どうして動物「ブラックサッド」
フアン・ディアス・カナレス/フアーノ・ガルニドの「ブラックサッド」シリーズ2作が、早川書房から発売されてます。フランスで出版されたバンド・デシネ。
シリアスな私立探偵ハードボイルドです。舞台は1950年代アメリカ、一匹狼でストイックな主人公が、都会や田舎で善人の皮をかぶった悪をあばく。絵はむちゃうまくて、背景は室内も戸外も雰囲気十分。女性はおっぱい大きくウエストしまってスタイル抜群、主人公は背が高くて肩幅広く、ひたすらかっこいい。でも、主人公がねー、黒猫なんですよこれが。
著者ふたりはスペイン出身です。絵を描くフアーノ・ガルニドは、フランスのディズニースタジオ出身で、動物の表情はうまいなあ。フアン・ディアス・カナレスの書くストーリーは、第1作「黒猫の男」はよくある展開(探偵が適当に捜査してると、犯人側がいろいろ動いて謎が自然に解けちゃう)でしたが、第2作「凍える少女」はなかなかこみいったプロット。でも主人公は黒猫。
刑事はイヌ。ボクサーはゴリラとイノシシ。掃除のおばちゃんはネズミ。芸能社の社長はもろディズニー調のアザラシ(オットセイ?セイウチ?)です。
首から下は一応人間体形で、スタイルのよいネコ(♀)たちがいっぱいバレエレッスン受けてる絵なんてのもあります。動物同士のエッチシーンもちょっとあるし。首から上が動物、カラダは基本的に人間。宮崎駿のアニメ「名探偵ホームズ」を思い浮かべていただきましょうか。あんな感じ。あれもイタリアからの企画段階で、どうしてイヌなんだと日本側は困惑したらしいですが。
登場人物を動物にして、どこが有利なのか。まず、なんといっても表情豊か。デフォルメされた動物の顔は人間以上によく動きます。
そして、動物なら性格を説明しなくても、読者が勝手に推測してくれる。これまでの童話、マンガ、アニメなどの蓄積で、この動物ならこんな性格、という思い込みが読者側にすでにあります。動物占いですな。第1作の黒幕は○○○だったのでちょっと驚いた。意外な犯人にも使えるようです。
動物だったら、残酷なシーンもクリアできる(かもしれない)。第2作のオープニングは、市中で首吊りされたコンドル(?)ですが、あんまり残酷とは感じない。
第1作で、トカゲを尾行するモグラが「ラ・イグアナ」という店に飛び込むと、中はワニとかトカゲの爬虫類ばっかりでびっくり。人種か民族の比喩です。
第2作では、白人と黒人の対立がありますが、白人はシロクマ、シロイヌ、シロブタ、シロイタチ、シロフクロウたち。黒人はクロウマ、クロウシ、クロイヌ、クロカササギなどで、毛の色により区別されてます。主人公の黒猫は、顔に一部白いところがあるので、両グループから敵視される。で、このことがメイントリックの伏線になってて、これにもちょっとびっくり。
とまあ、動物を登場人物にするといろいろとイイコトがいっぱいなんですが、でもなあ、やっぱなあ、動物だしなあ。なんか無理なことしてるような気がして。というのは日本人の感覚でしょうか。
アメリカでもヨーロッパでも、なぜかけっこう動物を擬人化して使うんですよね。印象だけで言いますと、擬人化された動物世界を舞台にするマンガは日本より多いのじゃないでしょうか。アチラのマンガの伝統芸といえるかもしれない。どうしてかなあ。
Comments
武内つなよし先生の動物漫画といえば、わんウェイ通りのことですね。
タイトルは、当時、少女クラブ編集者だった丸山昭さんがつけたという噂があります。
Posted by: 本間正幸の少年画報大全 | September 11, 2009 04:40 AM
コメントありがとございます。ごめんなさい、武内つなよしの動物マンガ、思い浮かびません。上のエントリ書いたあと日本の動物マンガで何があったかと考えておりました。「ジャングル大帝」「ぼのぼの」「マキバオー」みたいな「動物界」を描いたものとは違い、動物が服を着てまるきり人間みたいな生活してるものといえば、まず「のらくろ」と「カバ大王さま」。「Dr.スランプ」や「アンパンマン」、ますむらひろし作品もそうかなあ。「しまじろう」や久保キリコの「アニマルマニア」。あと何がありましたっけ。アニメなら「メイプルタウン物語」とかいっぱいありそうですけど。
Posted by: 漫棚通信 | September 28, 2005 05:01 PM
「カバ大王様」に夢中になった私ですが、「赤胴鈴之助」の武内つなよしさんが、犬の漫画を描いてげっそり失望した記憶があるのですが、そういう「失敗作」って残ってるんでしょうか。
Posted by: 鹿之助 | September 27, 2005 08:34 PM