取材者はいつも不機嫌
取材マンガ、レポートマンガといわれるジャンルがあります。マンガ家の周辺を描くエッセイマンガとはちょっと違って、編集者主導で、マンガ家と編集者がいろんなものを取材して、その取材行為そのものを含めてマンガにしたてる。
いちばん長く連載されてるのは水口幸弘「カオスだもんね!」でしょうか。取材先も、駄菓子メーカーやらイベントやら風俗やらいろいろ。10年以上続いてますが、これもテーマを決めずに何でもありで取材してるから。
最近なら小田原ドラゴン「小田原ドラゴンくえすと!」がこのタイプ。取材先がぐっとエロ系にかたよってますけど。
マンガが面白くなるかどうかは、まず取材先の選択にかかっている。取材の成功がマンガの成功に直結します。逆に言えば、失敗取材をいかに面白く読ませるかがマンガ家の腕ともいえますが。
ただし、女性が取材に参加すると、パターンが変化します。もっとも成功したのは西原理恵子・神足裕司「恨ミシュラン」か。有名レストランにこっそり行って、味やサービスに文句を言いまくるというもの。このジャンルの代表例になりました。
「恨ミシュラン」で西原理恵子が開発した作風は、取材先に最初から敵意を持って乗り込み、 マンガの中で「まぐそ」「ゲロ」「ちょっと来い」と罵倒しまくるというものでした。ついには、取材内容を無視して関係ないことをマンガに描く境地にまで。
文章の神足裕司がいたからこそできた方法でしたが、この作風なら、取材が成功か失敗かはあまり関係ない(ホントはそんなことないんでしょうが)。サイバラ世界では、まずいものを食べさせてむしろ取材者を不機嫌にしたほうが面白くなるかもしれないと考えられてきました。取材者はカラダをはったりナミダを見せて笑いをとる。
というわけで、とくに女流マンガ家のサイバラ・フォロワーズは、みんな取材で不機嫌な目に会わされてきました。
現代洋子はお見合いパーティ行かされたり(「ともだちなんにんなくすかな♪」)、ジャンケンで飲食代払わされたり(「おごってジャンケン隊」これはインタビューマンガでしたが)。浜口乃理子はゴキブリ食わされる(「のんポリズム」)。宇野亜由美はツライ海外旅行(「アジア行かされまくり」「リゾート行かされまくり」)。倉田真由美はSMパーティー参加(「突撃くらたま24時」)。基本は女の子いじめて喜んでます。
で、菊池直恵「鉄子の旅」。これもこのパターンの末裔。
取材者のマンガ家はやっぱり不機嫌です。その原因は、「鉄ちゃん」。同行者の横見浩彦は、JR・私鉄のすべての駅を制覇したと先日TVワイドショーでとりあげられてましたけど、筋金入りの鉄道マニア。
彼が、著者をいじめるわけですが、ただしこれに悪意がない。というか、すばらしい鉄道の世界を教えてあげようとイッショケンメイ。ああ、これってわたしがかつて通ってきた道のような。いや、わたしは鉄ちゃんじゃなくて、マンガのヒトでしたけど。イタイなあ。
鉄ちゃんに巻き込まれた一般人の著者は、たまーに感動的な光景を見たりするけど、基本的にずっと不機嫌のままです。それを読みながら一般人の読者もけらけら笑うわけですが、ちょっとだけ鉄道の旅をしたくなったりもします。きっと行かないんですけどね。
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