« 「このマンガがすごい!」は、まだまだすごくない | Main | 寒い寒い »

December 08, 2005

生臭いものの料理法

 マンガの題材として、生臭いものの代表的なのが、政治でありましょう。登場人物は全員アクの強いやつばかり。政党、派閥、議員の数だけ正義はあるし、脅迫やら買収やら右翼の大物やらマスコミやらが入り乱れ。政治家をモデルにして裏話を付け加えれば、それなりに読める作品になっちゃうわけです。ケニー鍋島/前川つかさ「票田のトラクター」(連載開始1989年)とかね。

 そういう作風(=ナマグサはナマグサとして、そのまま読者に見せる)を良しとするのが最近のマンガの方法論のようですが、かつて、いかにして生臭いものを料理するかに苦心した作品がありました。

 「票田のトラクター」と同時期に連載開始された、業田良家「世直し源さん」(1989年〜1991年)が文庫化され、全三巻で発売されています。副題が「ヨシイエ童話」ですから、最初から、ホラ話、ファンタジーですよと宣言して、政治を描く手法。

 主人公の源さんは、なぜか国会議員に当選しており、なぜか総理大臣に選ばれています。この部分、前段階はあえて描かれません(生臭くなるから?)。そして総理の源さんが、政界改革をなすまでの物語。

 ギャグを担当する部分は、源さんがいつもステテコ姿で自転車通勤、シケモクばかりを吸い、国会ではセーラー服で踊り、さらになんと女子高生から婆さんまで、年令の違う五人の妻がいるところ。笑わせてくれます。

 そしてストーリーの中心は、源さんの提出する法案です。この「国会議員性根たたき直し法案」は、国会議員の歳費を億単位まで値上げするというものです。国会議員の敵は、実は国民であり、国民から自立することをめざす、逆説の法案。この一発アイデアで、全三巻を支えきりました。

 すべては童話です。寓話です。でも、政治という生臭い世界を描くと、童話であっても生臭さが抜けきれない。諸派の反対、切り崩しを乗り越えて、最終的にはマンガの中で国会は与党も野党もなく「翼賛体制」となり、この法案は衆議院で賛成509、欠席3という圧倒的多数で可決されます。

 この部分、わたしにはどうしてもノリきれません。国会議員全員が源さんを支持して、風呂敷を首に巻いている光景に、カタルシスを感じることができないのです。これがスポーツなら、なんてことないのですが、政治がテーマになると、こっちもかまえちゃうんですね。

 オビの推薦文を書いてるのが、夏目房之介、岡田斗司夫、いしかわじゅん。1巻で解説書いてるのが大月隆寛で、マンガ夜話メンバー総出の激賞(オビと解説なんだからアタリマエなのですが)です。これだけきっちり揃えられると、これもなんだかマンガ内のエピソードに似てるかな、なんて。

|

« 「このマンガがすごい!」は、まだまだすごくない | Main | 寒い寒い »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 生臭いものの料理法:

« 「このマンガがすごい!」は、まだまだすごくない | Main | 寒い寒い »