山川惣治と空飛ぶ円盤(その3)
(前回からの続きです)
「太陽の子 サンナイン」の舞台は、南米、ペゼラ国という架空の国です。国境を越えてブラジルに行ったり、コロンビアに行ったりしてますから、地理的にはベネズエラあたりをモデルにしてるらしい。
主人公は10歳の美少年、陽一です。 陽一は12歳が近づくにつれ、超人的な力を発揮し始めます。彼の亡くなった母は日本人、そして父親は宇宙人でした(!)。
ある飢饉の年、空飛ぶ円盤が降りてきて、ヒト型宇宙人であるミリオンが現れました。彼は不思議な力で雨を降らし、先進的な機械を使って農園を作り、人々を助けます。
ミリオンは日本人移民の娘と結婚し、生まれたのが陽一。陽一が誕生したとき、天空に9つの光(=空飛ぶ円盤)があらわれ、これが「サン・ナイン」であります。
ミリオンは、インカ帝国の末裔たちの生活のため、インカの宝物を売って資金を得ます(←ちょっとどうか)が、そのころクーデターでペゼラ国の政権を奪取したゴステロ大統領がこの宝に注目し、ミリオンと陽一の母を殺害してしまいます。
サンナイン・陽一が、ゴステロ政権に対抗する地下組織や先住民たちと協力して、革命に成功するまでが全体のストーリー。
陽一は、アマゾン奥地の忍者の種族(←南米で忍者というのもアレですが、ホントにこういう目撃譚があったのかしら)、タバス族に忍術の訓練を受け、水の上を走ったり、すばやく動いて姿を消したりできるようになります。
陽一に協力する3人の女の子がいまして、地下組織の美少女・エミリヤ、タバス族のおねえさん忍者・タマラ、タバス族のところで生活している白人美少女忍者・メニヤ。残念ながら、「少年王者」のすい子さんのような色っぽい少女はいません。
ジャングルの怪獣たち、大蛇のラ・デボール(「少年ケニヤ」のダーナの焼き直し)とか、ジャイアント・ギボン(UMA界ではモノ・グランデとして知られてます。アゴにつっかい棒した猿の写真で有名)が登場するときはたいへん楽しい。山川惣治の描く動物の絵はあいかわらずすばらしい。
さらに陽一は、父親の遺産の超科学を勉強して、空飛ぶマグネチック・カーや地底推進艇を造ります。ただしメカのデザインは、もうひとつかっこよくありません。
陽一が危機に陥ると円盤が飛んできます。円盤が来ると電気機械はまったく動かなくなりますし、銃も発射できなくなります。ある夜、陽一は円盤に乗って宇宙母船団を訪れ、宇宙連合の惑星首脳者、グレート・マスターに面会します。
「サンナイン」では、物語を進行させる力として、古典的な親の敵討ちと、政治的革命が同居してます。ただこれだけでは、宇宙人が出てくるような物語のスケールとしてはもうひとつ。そこで世界的陰謀団としてブラック・シンジケートが登場しました。
宇宙人の文化が地球にもたらされると、戦争はなくなり、病気はなくなり、人間は神のように気高い人格になる。これを大宇宙主義と言うらしい。これでは戦争で儲けるブラック・シンジケートとしては困ります。そこで、ペゼラ国のゴステロ大統領に資金を提供し、水爆ロケットを建造させ、当時戦争中のベトナムに撃ちこんで第三次世界大戦を起こそうという計画。このあたり007的。
陽一はグレート・マスターから、ブラック・シンジケートの野望を砕くようにとの指令を受けて、水爆の破壊を見事に成し遂げます。ペゼラ国の革命も成功して大団円。ただしブラック・シンジケートはまだ残っています。円盤から声が聞こえます。
「地球はブラックにねらわれている。第三次大戦がおこれば地球はほろびるのだ。おまえの母の国、日本へかえれ! 日本は神にえらばれた国だ、宇宙船の地球への友情をただしく日本の人々にしらせるのだ」
富士山上空で、ジェット機に乗った陽一を宇宙母船群が迎えるシーンでオシマイ。
絵物語時代最末期の山川惣治作品は、インカ帝国、ジャングルの冒険、圧政と革命、南米の忍者、空想の未来機械、国際陰謀団、空飛ぶ円盤と宇宙人、なんでもありのゴッタ煮的作品でした。傑作とは言えませんが、それなりに十分面白い。絵物語がマンガによって淘汰されちゃったのは、それぞれの作家・作品の力によるものではなく、形式の問題なのでしょう。
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