。
少なくとも、マンガについて語るとき、今後は『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラ/キャラクター』を意識せざるを得ないわけで、すらすらとキャラ/キャラクターという言葉が使えなくなってきました。
たとえば、『小池一夫が言うところの「キャラを立てる」』のキャラとは、従来の物語内のキャラクターの略語として使われていますから、『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラ』ではなく、『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラクター』という意味になります。ああ、混乱するっ。
自分で文章を書くときも、以前はキャラを単にキャラクターの略として使っていたのが、すでにもう、そういうわけにはいかなくなってきました。キャラというとき、キャラクターの略語なのか、『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラ』なのかを、意識して書き分ける必要がある。文脈で理解してくれるかもしれませんが、文章を書くとき、気にしてしまうし、書かれたものを読むときはさらに考えてしまいます。
日仏作家のアンソロジー「JAPON」に収録されている、ニコラ・ド・クレシー「新し神々」という作品の主人公は、「今デザインされようとしている完成されていないマンガの(厳密には広告の)キャラクター」です。つまり『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラ』にどんぴしゃなのです。
わたしが1月6日のブログでこの作品に触れたときは、キャラでなく、キャラクターという言葉を使いました。文章が短すぎることもあって、キャラという言葉を使って『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラ』という意味をこめたとしても、「テヅカ・イズ・デッド」を読んでない人にはわからないだろうと思ったからですが、キャラ/キャラクターのどちらを使用するか迷ったのは確かです。
同作品については、コミックパークの連載、夏目房之介「マンガの発見」第78回(直リンできませんのでトップからどうぞ)で論じられています。この文章中では、
・マンガ的キャラクター
・「愛・地球博」のマスコット・キャラ
・「地球博」キャラ
・「クー」のキャラ
・日本の商業的キャラクター・デザイン
・マンガのキャラクターのようなもの
・「日本で刺激されて創られようとしているキャラクター(作品)」自身
・日本のキャラの集合Tシャツ
と、微妙にキャラ/キャラクターが使い分けられています。とくにキャラというときは、『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラ』の意味を強くもたせているのは明らか。さらに結語として、以下のように語られます。
この作品は、日本のマンガや消費文化の「主役」が「キャラ」であることを見抜いており、それに刺激される作家の中の創作システムそのものをマンガ化している。
つまり、作品の主人公は描かれる以前の「キャラ」であり、「作品」そのものなのだ。この種の抽象的思考を伴うトリッキーな構成は日本ではあまり見ない。キャラとしての造形の確定した一貫性がマンガの「読み」を導く基本になっているからだろうか。
ここで語られるカギカッコ付きの「キャラ」は、間違いなく『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラ』であり、読者にも自明のこととして説明がありません(というか、説明するのは「テヅカ・イズ・デッド」1冊分が必要となるため不可能)。ここで、「テヅカ・イズ・デッド」を読んでいるかどうかで、読者の理解のレベルが異なってしまうことになります。
今回はとくに完成されていない「キャラ」が主人公という、特殊なマンガだからこそではありますが、自分が零細ブログとはいえ、文章を書く立場にあるとき、これはちょっと困った。カギカッコ付き「キャラ」は、まだまだ普遍的な用語とはなっていないと思われるし。いちいち『「テヅカ・イズ・デッド」におけるキャラ』と説明いれるのもなんだしなあ。キャラ/キャラクターはよく使う言葉だから、余計にいろいろと迷ってしまいます。
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