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May 23, 2005

「A」を叱る(きっと前編)

 日本テレビ春からの新番組、日曜夜の久米宏司会、「A」をご存じでしょうか。地を這う視聴率で関係者おおあわて、ってな話題だけ流れてますから、見てる人はあまりいないかな。

 この番組で「アジアンドリームプロジェクト」という企画が始まってますが、そのなかに「アジアでマンガ家デビューするぞプロジェクト」というのがあります。番組のホームページによると

・日本の出版社に何度、原稿を送っても相手にされずリベンジしたい方! 自分のマンガはアジアでこそ花開く自信のある方! 台湾に3〜5日ほど滞在し、出版社に自分の作品をプレゼンするなど、台湾マンガ界にデビューを目指すチャレンジプロジェクトです。渡航参加予定者・1名(プロ、アマ問わず)

 なんやねんこれ。

 日本で相手にされないマンガ家志望者を、海外に送りだす? それって、あまりに失礼なんじゃないか。行かされる方にも、受け入れる方にも。

 第1回目の放送が昨日、2005年5月22日にありました。「涙の最終決戦!」というコピーが。涙なの?

 まず、国内選抜として5人が登場。「リアリティのある大人向けギャグマンガ」をめざす27歳女性。ラブコメを描く44歳男性。時代劇を描く34歳女性。墨絵で日本神話を題材にする49歳女性。現在マンガ家アシスタントで原作者志望の35歳。

 痛い。

 でも、彼らが仕込みではないのなら、番組趣旨から言うと年齢層が高くなるのはしょうがないか。

 で、国内で選ばれた1名が、「リアリティのある大人向けギャグマンガ」をめざす27歳女性。なぜ彼女が選ばれたのかは明かされません。若い女性ということで、「涙」が出やすいと考えられたのか。

 モニター上で見る限り、絵のレベルは5人の中でも低め。タイトルは「危険な恋がしてみたい」。「チョット太め」で「見た目もかなり個性的」な独身OLが、妄想の中で不倫する、という展開だそうです。

 5月11日、彼女は台湾に向かい、通訳の女性と出版社へ。

 青文出版社、台湾東販の2社を回り、ハシニモボウニモ、というか、お話にも何もなりゃしなくて、まったく相手にされません。その理由として、「大人向けすぎる」「ギャグマンガは台湾ではあまり需要が無い」「絵がかわいくない」とか遠まわしにいろいろ指摘されますが、肝心なところが語られない。要は、作品のレベルが低すぎるということでしょう。

 で、新展開の来週、後編の放送を待て、と。

 ここまでの前編の内容は、番組ホームページによるとこんなふう
 
 「月刊挑戦者」を発行している台湾の出版社全力出版も、日本テレビから協力を依頼され、企画に参加することになりました。編集者の林依俐さんのブログ「IGT避難用出張版」(林依俐 elielinさんについてはコチラを)によると、彼女のところに電話があったのが5月6日。撮影まで5日しかないっ。打ち合わせが5月10日。

 企画を聞いて、彼女の最初の感想は、マンガ市場の狭い台湾に、マンガの巨人・日本から、TV局主導で、何しに来るねん、と至極まっとうなお怒り。

 彼女の主張は以下のようなこと。

○マンガ産業が不振な台湾出身者が、マンガで食っていきたくてマンガ大国日本デビューをめざすならわかるが、マンガ大国日本に生まれ、日本でデビューできないから台湾で試してみようというのは、どうよ、と。

○「台湾では、数年前から日本のマンガが大ブーム!」(番組ホームページより)なのではなく、20年前から台湾市場で流通しているマンガのほとんどが、日本マンガ、しかもヒット作からの翻訳。このため台湾でのマンガ流行の傾向は、日本とほぼ同じで、日本でデビューできない人は台湾でもダメです、と。

○台湾雑誌側としても、時間をさいて日本人マンガ家志望者の相手をするのは、新戦力になるかもしれないと期待があるから。真剣にやるなら、プロットやネームの直しまで指示することになるが、3泊4日の撮影時間内じゃ、無理じゃないのか、と。

 ごもっともです。

 日本だけじゃなくてアジアに目を向けよう、価値観の違うアジアでは日本のものが受け入れられないこともある、努力すれば受け入れられるかもしれない、というコンセプトで番組作ってるようですが、価値観の違いより何より、まずはそこに至るすべてが、ズレまくってないかい。

 日本側スタッフの、台湾マンガの歴史や現状認識が間違っており、そこから導き出された企画がもう、アサッテの方向へ行ってしまっており、さらに、実際の撮影スケジュールがムチャ。

 どうもTVとしては、デビューできない、断られるだろう、という予定で番組をつくってるようです。これはもう、マンガ家志望者、台湾雑誌社の両方にあまりに失礼。

 「IGT避難用出張版」では、日本のTV局の勘違い、認識の浅さと、番組制作のウラを暴く連載となっており、今、一番ハラハラしながら読んでいるのがこのブログです。

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 と、ここまで書いて、来週の放送後に続きを書いてアップするつもりだったんですが、なんと「IGT避難用出張版」の記事が、ざっくり消されてしまいました。日本テレビからの圧力か、オトナの事情か。

 日本のTV局が、よその国のマンガ編集者の、ブログにまで口を出すか。

 というわけで、わたしも予定外ですが、前編だけでアップすることにしました。記事中の林依俐さんの意見の部分は、本来彼女自身の言葉を引用すべきでしょうが、元の記事が消されちゃいましたので、引用をひかえました。このため、わたしが書き直した形になっており、文責は、わたしにあります。

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Comments

なるほどウンナンでしたか。

ガチンコの台本はひどいですね。
台本があって全部芝居なんだけど、
あれではタレントの価値が下がってしまう。
朝まで生テレビも台本芝居なんだけど
ああいうのは実害があるからいかんですよね。

Posted by: 砂野 | May 25, 2005 04:59 PM

三本義治が出てたのは、ウンナンのTBSの番組でしたっけ。TOKIOの「ガチンコ!」で、舞登志郎が江川達也に理不尽な説教受けるのもありました。関西ローカルだと、「探偵!ナイトスクープ」で、寺島令子妹のてらかわよしこが、テレビカメラといっしょに出版社に売り込みに行くというのがあったような気が。これはハッピーな結果に終わった記憶があります。

Posted by: 漫棚通信 | May 25, 2005 09:02 AM

漫画志望者のドキュメントというと
「たけしの元気が出るテレビ」と、
電波少年(ちょっとオボロゲ。
別の番組かもしれない。プロの三本義治が
素人の扱いで出ていた。)がありましたが、
いずれも製作側に状況の客観視ができていました。今回のは企画側が企画の素人なんですね。
ビビアンスーとコメディアンが組んだ
ブラックビスケッツの「スタミナ」は小中学生が
転校するような歌なんだけど台湾で歌ったときは恋と仕事が絡んだ大人の歌詞に差し換えられていた。(プロデューサーは電波少年と同じ)子供向けの同じコスチュームで成り立つ感性の違いはあるわけで、そういう事情を混同したのかもしれない。しかし
漫画にしても音楽にしても子供向けだから精度が低くてよいという傾向はまったくないので、物知らずと言わざるを得ませんね。

Posted by: 砂野 | May 24, 2005 09:17 PM

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