バイトくんの風景
いしいひさいち「大阪100円生活」が発売されてます。「バイトくん」が主人公の、相変わらずの貧乏大学生マンガですが、この本には、いしいひさいちのエッセイ(というか短文)が掲載されており、これを読んでてちょっと驚いた。
著者が大学生時代に、万博へ向かう電車がえらいこと混雑しておったという記述がありまして、ああそうだった。いしいひさいちが1951年生まれ、1970年大阪万博のときに19歳。つまり、バイトくんがサンダル履きでうろうろしているあの街は、1970年前後の大阪だったか。
何を今さらとお思いでしょうが、著者が「日刊アルバイト情報」にマンガ連載を開始したのが1972年。ちなみに、いしいひさいちも投稿した虫プロ「COM」が休刊したのが1972年。「Oh!バイトくん」がチャンネルゼロから同人誌として発行されたのが1974年から1977年。プレイガイドジャーナル社版の「Oh!バイトくん」発行が1977年11月。「タブチくん」のアクション連載開始が1978年で、単行本が発売された1979年にはベストセラー作家に。
いしいひさいちが全国レベルに登場したのが1978年。政治の時代はすでに終わり、学生はシラケていると評されたころ。ニュートラやらハマトラやらサーファーの時代です。
マンガ方面ではニューウェーブと呼ばれた一団がいました。読者がいしいひさいちの「バイトくん」をどう見ていたかというと、ニューウェーブ・マンガのトップランナーで、オシャレな大学生活に対するアンチの表明であると。初期バイトくんにときどき出てきた「東淀川貧民共和国」も、すでにアナクロになっていた学生運動の戯画である、とまあ当時のわたしは考えておりましたね。
ところが、著者が大学生時代から描き続けているバイトくんは、まさに政治の時代の生き残り。1970年前後の大学生は、いかにノンポリとはいえ時代の影響を受けないはずはありません。「東淀川貧民共和国」のデモは、まさに今そこで起きている事実を描いたもの。彼らの貧乏は、時代に対するアンチでもなんでもなくて、そのままのリアルだったのか。
「大阪100円生活」を読んで、バイトくんは、1975年連載開始の「嗚呼!!花の応援団」より先行していたことを再確認した次第です。
さて、1970年からも1978年からも遠く遠く離れてしまった現代、バイトくんは何をしているかというと、十年一日どころか、三十年一日の永遠の貧乏生活です。さすがにヘルメットにタオルでマスクの学生は登場しなくなりました。
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