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April 13, 2005

完璧!「アタックNo.1」

 さて、浦野千賀子版の元祖「アタックNo.1」です。先日も書きましたが、1968年新年1号から週刊マーガレットに連載。オリンピックの年、新年号からのバレーボールマンガ新連載に、期待の大きさがうかがえます。

 絵がアレですし、わたし、実は今まで敬遠してちゃんと読んでなかった。でも、古典はバカにしちゃいけないと、反省してます。これほどあらゆる要素がつまった、面白い作品もちょっとないぞ。


■鮎原こずえの戦績

 ストーリーのおおまかな流れと、彼女の戦績は以下のとおり。


○中学(富士見学園)2年生

・鮎原こずえが、バレーボールで有名な東京の明法学園から静岡県富士見学園に転校。

・女子不良グループをたばねてバレー部と対決。勝利。

・ライバル早川みどりとキャプテンの座を争う。のち和解。


○中学3年生

・富士見学園が浜紀中学と合併。バレー部も合併して、浜紀中学グループと対立。のち和解。

・春の全国中学バレーボール選手権試合。予選を突破して、全国大会優勝(おお、早くも)。

・優勝してバレー部、慢心。ソ連女子ジュニアチームと練習試合して、あっさり負けちゃって、改心。

・鮎原こずえ、鬼キャプテンとなり、部員から反発。バレー部をやめて、一時体操部へ。

・夏季バレーボール全国選手権大会。予選突破して、全国大会では惜しくも準優勝。

・オールジャパンに参加して、アメリカで世界ジュニアバレーボール選手権。ソ連を破って優勝。


○高校(富士見高校)1年生

・富士見高校に進学。古い体質のバレー部先輩と対立。バレー部をやめて、新バレー部を創設。のち和解。

・インターハイ予選突破。

・ボーイフレンドの一ノ瀬くん死亡(ええーっ!?)。

・インターハイ準優勝。

・一ノ瀬くんの生き別れの双子の兄、竜二登場(なにーっ!?)。

・新入部員、真木村との対立、のち和解。

・春の選抜大会。予選突破。全国大会優勝。


○高校2年生

・こずえが緊急手術。子供が生めないカラダに(ちょっと待てーっ)。

・インターハイ予選突破。

・大学生、湯島二郎とデートの日々。一時バレーから心が離れる。のち別離。

・インターハイ優勝して、春夏連続優勝。

・そして全日本女子に参加して、ブルガリアでの世界選手権。ソ連に負けて準優勝。現実世界でも、1970年の世界選手権はこのとおりの結果でした。


 通常のスポーツマンガと同じように、大会で優勝したり、準優勝したり。いろんなライバルが登場し、魔球の開発と、そのための特訓があります。このあたりは、基本としてはずせないところ。

 くりかえし描かれるのは、大会の前のチーム作りです。チーム内対立→和解が定番。あと、省きましたが、コーチとの対立→和解もくりかえされます。これとは別に、恋愛事件の数々がはさまってるのも大きな特徴です。

 「アタックNo.1」では、勝利の障害になるのは、もちろんライバルの存在ですが、それ以上にチーム内の対立が重要。加えて恋愛も大きな障害のひとつとなります。魔球とライバルが最重要の少年マンガと、ここがちょっと違う点です。


■魔球

 球技マンガといえば魔球。「アタックNo.1」にも出てきます。

 まず、「木の葉おとし」。あまり珍しくない変化球サーブみたいで、浜紀中学の泉選手や、早川みどり、鮎川こずえが使います。中学時代の鮎川こずえが得意としたのが、左右、どちらの腕も使えるスパイク。

 体操部の特訓で身につけたのが、「前後左右の回転レシーブ」。このあたり、魔球じゃありませんが。

 卓球をヒントに開発したのが、ボールの横から手をあてる変化球スパイク。高校になって、セッターが片手で回転させながらトスを上げ、さらにスパイクのときに回転を強めるという、改良版も登場しました。セッターがつけた回転に、鮎原こずえが逆の腕でスパイクし逆回転を加えてしまい、普通のボールになっちゃったというお間抜けなこともありましたけど。

 早川みどりが「木の葉おとし」から偶然に生み出したのが、もっと変化の強い「逆回転サーブ」。適当だなあ。

 ライバルたちの技には、大阪・寺堂院高校の「三位一体の攻撃」「イナズマ攻撃」とかもありますが、青葉学園の山本の「大ボール・スパイク」がスゴイ。ボールが大きく見えるんですが、その理由は。

