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November 03, 2005

秘密結社ふたたび

 前回のエントリで、悪の秘密結社の流行は1960年代、007シリーズから始まったと書きましたが、その後、もっと昔の作品をあさってみますと、これが大間違い。秘密結社や、それらしきものって、けっこう昔からあるんですね。失礼しました。

 まず、戦後作品で手塚治虫とは別系統のもの。横井福次郎「ふしぎな国のプッチャー」は、1947年から「少年クラブ」に連載されました。これに登場する三大発明があって、人造人間ペリー、空中を歩くことができる電波軌道、それを着ると姿が消える透明外套。これを奪い取ろうとしているのが、「とらひげ陰謀団」。みんな黒の帽子に黒のルパシカみたいな制服を着てます。制服を着た悪人ってのはわかりやすい。

 自動操縦の飛行機や、浮島になってるハイテクの秘密基地を持ってますから、007ふう秘密結社に似ている。彼らは「人造人間を悪用して地球上の幸福をひとりじめしようとしている陰謀団」と説明され、「ペリーという十万馬力の人造人間を利用してこの国をわがものにしようとたくらん」でいます。別のところでは「世界征服の陰謀」という言葉も出てきますから、通常のギャング団というより、世界的規模の悪の組織らしい。

 そのわりに、団長(というのもヘンな表記ですけど)の「とらひげ」は、主人公たちのロケットに密航して、楽しく宇宙旅行をしたあげく、「愛のエキス液」を飲んで改心しちゃいます。牧歌的だなあ。

 手塚と無関係の流れをもうひとつ。「黄金バット」は、1930(昭和5)に紙芝居の大人気作品でした。戦後、1947年より単行本として「なぞの巻」「地底の国」「天空の魔城」が出版され、その後1948年からは「冒険活劇文庫」(のちの少年画報)にも連載されました。

 単行本は第4巻「彗星ロケット」が出版された後、「冒険活劇文庫」に「科学魔篇」が連載されましたが、1950年に未完にて中断。1952年から1953年にかけて「少年画報」に連載再開され完結しています。

 悪役は、初めは「怪盗黒バット団一味」の首領、黒バットでした。配下にいるのが、「ハルピンお光」(パンツルックのおねいさん)やら「モモンガーのおくま」(和服のおばあさん)やら「ドブロクスキー博士」(でっぷり太ってヒゲの科学者)。なんだかなあ。主人公たちと闘って両足を切断する重症を負ってしまった黒バットは、黒いミミズク型の覆面をかぶって、「ナゾー」と改名しました。この「ナゾー」のスタイルはアニメや映画でも有名ですね。

 もともとはドロボウだったのですが、手下たちはやっぱり制服らしきもの着てます。「怪タンク」(搭乗可能な巨大人型ロボット)とか出てくるわ、地底国の都市を破壊するわ、宇宙旅行するわ、マオー星のクーマ大王という宇宙人と協力して黄金バットと闘ったり。

 舞台が地底やら宇宙やらにスケールアップするのにつれて、いつの間にやら目的が、「全世界を悪の世界にしようと」することに変わっていきました。純粋な悪の追求をしてるわけですから、これも秘密結社に近いものじゃないかと。

 手塚治虫作品では「地底国の怪人」(1948年)。

 「黒魔団」(ブラック・ディーマン・クラブ)は、地底国の女王と組んだ人間の団体。彼らは地底の財宝目当てに、地底国の手先になっているのですが、やってることは爆弾で市街のあちこちを爆破するというテロ行為。「地上の世界をすっかりぶッこわす」のが目的ですから、これはもう、政治的目的をもった秘密結社とも考えられる。

 さらに、「ロスト・ワールド」(1948年)。

 五百万年ぶりに地球に接近したママンゴ星。その星にある岩石に電流を流すと膨大なエネルギーを得ることができる。ここに登場する悪役が「ママンゴ星秘密結社 日本支部」。秘密基地の廊下の壁に、こういう張り紙があるんですよ。別にママンゴ星人じゃなくて、地球人の組織です。

 日本支部というからには、海外に本部がある国際的な組織らしい。彼らはママンゴ星の岩石を手に入れようと暗躍しますが、そこから先の目的は不明です。もしかしたら世界征服?

 戦前の冒険小説に目を向けてみます。

 押川春浪「海底軍艦」は1900年(明治33年)に発行されましたから、これは古いなあ。東宝の映画になったからかなり有名。

 日本海軍が南洋の孤島で、「海底戦闘艇“電光”」を秘密裏に造っているというお話です。このころまだ、潜水艦は存在してません。

 この作品の悪役は、「海蛇丸」という海賊船ですが、1隻だけじゃなくて7隻の船団を組んで電光を奪おうとする。彼らは普通の海賊じゃなくて、ヨーロッパの大国から援助を受けて装備や兵器を増強している。陰には国家同士の対立があるという図式ですが、表面に出てくるのは海賊という民間人ですから、秘密結社のようなものと言えなくもない。

 山中峯太郎「大東の鉄人」(1932年、昭和7年)は、中国を舞台にした本郷義昭シリーズのひとつです。

 悪役として登場するのが、いろんな民族が参加している「日満秘密破壊党」で、その総司令が「赤魔バザロフ」。バザロフはロシア系のユダヤ人という設定で、彼に従うものは満州のみで三万人。ムチャ多いです。中国軍を指揮することもできるらしい。バザロフは「ユダヤ人の世界的秘密党“シオン同盟”」の極東委員長も兼ねています。

 このシオン同盟の解説が、最近のユダヤ陰謀本の元祖みたいなトンデモぶりでなかなか。蒙古平原にある森の中、月の光のもとで70人余りの男女が集い、シオン同盟に新入会員(ていうのかな)を迎え入れる集会を開いているシーンがあるのですが、彼らが何を誓っているのかというと、日本を滅ぼすことなのです。いや、なぜ日本を。

 どうも戦前の冒険小説では、悪役としての国家を登場させる代わりに、怪しげな国際的秘密結社を設定して、絶対悪を演じさせてるようです。この構図がそのまま冷戦時代に移行して、007シリーズでスペクターを誕生させたわけですね。

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Comments

チョココロネパンをちゃぶ台の上に逆さに立てて「ナゾータワー!うははは」とか言って食べてたな。秘密結社の下っぱたち(イー!と叫んで襲ってくる全身タイツ)彼らには出世の道があるのでしょうか、気になります。

Posted by: もにか | November 07, 2005 09:17 PM

初めてお邪魔致します。
>日本海軍が南洋の孤島で、「海底戦闘艇“電光”」を秘密裏に造っているというお話です。このころまだ、潜水艦は存在してません。

 潜水艦が初めて戦争で使用されたのは、アメリカの南北戦争においてだったと聞いています。もっとも、当時は完全に水面下に潜ることはできなかったそうですが。

Posted by: 大阪のジムシイ | November 13, 2005 12:02 AM

失礼しました、潜水艦て古いんですねえ。
このあたりのページを見ると、
http://www.nakashima.co.jp/museum/5_3.html
1900年にはすでにアメリカ海軍にはディーゼル潜水艦があるじゃないですか。押川春浪の書いてることを信用しちゃいけませんでした。やはり当時の秘密兵器だったでしょうから日本では知られてなかったのかな。

Posted by: 漫棚通信 | November 13, 2005 11:35 AM

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