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April 21, 2005

シートンいろいろ(その2)

(前回からの続きです)

 谷口ジロー版ロボと、村野守美版ロボの類似点は以下のとおり。

 谷口ジローのロボでは、オープニング、ロボとその一味がウシを襲うシーンから始まります。その声を焚き火をしているふたりのカウボーイが聞いている。若いほうが、オオカミを追いかけようとすると、老人がムダだと言う。

 このシーン、まるきり村野版と同じです。原作はシートンの一人称ですから、こんな老人と若者のカウボーイコンビなど登場しません。

 セリフも似ています。谷口版の老カウボーイ。「あいつはただのオオカミじゃない」「悪魔がのりうつってるのさ」

 村野版では。「あれはただのオオカミではない」(略)「まるで人間をあざ笑っているばけものだ」

 次に、ロボの群がウシを襲うのをカウボーイが目撃するシーン。谷口版では、老カウボーイの回想として描かれますが、村野版では、別のカウボーイが酒場で回想する形です。で、彼らはともに、興奮してライフルでロボに発砲するのですが、原作では、この男は銃を撃たないのです。銃撃という演出が似ている。

 テキサスのタナリーという男が登場して、ロボを追いますが、彼の造形が似ている。通常より背の高いカウボーイハットと、皮製らしい上着。面長の顔にヒゲ。

 シートンがロボに罠をかけ始めて次々と失敗。ロボと一緒に行動しているメスのブランカをねらって罠をかける。谷口版では、シートンがこのように言います。「これが失敗したなら」「もう……」「私はロボを追うことはないだろう」

 村野版では。「もし今度の作戦でもロボに負けたら…」「残る手だてはわたしにない!」

 ともに、これが最後の作戦との決意を表明していますが、実は原作では、シートンはこれが最後だとは思っていません。この劇的なセリフの演出が似ている。

 谷口ジローのオリジナリティはどこにあるのでしょうか。大きくは3点。まず、パリのシートンを描いたこと。今泉吉晴の評伝によっています。

 次に、シートンが遠くからロボを目撃するシーン。これは原作や村野版にはない見せ場になってます。

 そして、ブランカやロボが罠にかかるシーンを描いたこと。原作では、シートンの一人称ですから、罠にかかった彼らを発見するシーンはありますが、罠にかかるシーンは直接は書かれません。

 ここは全編のクライマックスともいえるわけで、マンガならぜひとも描写したいところでしょう。谷口ジローの演出は、ブランカが罠にかかるシーンを7ページ、ロボが罠にかかり、その後、牛に襲われるまでを11ページかけてじっくり見せます。村野版は原作どおりに、そのシーンはあえて描いていません。(ほるぷ出版の宮田淳一版には、罠にかかるシーンは、あります)

 これらの谷口ジローのオリジナリティある構成は認めながらも、特にオープニング、ふたりのカウボーイのシーンが、村野守美版に似てるんだ。このくらいの類似がなんだと思われるかもしれません。同じ原作を脚色してるんだから、似ないほうがおかしいのかなあ。でもやっぱり、この類似は気になります。

 こうなると、ぜひとも1974年の「谷口治郎」版が読みたいところです。これではどうなってたんだろうなあ。でも、おそらく読むことは不可能。

 わたしの推理では、谷口版、村野版に共通する元ネタがあるんじゃないか。リライトされた小説か、アニメか、実写映画か。まさかマンガじゃあるまい。

 と、ここまでひっぱって書いてきましたが、今回、オチはありません。結局、これについては確認できませんでした。

 子供向けにリライトされた「ロボ」をいろいろ読んでみましたが、マンガのような脚色をしている作品は見つかりませんでした。アニメに関しては、1990年ごろ、複数の「ロボ」が発売されているようですが、未見です。

 あとは、実写映画。ディズニーが「狼王ロボ」(THE LEGEND OF LOBO)を1962年に制作し、1963年に日本でも公開、1973年にはリバイバル公開されてます。英語版のビデオを取り寄せることは可能なようですが、うーむ、考えちゃうなあ。

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Comments

こんにちは。初めまして!
狼王ロボ好きで調べていたら辿りつきました。
2005年という記事ながら、楽しく拝見し、
書き込みさせていただきました。

私が大切に持っている漫画版シートン動物記は
石ノ森章太郎さん著、堀江卓さん絵のもので
手塚治虫先生の書評もついているものです。
学研まんが名作シリーズ として昭和55年ころ出版されました。
ディズニーっぽい生き生きとした絵柄で
子供の頃何回も読み直して大好きな作品です。
もし、未読でしたら、こちらもぜひ読んでみてください。
オススメです^^

Posted by: ブランカ | February 18, 2013 07:12 PM

おおっ、その手がありましたかっ。コメントありがとございます。他地域の図書館からの取り寄せサービスはときどき利用してるんですが、マンガに関しては思い浮かびませんでした。問題はこのサービスを使ったとき、館外への持ち出し禁止だし、コピーにも制限あることですねー。

Posted by: 漫棚通信 | April 22, 2005 10:10 AM

>でも、おそらく読むことは不可能。

そんなことないですよ。図書館で所蔵してる場合とか結構ありますし。
とりあえず、ここにはあるみたいですね。
http://www.library.metro.tokyo.jp/
(蔵書検索から谷口治郎で検索)

公立図書館どうしで相互貸し出しをやってる場合が多いですから、別の自治体に住んでいたとしても、地元の図書館の司書さんに相談してみてくださいな。
インターネットで調べてどこそこの図書館にはあったよ、と言えば借りれる可能性は高いですよ。

Posted by: soorce | April 21, 2005 10:47 PM

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