困った本「少女まんがの系譜」
タイトルにいつわりあり。二上洋一「少女まんがの系譜」のことです。
このタイトルで、オビに「少女まんが全史を総覧 長年、担当編集者として現場に立ちあってきた著者による、書き下ろしまんが史、まんが論」とあれば、米沢嘉博の「戦後少女マンガ史」や「別冊太陽 子どもの昭和史 少女マンガの世界」も古くなったし、それ以来だなあ。と、思うでしょ。ところがさにあらず。序章にはこのように。
・この稿の目的は、「漫画の歴史」を見ていくことではない。
・これは評論書ではない。歴史書でもない。
・資料が散逸したり、少女まんがの世界に関するエピソードが捻じ曲げられて残ったり、消滅する前に、あるがままの形で後代に伝えたいというのが真意である。
おおそうか、知られざるエピソードが読めるのか、と思ったら、あとがきでは、
・すでにオープンになっている伝説的なエピソードや、人名辞典に記載されている生年や経歴だけを書かせていただきました。
どないやねん。
結局どんな本かといいますと、まず巻末に、かなり詳細な少女マンガ作品年表が載ってます。わたしは年表を読むのが好きなのですが、フツーの読者にはつらいかも。で、著者がその年表をながめながら、人名と作品名をただただ、羅列していく、という本です。
最初に少女マンガの起源として、田河水泡「スタコラサッチャン」をあげています。戦後の少女マンガは、わたなべまさこ・牧美也子・水野英子の3人から始めてますが、これは米沢嘉博と同じ。途中には、里中満智子・一条ゆかり・内田善美・くらもちふさこ、4人の長めの作家論があったりします。
が、それ以外は、作家と作品の名がひたすら、ずっと続きます。作家のエピソードなんてほんのちょっぴり。年表は2000年を越えて続きますが、本文は1988年で突然終了してて、愕然とします。「昭和が終わったから」だそうです。平成の17年間の少女マンガは、「天然コケッコー」「プライド」などのわずかな作品を除き、著者にとってほとんど空白か。
図版はまったく載ってません。これもめずらしいな。
著者はもうすぐ70歳になろうとする、元・集英社編集者のかたですが、何のための本なのか、よくわからん。結局、ヤマダトモコ作成の労作(作成の苦労話はココとココ)、少女マンガ作品年表だけが役に立つという、困った本です。
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