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March 13, 2005

「20世紀少年」をきっちり読み直す(その6)

 前回からの続きです。思いっきりネタバレします。未読のかたはご遠慮ください。

(8)残された謎

 謎としてあと何が残されているでしょう。お話の展開としては、ともだち暦3年に登場しているマスクをかぶった“ともだち”は、フクベエじゃなさそう、という流れ。となると、誰が、いつ、フクベエと入れ替わったのか。

 1971年8月31日の理科室事件の全貌がわかれば、この謎も解けるのか。

 もうひとつ気になるのは、6年生のときに死んだカツマタ君です。カツマタって名字か名前か、はたまた、別の言葉から作られたあだ名なのか。

 彼について語られるのは1巻5話、11巻12話、12巻6話、14巻6話、16巻3話です。カツマタ君は学校の怪談の登場人物。フナの解剖の前日に死んじゃって、夜な夜な理科室にバケて出て解剖してる。

 14巻6話では、ヨシツネによって小学校の架空の伝説のように語られています。しかし11巻12話では、ヤマネ君の話として、「仲の良かったコが死んだ」「解剖実験を楽しみにしてたのに、その前日に死んだ」「夜ごと学校に忍びこんで、その仲の良かったコの幽霊と、実験を繰り返していた」と、いかにも実在の人物らしく語られていた。もし彼が実在だったとすると、これまでの展開で、あまりに登場が少なすぎる。

 さて、カツマタ君は単なる伝説の人物なんでしょうか。それとも、実在の人物? ならば今後またお話に登場してくるのか。

 1巻1話の冒頭、カンナ(この時点ではこの少女が誰かも不明だったのですが)が夜中にむっくり起きると、巨大ロボットが。彼女はパンツとTシャツで寝てましたから、季節は夏のはず。

「まさか、またアレが………!!」

 似たシーンは12巻1話にカンナと神様の夢の中にあります。夜中に巨大ロボットが現れ、「西暦が終わりました」とアナウンス。となると、このシーンは西暦の終わる年=2015年の夏のことか。そのとき、巨大ロボットが再登場するのでしょうか。

 謎、いっぱい残ってるじゃないか。


(9)おわりに

 「20世紀少年」を読み直してみて、これ、やっぱり面白いわ。穴やほつれはいっぱいあるけど、この複雑なプロットを、これだけ複雑なストーリーで描ききるのはチカラワザ。しかも、読者を興奮させる構成力がすごい。

 これまで発表されている部分で、最高の盛り上がりを見せたのが、12巻の“ともだち”の正体が判明するまでの数話。“ともだち”の正体を明かす証拠が、次々と提出されていきます。

・2015年、ヨシツネの秘密基地:ヨシツネ、ユキジ、小泉響子。(1)ヴァーチャルアトラクション内で、1970年の首吊り坂事件は、1971年のこととされていた。→1970年万博と1971年理科室事件の隠蔽。(2)2000年大晦日の写真を撮ったのはフクベエ。(3)1971年スプーン曲げ事件の犯人はフクベエ。

・2015年、春波夫とマルオ。(1)春波夫が“ともだち”の顔を目撃し、似顔絵を描く。(2)マルオがフクベエのマンションへ行き、1997年フクベエの子供とされていた3人がニセ者と知る。

・1997年、0歳のカンナ。自分を抱いた男の顔を思い出す。

・2015年、オッチョと角田が、理科室でヤマネ君、“ともだち”と対決。

・2000年大晦日、ケンヂが忍者ハットリくんのお面をはずした“ともだち”を目撃。

・これらがカットバックしながら同時に進行し、ついにヤマネ君が“ともだち”を射殺。オッチョがハットリくんお面を“ともだち”の顔からはずし、フクベエの顔が読者の前に(12巻12話)。

・巻が変わって13巻1話。フクベエ←ふくべ←服部←ハットリというトリックが明かされる。

 “ともだち”の正体を明かすまでの展開は、それこそ何百というやりかたがあるでしょうが、作者はこう描きました。時空を越えてすべてを一点に集約させてお面をはずし、さらに「服部」でダメオシ。いやスゴイ。

 浦沢直樹のこの手腕をみていると、手塚治虫を連想します。

 以前にも書いたことがありますが、手塚治虫と石上三登志の対談(キネマ旬報1977年1月下旬号)での手塚の言葉。

 「僕には泣かせるコツが三つあるわけです。一つは、死なないだろうと思っていた主人公を、最後に殺すこと。」「それと、三枚目を配置して、笑わしておくこと。」「それからもう一つ。泣かせたあと、余韻がほしいわけ。(略)泣かせっぱなしでなしに、最後にもう一回、その余韻のダメ押しで泣かせようというわけ。女の子を泣かせるのには、余韻をえんえんと付ける。」

 これは「泣かせ」のテクニックについての言葉ですが、手塚の、読者の感情を自在にあやつる自信がうかがえる。笑わせ、泣かせ、はらはらさせ、感動させる。

 どんな題材でも私にまかせれば面白くしてみせましょう。浦沢直樹もこれぐらいの自信があるのじゃないかしら。

 ああ、“ともだち”っていったい誰なんだよう。


(10)おまけ

 最後に「20世紀少年」のあちこちにちりばめられた、マンガへのトリビュートについて。

 「よげんの書」には、鉄人28号そっくりのロボットが出てきます。「9人の戦士」という言葉もありますが、これはサイボーグ009。

 “ともだち”グループのフクベエ、サダキヨ、ヤマネ君の少年時代は、8マンに登場した超人類にそっくり。

 カンナが2014年に住んでるアパートが「常盤荘=トキワ荘」で、となりに住んでるマンガ家が金子氏と氏木氏のふたり合わせてウジコウジオ。

 つかまっちゃったマンガ家が宝塚先生、西森氏、青塚氏。オッチョと行動をともにするマンガ家・角田(かくた)は、つのだじろうというより、寺田ヒロオふう。

 小泉響子がときどきする驚愕の表情は、楳図かずおの恐怖顔。

 そして、忘れちゃならない、死んだはずの人間が次々生き返って再登場するのは、白土三平です。ホントに死んだときは、双子がいたり、同じ顔に化ける一族がいたりしますが、「20世紀少年」は、まさかそんな展開にゃならんだろうな。

