日本版ヒーローのかたち「スパイダーマンJ」
オリジナルのスパイダーマンは、悩めるヒーローとはいいながら、戦いの最中に軽口を叩いてばっかりの基本的にお気楽なヤツ。でも、スパイダーマンが日本でリメイクされるとき、日本には日本のやりかたがございます。
日本版スパイダーマンは、まず、池上遼一・平井和正版が1970年。特徴は、悩みを前面に出したこと。主人公の悩みは、ヒーローであることじゃなくて、若いということからくる普遍的な悩みです。彼は、10ページにわたってオナニーしたあと、妄想の中でガールフレンドをヌードにしちゃったことで悩みます。
1978年の東映のTV版スパイダーマンは、わたし設定覚えてないんですよ。素顔のスパイダーマンなんて、全く記憶にない。ともかく、木をひょいひょい登っていく特撮がおもしろかった。このアクションは忍者映画にも流用されましたよね。
そして、巨大ロボット。なんでスパイダーマンにロボットやねーん、とか言いながら、けらけら笑いながら見てました。子供向け特撮TVに特化したスパイダーマン。これはこれで楽しい。
でもって、今回、「コミックボンボン」に連載されている山中あきら「スパイダーマンJ」1巻が発売されました。“J”はジャパンかな。掲載誌からわかるように、明らかにコドモ向けなのですが、いやー、こうきたか。
主人公の「J(ジェイ)」は小学生。まず、チビです。日本マンガでヒーローが背が低いのは、デフォルトと言えなくもない。鉄腕アトムもハガレンも鮎原こずえもみんな小さい。背の高いヒーローって、イガグリくんと、青田赤道、桜木花道ぐらいか? のたり松太郎もいましたか。本家も体格は良いとはいえないから、よく似てます。
コドモとはいえ、スパイダーマンだから悩みます。彼の悩みは、正義の仕事が忙しくて、友達を遊べないこと。おお、これも元祖と似た悩みだ。
悪人の設定が面白い。スパイダーマンがクモなんだから、悪役も昆虫で統一しました。ゴキブ・リーダー、アメンボンバー、アリーガー、カマキリ怪人・マンティス、ハチをあやつるワスプルギス。仮面ライダーだなあ。アメリカ版本家より敵のデザインが統一されているのが和風。
そして、彼らの背後には悪の首領、カブトムシのビートル・ロードがいるらしい。謎に満ちた悪の組織の設定は、日本のマンガやTV番組が長年にわたって築き上げてきた伝統芸。
逆に主人公のスパイダーマンJが、どうやって超能力を得たのか、スパイダー・ウェブをどのように出してるのか、家族関係がどうなってるのか、まったく説明がありません。背景を説明しないのは、エヴァ以来の流行なのか。
で、なんといってもこの作品のいいところ。アクションにアイデアいっぱい。クモの糸を弓のつるのように使って自分の体を飛ばす「スパイダー・ボウガン」。糸を円の形にして敵を切断する「スパイダー・ウェッブソー」。クモの糸で自分の体全体を覆っちゃう「スパイダー・ウェッブアーマー」。いろいろ考えるなあ。子供マンガあなどるべからず。
きっとスパイダーマンJは、必殺技を考えたり完成させたりするのに、いろいろ特訓してるに違いない。この必殺技と特訓のあるなしが、彼我の違いでしょうか。
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