スピーゲルマンの9.11
「マウス」で有名なアート・スピーゲルマンが9.11について描いたマンガ、「消えたタワーの影のなかで IN THE SHADOW OF NO TOWERS」が発売されてます。なんと発行は岩波書店。
スピーゲルマンはニューヨーク在住で、9.11のときには妻と街頭からタワーを目撃し、タワー近くの娘の高校に走って行くという経験をしました。この作品は、2002年2月から2003年9月にかけてドイツの週刊新聞に断続的に連載されたものです。
驚いたのは、作品の内容よりも造本です。原著もそうらしいのですが、大型本で厚さが約18mm。ただし、1枚の厚さが1mm弱の厚紙を使っていますので、38ページしかありません。これで3800円+税。今日のアマゾンによると、アメリカ版が定価19.95ドルの15%割引で1975円、イギリス版が20ポンドの15%引きで3595円です。
2ページの見開きが、新聞の1ページの連載分に相当しますから、本を横にして、下から上にめくりながら読みます。アメリカの新聞日曜版の形式に沿っており、1ページの中に数コマずつの複数のマンガが並べられています。あえてバラエティを持たせて描き分けられている。
9.11に間近で遭遇した著者は、驚き、とまどい、そしてブッシュの戦争に対する反対の表明をします。で、この連載が10回分で20ページ。
著者がもちいた手法は、コミック・ストリップ黎明期のマンガのパロディです。リトル・ニモのママが、ガスマスクをかぶってたりね。著者は悲劇を何とか滑稽化しようとして苦心していますが、現実に進行する悪意の応酬に呆然と立ち尽くしてる印象。作品が描かれたのが9.11から2年以内ということもあるのでしょう。
本の後半は、19世紀末から20世紀初頭のマンガの復刻で、まず「イエロー・キッド」、「カッツェンジャマー・キッド」と「フォクシー・グランパ」の合作、「ハッピー・フーリガン」、「キンダー・キッズ」、「リトル・レイディ・ラブキンズとマファルー老人のさかさま物語」(1987年に邦訳あり『少女ラブキンズとマファルー老人の冒険』)、「リトル・ニモ」、幼い手塚治虫にも影響を与えたと言われる「おやじ教育」、「クレイジー・キャット」で計8作。で、これが14ページ。
もし、新聞連載で読んだとしたらいい作品だと思ったかもしれませんが、このパッケージで読まされるとなあ。少なくとも日本語版は、売るつもりがあるのかというような値段設定です。いや、値段はともかくとしてもページ数とのバランスがね。これではあまりに読者が限定されてしまって、本にとっても不幸なのじゃないでしょうか。
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