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Comments

ケンヂと同じ学年のものです。
最近、友人に勧められ、『20世紀少年』を読み始め、
一冊ずつ惜しみつつ読み返し、年表書きつつ、昨日やっと追いつきました。
そして、封印してあったこのページを開きました。

面白く、感心しました。
特に手塚治虫を思わせる手腕というところ、全く同感です。

矛盾点の指摘も楽しかったです。
でも、あえて反論させていただければ、

『太陽の塔』の絵が1969年に描き得たか?
 これは当然わかりました。一年前から太陽の塔、日本館、アメリカ館、ソ連館、主立ったパビリオンの形はみんな知っていました。
 あの当時の万博情報は今の「愛・地球博」の比ではなく、
 新聞や雑誌の特集は数え切れないほど、
 大阪在住のわたしたちに至っては半年も前からガイドブックを買い込んでいたと記憶します。

巨大ロボットの絵、
 これは作者のミスだろうと思うんですけどね(鋭い御指摘にうなりました)、
 特にこの絵はケンヂのお気に入りでしたからそっくりの絵を二枚書いて、
 タイムカプセル(これも万博がなければあり得なかった)に封印した可能性はあるでしょう。
 なかったことにせず堂々と展開していただきたいと思います。

それよりも
18巻末の時点で大きな矛盾点が2点あります。
10巻を読み終えたときに疑問だった時制の揺れは先への伏線だったので、
これも発展的に解決(でも、一つはダメかなぁ)していただければなぁと期待しています。

そのことについてはちゃんと書きたいと思っていますが、トラックバックしますので、読んでいただけたら幸いです。

あちこちのマンガへのトリビュート、
こういうところも手塚治虫的だなぁとうれしくなります。
一巻での金田正太郎と敷島博士が上がっていなかったのが意外でした。
それから、ケンジの姉の名があとで意外なトリビュートになっていたことにうならされました。

さっきまとめ読みしました、封印していた間、たまっていたので。またおじゃまします。

Posted by: ありのみ | June 05, 2005 11:57 AM

コメントありがとうございます。そうでしたか、万博は1年も前から評判になってましたか。そのあたりわたしの記憶はさだかじゃなくて、万博のガイドブックの発効日とか検索してみたりしてましたが、これですっきりしました。

Posted by: 漫棚通信 | June 05, 2005 03:42 PM

またコメントさせていただきます。遅ればせながら今20巻読み終えました...ハア~ッ...もう本当に早く終ってほしいです...いえ、いい意味で。それにしても第10話の敷島教授、するどいです。ヤン坊・マー坊に、「おまえら、子供の頃いじめっこだっただろ?」そして心外だ、という表情で「それはないです」「まったくない」と受け答えするヤン坊・マー坊。浦沢直樹のユーモアのセンスがキラリと光っています。そして、いじめっ子を再登場させることで、人類滅亡を企てる「ともだち」の存在自体が「子供の遊び」から始まったのだという事を再確認させられる一話だと思いました。やはり浦沢直樹のストーリーテラーとしての才能は素晴らしいです。
さて、話は18巻・第8話に戻りますが、一人、荒野の(たぶん北海道ですよね)ラジオ局からケンジの歌を発信し続ける謎のヒッピーは「コンチ」ですよね?140ページ、2コマ目でこのヒッピーが、「このハガキ?これはむか~しに届いたハガキでさ...」とつぶやいていますが、おそらくこのハガキは1999年にケンジが幼なじみたちに助けを求めて送ったものでしょう。(ケロヨンもFAXを受け取っていました)このコンチらしきキャラクターが今後どういう風に登場するのか、気になります。ケロヨンのように活躍して欲しい、とひそかに思ってしまいます。

Posted by: Wussy | December 03, 2005 02:25 PM

コメントありがとうございます。DJ=コンチは思い浮かびませんでした。確かにハガキのくだりは何やらアヤシゲですねー。浦沢なら描きそう。

Posted by: 漫棚通信 | December 04, 2005 09:13 PM

タメになりました!
私の記事からリンクを
貼らせていただきたいと思います。

私はもう下巻を読んだのですが、
漫棚通信さんならこの謎を
どう解釈してくださるか、
今から楽しみです♪♪♪

Posted by: 紫式子 | October 02, 2007 02:28 PM

マンガへのトリビュートではないのですが、個人的にはオッチョが坊さんに修行つけられるシーンに笑えました。
昔テレビでやってた「燃えよカンフー」のパロディですね。
坊さんは修行つけながら禅問答みたいなこと言ってましたし、主人公の少年を「コオロギ」って呼んでました。オッチョはコオロギではなく「アリンコ」でしたね(笑)

Posted by: ゴルゴ12 | October 24, 2008 08:40 PM

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Tracked on June 05, 2005 01:31 PM

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