ボンクラ映画からの引用もオサレになっちゃう「SEX」
上條敦士「SEX」がヤングサンデーに連載されたのが、1988年から1992年。第1巻が発売されたのが1989年。基本的にモノクロ印刷なんですが、ところどころに赤の色がはいってるというオシャレな造本でした。黒沢明の「天国と地獄」ですな。
第2巻が発売されたのが、ずーーっと間があいて、連載終了後の1993年です。当時の隔週刊雑誌連載にして、この単行本刊行のサイクルはどうよ。
2巻は赤じゃなくて、黒と青(紫に近い)の2色印刷でした。オビに「全7巻続々発売予定」とありまして、そうか、7色がつぎつぎ出てくるんだ、かっこいいなあ、と予測しましたよ、わたしは。この印刷は、登場人物のユキが色盲という設定からきているようです。ところが、はーて、「SEX」は、以後いつまでたっても刊行されない。
1995年の末に発売された「COMIC CUE」2号。巻末に上條敦士と安達哲の対談(たんなる電話での雑談みたい)が載ってます。
安達:そうねえ。しかし、上條さん、直すと言えば『SEX』の3巻、いつ出るんですか!?
上條:今世紀中には全巻(笑)。
安達:2巻はあれ、全部描き直したでしょう!?
上條:あれはね。
安達:あれはねって、よくもまあ、原稿料も入んないのにやるよなあ。俺はね、やっていいって言われたってやりませんよ。言われないけど。
上條:来年はね、『赤×黒』と『SEX』の3巻、出しますよ。まずそれをやる。
やりませんでした。
絵にこだわる作家は、全部描き直したくなるんですねー。で、昨年から突然、全7巻が毎月刊行され始め、やっとこ完結しました。雑誌連載との比較はできてませんが、1巻・2巻の濃密な絵が描き直したものとすると、3巻以降はけっこうゆるいような気がします。これ、描き直してるのかなあ。
このマンガ、いろんなものからできてるんですが、特に映像作品。
男、女、男の3人の不安定なチームといえば、「冒険者たち」(1967年)ですな。以前はよくTV放送してました。アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、そしてジョアンナ・シムカス、一生のうち一瞬の輝き。
不法行為でなんとか稼ごうとするチンピラの姿は、TV「傷だらけの天使」(1974年)。
沖縄のヤクザの抗争が出てきますが、下敷きになってるのは「沖縄やくざ戦争」(1976年)でしょうか。主役は松方弘樹ですが、沖縄拳法の型を見せる千葉真一がぶっとんでました。
似顔のうまい人ですから、菅原文太や佐藤慶も登場します。日本最大の暴力団・花田組組長の甲斐五郎は、映画と名字が違いますが、人斬り五郎=渡哲也かな。
5巻のカバーは、「燃えよドラゴン」(1973年)です。各話のタイトルも映画からの引用ばかりで、最終回直前の67話は「THE GOOD, THE BAD AND THE UGLY」=「続・夕陽のガンマン」(1967年)。ジャン・レノ風の殺し屋も登場。
でもって、ボンクラ映画からの引用ばっかりしてるこのマンガが、なぜ、こんなにオシャレなのか。上條敦士の描く中高生は、肩幅広いわ、スタイル抜群だわ、中坊には見えませんっ。性格だっていわゆるクール。
絵のうまい人が描くと、汗臭いオハナシもこう変化します。カッコよすぎるのが難だなあ。
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