「ボールがへこむくらいの力で打つと」「へこんだボールはその圧力の反動でもとの大きさをとりもどすかのように……」「前後左右にゆれ」「大きくなって見える」 サッカーマンガあたりでも使えそう。

 これに対抗して鮎川こずえが開発したのが「電光スパイク」。

「ボールがトスされ……」「前衛のひとりがアタック体勢にはいると」「その前後左右から飛燕のようなジャンプでとびあがりスパイク!!」「ボールが相手コートにバウンドするまでの早さが1秒たらず」 よくわからんけど、ジャンプとスパイクの両方が速いらしい。

 そして、天井に向かって打つスパイク「竜巻おとし」。でも、あとからジャンプしなくてもできることがわかり、サーブにも使えるようになりました。

 最後に登場したのが、ボールが4つに見える魔球。

 「落葉がヒントなんです 1枚の落葉でもくるくる舞えば数枚にも見えるところから思いついたんです」 おーい、ここまでくると、「黒い秘密兵器」の時代に逆戻りしてますけど。
 
 「アタックNo.1」の魔球は、「サインはV!」の「いなずまおとし」「X攻撃」などよりかなり地味。魔球合戦なら「サインはV!」の圧勝ですが、「アタックNo.1」は、コートを走り回ってスパイクの的をしぼらせないとか(笑えます)、スパイクをスパイクで返すとか(ムチャです)、魔球が無くても、ゲームシーンはじゅうぶん面白いんですよー。

 
■ケンカ、乱闘いっぱい

 「アタックNo.1」のオープニングシーンは、転校生・鮎原こずえが授業中、堂々と居眠りしてる場面。先生に注意されて「授業をうける気がないんなら医務室でもいってねろ」「じゃそうします」

 場面変わって校内でカツアゲする不良グループ(♀)。そこへ鮎原こずえ登場。「よしなさいよ あんたたち」「まあ親分! 見てたの」

 鮎原こずえって優等生イメージだったんですが、違うみたい。実はこのマンガの登場人物、けっこうケンカっ早くて、すぐ口が出る、手が出る。

・鮎川こずえと早川みどりの対立。「早川さん ついに本性をあらわしたわね」「なんですって?」「口ではいい子ぶってるけど じぶんがキャプテンになりたくてしょうがないのね」 早川がこずえの頬をバシッ。

・こずえと早川が和解。早川が「気のすむようにわたしのほおをぶって!」「いいの」「ええ」 こずえが早川の頬をバシッ。「ごめんつい力がはいって」

・富士見学園と浜紀中学の対立。浜紀中学グループに笑われた早川。「カーッ」「な…なによ やる気!?」 早川が相手の頬をバシッ。

・鮎川こずえが意見してます。「泉さん あなたって人はひどい人ね こんないい人をまま母というだけでそんなあつかいをするの」「にどとこんな人をわたしの母といわないで」 こずえが泉の頬をバン。

・ボーイフレンドも女性に手をあげる。鮎川こずえがバレーボール部をやめると知った一ノ瀬くん。「ど どうしてやめたんだ」「あら 努さんはこうなるのをねがってたんじゃなかったの」「ばかっ」 バシッ。

・鮎川こずえとオールジャパン内のライバルの対立。こずえが「いったいなにがいいたいのよ」「つまり先生はあなたをひいきしてるってことよ」「えっ いっていいこととわるいことがあるわ」「なまいきなこといって!! ゴマすりにそんなこといえるの」 キッ。バシッ。手を出したのはこずえ。「きゃっ やったわね」「ええやったわよ」

・同じ相手と。こずえが「あの手この手をつかって じぶんが目だとうとする行為なんてみっともないあがきだってことよ」「いわせておけば」「うるさい!」 バシッ!。これも手を出したのはこずえ。「きゃーっ」「あ あなたのせいよ こんなにチームをめちゃくちゃにしたのは」 ドンドンドン。さらに殴り続けるこずえ。

・高校に入ると、先輩の2年生、大沼みゆきが運動部らしく、しょっちゅう後輩を殴ってます。ついにキレたこずえが逆襲。バシッ。

・コーチが選手を殴るのは日常茶飯事。「なんだおまえうごけなかったのか え 足でも悪いのか おれは人形を相手にしてるんじゃない」 バシッ。「なんどいえばわかるんだ」 ふたりの頭をつかんでごっつんこ。

