シートンいろいろ(その1)
谷口ジロー「シートン 旅するナチュラリスト 第1章『狼王ロボ』」が発売されてます。谷口ジローの圧倒的な画力で、自然と動物を描写。
「シートン動物記」は学校図書館の定番ですからみんな知ってるし、マンガ化されることも多い。動物を描くのが好きだったり得意なマンガ家にとっては、挑戦しがいのある原作のようです。「シートン動物記」の中で、なんといっても人気トップは、「狼王ロボ」でしょう。
谷口ジローは「ブランカ」「神の犬」や「犬を飼う」も描いてますし、紙屋研究所経由で知ったところでは、すでに1974年「学習漫画 シートン動物記」(集英社、全12巻)のうち、「谷口治郎」名義で、4巻を描き下ろしていたそうです。「狼王ロボ」「裏町の野良ネコ」「白いトナカイの伝説」「少年とオオヤマネコ」。彼にとっては、シートン、それもロボ再挑戦になるわけです。オビに著者いわく、「ずっと以前から、“ロボ”を描きたかった。そして今こそ描けると思った。」
谷口ジローの「シートン」を読めばわかりますが、シートンは画家でした。ですから、シートンのオリジナル著作には彼自身のカットや挿画が掲載されています。で、この絵がスゴイ。
シートンの描いたオオカミは、正確な骨格を持ち、動き・迫力とも十分、恐ろしく、気高く、かっこいい。さらに森、荒野、山々からなる風景も、細かく描き込まれています。
さらに、シートンの最初の単行本となった「美術のための動物の解剖学」(STUDIES IN THE ART ANATOMY OF ANIMALS、1896年。日本語版タイトル「美術のためのシートン動物解剖図」)は、ウマやイヌ、ライオンなどの筋肉、骨格の解剖図を描いただけでなく、ウマやイヌの走るところの分解写真を連続した絵にしたものも。彼はアニメーターの先祖でもあるわけです。
そもそも、「狼王ロボ」を含む、シートン『動物記』という書物は存在しません。シートンの諸作を『動物記』というタイトルをつけて日本に紹介したのは内山賢次で、戦前のことになります。戦時中も敵性文学なのに、戦争末期まで版を重ねた人気作品だったそうです。
戦後には1951年に、評論社から内山賢次訳で「シートン全集」全18巻が刊行。本文のカットはシートン本人のもの。挿画は、シートン自身の水彩画(?)を、ペンでトレースか模写かしたものでした。(評論社からは、のちに龍口直太郎訳で、「少年少女シートンの動物記〈原画版〉」というのも刊行されてます)
1971年には、集英社から藤原英司訳で「シートン動物記」全8巻刊行。ここで挿画はトレースから写真版となり、その他にも、シートン自身がカメラで撮影したロボやブランカ、オオカミ罠の写真も掲載されました。谷口ジローの描く、罠にかかったブランカ(「シートン」201ページ)は、シートンの撮った写真の模写です。
のちに子供向けに多くリライトされたのがこの藤原英司版。「谷口治郎」の「学習漫画 シートン動物記」も、1974年集英社から出てますから、藤原英司版をもとにしていたはずです。
今泉吉晴は、谷口ジローの「シートン」では、原案として名前が記載されていますが、現在、福音館書店から5冊刊行されている「シートン動物記」の訳者です。そして、「シートン 子どもに愛されたナチュラリスト」(2002年福音館書店)という、シートンの評伝の作者でもあり、「動物記」とは別の、「シートン動物誌」(全12巻、1997年紀伊国屋書店)の監訳もしてます。
福音館書店版の「シートン動物記」は、シートン自身のカットや挿画をできるだけ多く載せようという意図で作られています。「シートン 子供に愛されたナチュラリスト」にも、多数の図版や写真が掲載され、大著の「シートン動物誌」には、シートンの絵(油彩か、水彩、スケッチ、細密画)や、彼が撮影した動物写真もいっぱい。
ここでやっとわたしたちは、シートンの画家としての側面を知るようになりました。この段階で、谷口ジローが「シートン」を描くということは、画家シートンに対する挑戦でもあるのです。
谷口ジローの師匠、石川球太も、動物マンガを得意としました。「石川球太の野生シリーズ(1)シートンの動物記」(1991年講談社)という単行本もあります。この野生シリーズの(2)と(3)は「ツンドラ狼物語 黒チビちゃん」という作品で、石川球太は、おそらく日本で一番多くオオカミを描いた作家でしょう。
石川球太版の「シートンの動物記」は読んでいませんが、諸作品が描かれたのは1965年前後らしい。こちらのサイトによると、オオカミ好きの石川球太なのに、意外や、「ロボ」は描いていないようです。
白土三平の「シートン動物記」は有名。小学館「小学六年生」に連載されたもので、この作品と「サスケ」で、1963年の第4回講談社児童まんが賞を受賞しました。初に単行本となったのは1961年東邦図書出版社から2冊、のち1964年に青林堂から「灰色熊の伝記」上下巻が出版されています。
白土三平作品は、1993年から1995年にかけて「定本・シートン動物記」のタイトルで、小学館から「灰色熊の伝記」「フェニボンクの山猫」「スプリングフィ−ルドの狐」のタイトルで3冊がカラーで復刊されました。白土三平も「ロボ」は描いてません。これも意外だなあ。
いわゆる学習マンガの枠内では、ほるぷ出版からは、まんがトムソーヤ文庫というシリーズの中に、宮田淳一「シートン動物記」(1996年)があり、「オオカミ王ロボ」も描かれています。
1989年にはホーム社から「コミック版シートン動物記」全10巻が刊行されており、第1巻で、村野守美が「オオカミ王・ロボ」を描いてます。これはなかなかの力作ですが、しかし。
構成・演出が、谷口ジロー版「狼王ロボ」と、よく似てる。というか、そっくり。これはいったいなぜ。
以下次回。
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