生臭いものの料理法
マンガの題材として、生臭いものの代表的なのが、政治でありましょう。登場人物は全員アクの強いやつばかり。政党、派閥、議員の数だけ正義はあるし、脅迫やら買収やら右翼の大物やらマスコミやらが入り乱れ。政治家をモデルにして裏話を付け加えれば、それなりに読める作品になっちゃうわけです。ケニー鍋島/前川つかさ「票田のトラクター」(連載開始1989年)とかね。
そういう作風(=ナマグサはナマグサとして、そのまま読者に見せる)を良しとするのが最近のマンガの方法論のようですが、かつて、いかにして生臭いものを料理するかに苦心した作品がありました。
「票田のトラクター」と同時期に連載開始された、業田良家「世直し源さん」(1989年〜1991年)が文庫化され、全三巻で発売されています。副題が「ヨシイエ童話」ですから、最初から、ホラ話、ファンタジーですよと宣言して、政治を描く手法。
主人公の源さんは、なぜか国会議員に当選しており、なぜか総理大臣に選ばれています。この部分、前段階はあえて描かれません(生臭くなるから?)。そして総理の源さんが、政界改革をなすまでの物語。
ギャグを担当する部分は、源さんがいつもステテコ姿で自転車通勤、シケモクばかりを吸い、国会ではセーラー服で踊り、さらになんと女子高生から婆さんまで、年令の違う五人の妻がいるところ。笑わせてくれます。
そしてストーリーの中心は、源さんの提出する法案です。この「国会議員性根たたき直し法案」は、国会議員の歳費を億単位まで値上げするというものです。国会議員の敵は、実は国民であり、国民から自立することをめざす、逆説の法案。この一発アイデアで、全三巻を支えきりました。
すべては童話です。寓話です。でも、政治という生臭い世界を描くと、童話であっても生臭さが抜けきれない。諸派の反対、切り崩しを乗り越えて、最終的にはマンガの中で国会は与党も野党もなく「翼賛体制」となり、この法案は衆議院で賛成509、欠席3という圧倒的多数で可決されます。
この部分、わたしにはどうしてもノリきれません。国会議員全員が源さんを支持して、風呂敷を首に巻いている光景に、カタルシスを感じることができないのです。これがスポーツなら、なんてことないのですが、政治がテーマになると、こっちもかまえちゃうんですね。
オビの推薦文を書いてるのが、夏目房之介、岡田斗司夫、いしかわじゅん。1巻で解説書いてるのが大月隆寛で、マンガ夜話メンバー総出の激賞(オビと解説なんだからアタリマエなのですが)です。これだけきっちり揃えられると、これもなんだかマンガ内のエピソードに似てるかな、なんて。
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