・ついには選手に選手を殴らせるという罰。ペチン。「なんだそれは おれはなでろとはいわなかったぞ」「わ わたしできません」 バンバン。コーチ自ら殴ります。

・一番ハデなのは、暗闇からバレーボールを投げつけられるという襲撃を受けた鮎原こずえ、怒りに燃えて犯人を探して走り回ってたら、ライバルチームの3人組に遭遇しました。こずえは彼女らを犯人と思い込んで、暴言を吐いてしまう。これがきっかけで河原で大乱闘。大会出場停止になっちゃいました。

 主人公はけっして無垢なよい子じゃないとわかっていただけたでしょうか。自己主張強く、嫉妬深く、でも熱血。心に闇も抱えている。性格は、現代マンガの登場人物よりフクザツじゃないかしら。


■鮎原こずえの恋愛

 少女マンガですから、恋愛もあります。

 鮎原こずえの最初のボーイフレンドは、血のつながらない親戚になる、一ノ瀬努くん。マジメで熱血な新聞部。生徒会副会長で、学園一のハンサムで、勉強ができる。カンペキやね。初期には早川みどりが恋のライバルでもありました。

 続いて、中学サッカー部キャプテンの三田村くん。「野性的な魅力を感じないではいられないわ」 三田村と一ノ瀬が殴りあうシーンもあったりします。

 三田村くんは高校に進学すると、男子バレー部にはいっちゃって、のちに早川みどりと交際することに。

 さて、一ノ瀬くんですが、高校1年生の夏、電車にひかれて死んじゃいます。さあ大変。と思ったら、彼には赤ん坊のころ、養子に出された生き別れの双子の兄がいた!

 東京にいる彼、竜二くんは、育ての両親が交通事故で死亡、施設に引き取られ生活してましたが、そこを脱走。自立心に満ちたワイルドなヤツ。

 その後、富士見市で生活するようになりますが、こずえとの間に大きな進展は無い。「おそらくきみは努を永久にわすれないだろう おれだってほんとうはきみがすきだ」「でも努にはかなわない きみのことはあきらめるよ」

 主要登場人物を死亡させる大きな展開の結果が、これかーい。

 その直後、新展開。鮎原こずえが急病に。子宮付属器炎の手術を受け、高校2年生にして子供が生めないカラダになっちゃいます。

 このことが、何の伏線になるかというと。

 こずえは入院中に知り合った大学生、湯島二郎と交際を始めます。社長の息子で大金持ち。でもって、実は親の決めた婚約者がいて、こずえとフタマタかけていた。

 恋愛に浮かれているこずえを母親がさとします。「それじゃはっきりいうわ あなたは結婚しても幸福にはなれないのよ」←子供ができないから。お母さん、キッツイなあ。

 二郎の婚約者からも言われます。「彼は湯島家の長男でありひとり息子よ」「また大東自動車の3代目社長となる人よ」「その湯島家に子供ができなければ当然あなたは湯島さんと結ばれることはできないのよ」

 でもって、優柔不断の二郎は、いつ帰ってくるかわからない海外旅行に出てしまいます。こんな男やめてしまえーっ。

 その後、手紙が来て、彼はやっぱり婚約者と結婚することにしたと。なーんや、それ。大きな手術しておきながら、こんな男とのエピソードかいっ。

 こういう「意味の無い」死や不幸や双子のエピソードは、1970年以後、日本からほぼ消滅してましたが、韓流ドラマブームで復活。この古典的少女マンガ的展開も味わい深いなあ。


■ライバルの卑劣な計略

 これも定番ですが、最近のスポーツマンガでは少なくなりましたかね。「アタックNo.1」世界では、ライバルは堂々と卑劣です。

・鮎原こずえが、先輩・大沼と、退部をかけてバレーの試合。大沼はこずえに睡眠薬を飲ませて、試合中に眠らせる(犯罪です)。

・東京の甲徳女子。富士見高校のコーチ(♀)の密会写真を週刊誌に売ると言って、鮎原こずえを脅迫。実はアイコラ写真(犯罪です)。

・東京の東南女子高。鮎原こずえの素行調査や新聞記者に化けて家計簿の調査。さらにはこずえを拉致監禁し、筋電図を記録。コンピューターで解析して弱点を探るため(りっぱに犯罪です)。


 「アタックNo.1」には、スポーツマンガのあらゆるエッセンスが凝縮しています。チーム内の選手間の対立。コーチと選手の対立。そして和解とチームの完成。魔球の開発と特訓。強力なライバル。卑劣なライバル。勝利のあとの慢心。

 さらに少女マンガらしく、恋愛。さらに恋人の死。生き別れのお兄さん。不妊による悲恋まで登場。いろんな要素がてんこもり。なんでもありのスポーツ・マンガ。完璧です。

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Tracked on April 25, 2005 03:39 PM

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