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October 31, 2005

悪の秘密結社

 小説、映画、マンガ、アニメ、特撮の中で、「悪の秘密結社」という言葉はどれほど使われてきたのでしょう。googleで検索すると4万件ヒットしますから、けっこう人口に膾炙してる言葉ですね。

 「秘密結社」という言葉自体は、明治時代からありました。多くは政治的な結社です。その国の法律上、非合法であった政治結社は秘密結社と呼ばれました。

 戦後になって日本の現行憲法の下では「結社の自由」が認められていますから、少なくとも戦後日本では結社は秘密である必要はないはずです。ですから「秘密結社」という言葉には「国際的」秘密結社というニュアンスがあります。

 娯楽作品に登場する「悪の秘密結社」の元祖は、おそらく、「007」シリーズの悪の組織「スペクター」でしょう。小説じゃなくて、映画のほうね。スペクターの一員であるドクター・ノオが登場する「007は殺しの番号」の日本公開が1963年。TV「0011/ナポレオン・ソロ」(日本放映1965年)の悪役組織も「秘密結社スラッシュ」でしたね。

 乱立する「悪の秘密結社」の中で、現在なお最も有名なのは、「仮面ライダー」(1971年から放映)に登場するショッカーです。毎週テレビで、「仮面ライダー本郷猛は改造人間である。彼を改造したショッカーは世界征服をたくらむ悪の秘密結社である」というナレーションが流れてりゃ、「悪の秘密結社」という言葉が日本人の脳に刷り込まれたのも納得できます。

 「悪の組織」とかいうんじゃなくて、「悪の秘密結社」っていうのが、何やらかっこよかった。「悪」とひとことで言い切るのが、イサギヨイ。さらに、その目的が「世界征服」。なんとわかりやすい。

 仮面ライダーではこれほどまでに単純化されちゃった悪の組織ですが、これに先行する石森章太郎作品ではどうだったでしょう。「スカルマン」(1970年)の黒幕は、「日本じゅうのあらゆる企業……財界や政界までも牛耳っている大物」でした。ちょっと前の青年マンガの悪役と言えば、一時はこんなのばっかりでした。

 「サイボーグ009」(1964年)の黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)は、「死の商人の総元締め」という、非常に斬新な存在でした。目的はもちろんお金。ところが、そのうちに「やがては戦争であれはてつかれはてた世界を征服しようとしている」という設定が出てきて、おお、世界征服。ちょっとありきたりになっちゃった。

 ただし、その正体はすごい。「黒イ幽霊ハ人間タチノ心カラ生マレタモノ」で、「人間ノ悪ガ ミニクイ欲望ガ作リアゲタ怪物」なんだから、今読んでも漫画史上最高の名悪役ですなあ。

 手塚治虫になると、「アトム大使」(1951年)にはすでに、科学省長官にして、宇宙人を暗殺して回る赤シャツ隊の首領、天馬博士、なんていうチョー複雑な悪役がでてきますが。

 これらの複雑さからすると、「世界征服をたくらむ悪の秘密結社」がいかに説明不要で問答無用のわかりやすさを持っていたか。子供向け悪役の説明としては、まさに無敵であります。

 悪の組織を子供向けで単純に設定することは、手塚以来の複雑な悪の造形を廃して、先祖がえりすることでしたが、子供たちにはコレがよかったらしい。マジンガーZ(1972年)もガッチャマン(1972年、ギャラクターもたしか秘密結社でしたね)も、1970年代前半の悪の組織は、どれも単純に世界征服をめざしていました。

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Comments

「悪の秘密結社」ってTV『仮面ライダー』のあたりから、何か子供誘拐したり、狭い地域に毒流すとか、ひじょうにセコい戦術をとるようになった気がします。世代的に大人だったので「こっから世界征服まで迂遠だなぁ」という笑いネタだったんですが・・・・。もともとは戦前からのユ系秘密結社が上海で暗躍・・・・とかって想像力の少年冒険小説などへの展開だったって聞いた気がしますね。

Posted by: 夏目房之介 | November 01, 2005 at 01:22 AM

コメントありがとうございます。戦前の冒険小説はまったく視野にありませんでした。視野が狭くていけません。調べてみますと、山中峯太郎「大東の鉄人」にユダヤ人組織「シオン同盟」が登場してるみたいで、読んでみることにします。

Posted by: 漫棚通信 | November 01, 2005 at 05:47 PM

緋色の研究のモルモン教とか海外の小説にはいくらでも出てくるんじゃないですか。漫画研究って海外の探偵小説SF小説アメコミアニメまで全部調べてくれないと日本だけだとどうも片手落ちな気が。

Posted by: 麻原 | November 05, 2005 at 06:39 PM

おっしゃるとおりだと思います。大衆娯楽モノ全般の、影響を受けた与えたの地図を作るのはそれこそ大事業になっちゃうでしょう。今考えているのは、国際陰謀モノはとりあえずヴェルヌ、ドイル、ルブラン→押川春浪、山中峯太郎、南洋一郎あたりからじゃないかと。

Posted by: 漫棚通信 | November 05, 2005 at 10:08 PM

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