ほるぷ平和漫画シリーズ:珍品篇
ほるぷのシリーズには、珍品といえるものも混じっているのですが、まず小池一夫の書いた戦争マンガ。
古城武司/小池一夫「白地に黒く死の丸染めて」(少年キング1970年)と、石井いさみ/小池一夫「カラスなぜ鳴く」(少年キング1970年)が収録されているのが「おれの鎮魂歌(れ・く・い・え・む)」です。本のタイトルをつけたのが編集者か著者かはわかりませんが、鎮魂歌に「れ・く・い・え・む」のルビをふるのがいかにも小池一夫ふう。
小池一夫(当時は一雄)がさいとうプロに参加して、「ゴルゴ13」や「影狩り」の脚本を書き始めたのが1968年。1970年に独立して一気に大量の作品群を発表し始めます。「子連れ狼」も「御用牙」も1970年開始ですよ。スゴイですねー。
「白地に黒く死の丸染めて」は小池一夫の公式ページによりますと、独立後最初の作品となります。このタイトル、よほど気に入ったとみえ、のちに「I・餓男」の章タイトルにも使用されています。
福岡司令部から鹿児島の知覧基地に特攻隊員の名簿を運ぶ任務を与えられた戦闘機乗り。彼もまたB29に突っ込むことで死を選びます。タイトルがすごくハデなわりに、お話はマジメ。
もう一作の「カラスなぜ鳴く」は、戦場(ソ満国境)に盲目の妻を連れてきた兵隊の話。有名なトランペッターである彼は、戦場で「ななつのこ」を吹きながら死んでいきます。
2作とも、戦時下に個人と国家がどうかかわるかを描いた作品ですが、他の小池作品に比べると、いかにも地味。掲載誌が少年誌ということもあり、後年のめちゃくちゃな展開がないのが惜しい。そしてもうひとつ、すごく気になるのが。
登場人物が「○○だッ!」とか「○○なンだ!」とか言わないんです。カタカナ使ってない。うーん、これがない小池作品はなにやらヘン。普通すぎてヘンというのもなんですが。
気になって調べてみると、「子連れ狼」連載開始時にはこういう言葉づかいしてませんでしたが、第8話「鳥に翼 獣に牙」では「たすけてーッ!」とか「手出しをするなッ!」とか、ひらがなカタカナ混合が始まっており、その後、多用されるようになってます。この戦争マンガの時期にはまだ使われてなかったみたいで、このカタカナがないと、小池一夫じゃないみたい。
少女マンガでは、飛鳥幸子「フレデリカの朝」(少女フレンド1967年)がヘン。60年代スパイ映画調の第二次大戦モノ。舞台は1943年ロンドン。警察に追われたドイツ人スパイが、女学生・フレデリカの家に押し込みます。弟を人質に取られ、フレデリカはボーイフレンドにもスパイのことを話せない。ところが、スパイが寝言で「おかあさん」とつぶやくのを聞いたフレデリカは、なぜか、スパイを愛してしまう。
ああ、女心ってのはほんとにもうっ。ラストシーンは、スパイを射殺したボーイフレンドに対してフレデリカが「人ごろし!」となじる。おーい、読者をおいていかないでくれー。
もう一作、水野英子の「ある墓標」(月刊ファニー1969年)もヘン。8ページの小品です。1969年、蓼科高原のどまんなかで金髪ロンゲのアメリカ人がひとりでドラムを叩いている。彼はもと、グリニッジ・ビレッジのロック・グループのドラマー。徴兵され、あすベトナムへ行くことになっている。「ドラムはどうするの?」「ここにおいて行くよ ぼくの墓になるだろう」「もしぼくが死んだら…ドラムも死ぬ」
12月になってドラムはこわれている。まるで爆撃をうけたように焼けただれて。
そらあんた、そんなところにドラムセット置いといたら、こわれるやろ。だいたいどうやってそこまで運んだのか。そしてそもそも、なぜ蓼科高原?
というわけで、珍品もあり、ということで、「ほるぷ平和漫画シリーズ」のお話はこれでオシマイ。新里堅進の作品など、積み残したぶんはまたいずれ書きますね。
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