アラン・ムーアの怪人連盟
(1)自分の書くオリジナル・フィクションの世界で(2)他人の作ったフィクションの中の人物と(3)実在の人物が(4)一同に会して活躍する。
この発想で書かれた小説は、過去にいっぱいあるようで、とくにシャーロック・ホームズを登場させたパロディ、パスティーシュでは、ホームズとフロイトや切り裂きジャックが競演したりしてます。同時代作家のくせにルパンの世界にホームズ登場させたルブランみたいな人もいますし、こういうのみんな好きね。
このタイプの最近の代表作といえばキム・ニューマンの「ドラキュラ紀元」シリーズ。現在まで日本では3作が訳されています。
ドラキュラがビクトリア女王と結婚し、英国を支配している世界。人間の多くは吸血鬼となっています。世紀末ロンドンで吸血鬼の娼婦の連続殺人が発生、秘密機関ディオゲネス・クラブのマイクロフト・ホームズ(シャーロックの兄です)の命を受け、この「切り裂きジャック」事件を捜査する秘密諜報員ボウルガードの冒険。
面白そうでしょ。古い作品なら著作権切れてるし、どんな登場人物でも出し放題。だもんで1作目に名前の出てくる人物はなんと300人。第3作「ドラキュラ崩御」の出来はもうひとつですが、「ドラキュラ紀元」「ドラキュラ戦記」は傑作です。
で、おそらくはこの小説にインスパイアされたマンガが、アラン・ムーア/ケビン・オニールの「The League of Extraordinary Gentlemen」(邦題「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン」ジャイブ発行)です。
時代は19世紀末、フィクションの中の怪人たちが集まってヒーローグループをつくるお話。ミナ・マリー(ブラム・ストーカー「ドラキュラ」に登場するミナ・ハーカー。離婚してます)、アラン・クォーターメイン(ハガード「ソロモン王の洞窟」「二人の女王」)、海底二万マイルのネモ艦長、ジキル博士とハイド氏、透明人間の5人組。彼らの上司がイギリス諜報部のキャンピオン・ボンド。あの007号氏のご先祖です。
ヒーローとはいいながら、とんでもない連中で、クォーターメインはアヘン中毒、ハイド氏は娼婦連続殺人犯でジキル博士は神経症、透明人間は強姦魔、どうすんだこれ。
「ドラキュラ紀元」と時代も同じ、登場人物もダブってますが、「リーグ・オブ〜」では登場人物はすべてフィクションの中の人物。実在の人物は登場しません。もうひとつ、この世界ではヴェルヌやウェルズふうに科学が発達している。スチーム・ボーイですな。
ドーバー海峡横断橋は建設中ですが、女神やライオンの大きな彫刻付き、現代の橋の機能美とは対照的。ネモ艦長のノーチラス号はイカ型。パリやロンドンの空には多数の飛行船が浮かび、煙突からは煙がいっぱい。反重力物質を使った飛行戦艦と凧に乗った中国人ギャングの空中戦。
19世紀調の未来機械のイメージが楽しい。元ネタ探し(巻末に解説あり)が楽しい。ステキなマンガです。
映画版はショーン・コネリー主演で日本語タイトル「リーグ・オブ・レジェンド」、怪人連盟のメンバーにドリアン・グレイとトム・ソーヤーが加わって計7人になってますが、マンガのほうがずっとデキがよろしい。
ジャイブから続編の日本語版発行も予告されたはずですが、ホントに出るのか。原書買ったほうがいいかしら。でも、ムーアの英語むずかしいからなあ。「フロム・ヘル」もまだ読めてないし。
↑とか書いてたら、コメント欄で続編もう出版されてんぞと教えていただきました。ズレてましたごめんなさい。
あと、フロム・ヘルが訳されるならこんなにありがたくて楽なことはないんですが、映画版公開のときの日本語版出版チャンスをのがしちゃったからなあ。あんまり期待せずに地味に英語版読む努力してたほうがいいですかね。
Comments
LXGの続編:
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4861760224/
あと『フロム・ヘル』はユリイカ1月号の翻訳特集号で、
柳下さんが今後翻訳したい本に挙げてました。
Posted by: 通りすがり | February 18, 2005 07:23 PM