マンガの祖
日本でマンガの始まりとしてよく例に出されるのが「鳥獣戯画」。これは平安時代の作品ですが、のちに法隆寺金堂の落書きが発見されたら、おお、偉大なる日本マンガの歴史は奈良時代までさかのぼるのだ、なんてね。ちょっとナショナリズム。
じゃあ欧米ではマンガの始祖はどうなっておるのか。
この手の本はあまり持ってないのですが、まず、日本の本では須山計一「漫画博物誌 世界編」(1972年番町書房)。
この本では「漫画」という言葉を「Caricature」あるいは「Cartoon」の訳語として使っています。ですから、
・人類の最初の漫画といっていい作品は、遠く旧石器時代の遺蹟などに残っている一れんの洞窟画である。
うーむ、ここまでさかのぼるか。マンガの始祖はプリミティブな絵画であると。続いてメソポタミアの遊戯盤の絵とか、エジプトの「死者の書」が出てきます。以後この本では、「漫画」=「Caricature」=「滑稽を感じさせる戯画的な絵」として話が進みますが、この考え方はちょっと古いかな。
アチラの本では、ジェラール・ブランシャール「劇画の歴史」(1974年河出書房新社)。著者はフランス人なので、ここで言う「劇画」とは「Bande Dessinee」の訳語です。この本、訳がひどいので評判が悪いのですが、わたしは名著だと思うんですけどね。
この本でも、バンド・デシネの始まりを旧石器時代の洞窟壁画にもとめています。
ただし、この本で考えられているバンド・デシネは物語性を重視して論じられており、絵と文字、すなわち「デッサンとテキスト」が併用された絵画が、バンド・デシネの祖であると。ヨーロッパ中世には絵と字が交じり合った絵画が大流行してて、教育や娯楽に使用されていました。
この本で「近代漫画を発明した」として大きく取り上げられているのが、19世紀前半に活躍したジュネーブ出身のロドルフ・テプフェールRodolphe Töpffer(1799-1846)なんですが、実はわたし、この人のことがよくわかってませんので、またいずれ。
日本では、幕末から明治にかけて来日したワーグマンとビゴーの影響下に、19世紀の近代マンガが始まりましたが、世界的に見て19世紀の大きな事件は、アメリカの新聞マンガ「Comic Strip」の誕生です。
洋書ですが、Ron Goulart 「The Funnies: 100 Years of American Comic Strip」(1995)の第1章のタイトルは「ホーガンズ・アレイの夜明け」。ホーガンズ・アレイはニューヨークの下町。マンガの主人公、中国人の子供イエロー・キッドが住むところです。
1896年ニューヨーク・ワールド紙に掲載されたR・F・アウトコールトの「イエロー・キッド」は大成功し、形式的にも現代マンガとほぼ同じものが完成しました。イエロー・キッドの名は、センセーションを売り物にするイエロー・ジャーナリズムの言葉の元になったと言われています。
全体は複数のコマで形成され、そのコマは時間経過を示している。各コマの内部は、絵とセリフの書かれたフキダシと擬音で構成される。初期のいわゆる漫符も使用されています。物語性があり、最終コマでは笑いのあるオチを持つ。
マンガは、19世紀末アメリカで、形式が完成し、新聞というマスの流通を得ていました。ほぼ今の形ができたんですね。「夢の国のリトル・ニモ」のウィンザー・マッケイも、この時代の人です。現代のわたしたちが読んで面白く感じるマンガの出現もこのあたりから。
Comments