しつこくトリアッティ(その1)
しつこくてすみません、トリアッティの3回目、きっと最終回になると思います。
これまで、白土三平「忍者武芸帳」の影丸の言葉、「われらは遠くからきた。そして、遠くまでいくのだ………」の出典について2回書いてきました。
皆様よりいろいろとコメントいただき、本当にありがとうございました。自分ひとりでひねくっていても、絶対出てこないような発想がいろいろと。今回はその中から、長谷邦夫先生にコメントをいただいた、現代詩方面からのお話。
吉本隆明の「涙が涸れる」という詩があります。「けふから ぼくらは泣かない」で始まるこの詩を全文引用するのは、著作権上、問題のようにも思われますので、後半だけ(でも、俳句とか短歌とかに触れるときはどうしても全文引用せざるを得ないと思うんですが、このあたり、どうなんでしょ)。
(前略)
胸のあひだからは 涙のかはりに
バラ色の私鉄の切符が
くちやくちやになつてあらわれ
ぼくらはぼくらに または少女に
それを視せて とほくまで
ゆくんだと告げるのであるとほくまでゆくんだ ぼくらの好きな人々よ
嫉みと嫉みとをからみ合はせても
窮迫したぼくらの生活からは 名高い
恋の物語はうまれない
ぼくらはきみによつて
きみはぼくらによつて ただ
屈辱を組織できるだけだ
それをしなければならぬ
この作品は1954年に発表されたあと、1958年に「吉本隆明詩集」としてまとめられ、さらに1963年「吉本隆明詩集」、1968年「吉本隆明全著作集1 定本詩集」にも収録されました。
この詩で「とほくまでゆく」のは、「ぼくら」であり「ぼくらの好きな人々」です。「ぼく」じゃなくて「ぼくら」なのが、連帯を信じた時代の言葉。影丸の言う「われら」に対応しています。
吉本隆明は、この時代の自らの作品を「きわめて左翼的な詩」と語っていますが、とくにこの詩は、革命を空想の物語とは考えていなかった時代の左翼的心情へど真ん中ストライク。四畳半的生活と「とほくまでゆく」気高い政治的行動の同居、みたいな感じでしょうか。
この詩は、1960年代後半に青春を送ったヒトビトに、とくに思い入れが強い詩だったらしい。
たとえば、連合赤軍事件で殺害された大槻節子(1948年生まれ)の遺稿集「優しさをください」を読むと、彼女の日記、1968年12月26日には、この「涙が涸れる」の詩がまるまる写されています。この詩は、当時20歳の女性の胸に響き、かつ有名な作品であったのです。
さらにネットで探すとコチラのかたの文章。
文章を書かれた十河進氏は、杉山恒太郎のアサヒビールCMに登場するフレーズから、吉本隆明の詩を連想していらっしゃいますが、あれれ、そうだったっけ。
CMは二編作られていて、一編はジャガーズの「君に会いたい」をBGMに使用し、もう一編はテンプターズの「エメラルドの伝説」をBGMに使っていた。それらの曲が流れる中、三人の男女の青春物語が15秒あるいは30秒で描かれる。
夏の日、三人が海で戯れているカット、平田満の下宿にやってきた風間杜夫が「彼女が好きなんじゃないのか!」となじるカット、土砂降りの雨の夜、走り去る風間杜夫を見つめる真行寺君枝のカットなど、いかにもそれらしいシーンが繋がれていた。(略)
そのCMには、ふたつのキャッチコピーが使われていた。ラストの製品カットに「遠くまでいくんだ」というナレーションが重なり、そのカットの下には「あなたが私の青春でした」というコピーが出た。
何か微妙に違ってるような気がするなあ。別のサイトではCMはこういうものだったと。
喫茶店のカウンターに離れて座る風間と君枝。
風間「夢だったんだよなあ」
−ジャガーズの「君に会いたい」が流れる−
(若かった二人の回想シーン)君枝の見ている前で、他の女(亜湖)と踊る風間。
そんな風間を「お前なにやってんだよ!」と、仲間の平田満が殴る。
「遊びだよ、遊び」と答える風間。「やめて!」と止めに入る君枝。
もとのカウンターのシーン
風間「夢だったんだよなあ」
君枝「ダメ、いま降りちゃ」
ナレーション「すべての青春にアサヒミニ樽」
この他ラグビー篇もあり。
ラグビーの試合に負け、疲労困憊で座っている風間と平田。
そこに仲間(草薙良一)がやってきて慰める・・・というもの。
バックに使われた曲はサベージの「いつまでもいつまでも」
わたしの記憶では、こっちのほうがしっくりくるかな。さて、実際のCMに「遠くまでいくんだ」という言葉があったかどうかは別にして、「遠くまでいくんだ」について十河氏はこう書かれています。
それは僕らの世代のフレーズだった。
うーん、そうか、そこまで言うひとがいるのか。この場合「僕らの世代」とは「70年安保世代」のことです。そして吉本隆明のこの詩は、鮎川信夫の詩「繋船ホテルの朝の歌」への返歌じゃないかと。あらら、鮎川信夫まで話がのびてきちゃった。
以下次回。
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