少女マンガと戦争:女性作家その1:樹村みのり
「ほるぷ平和漫画シリーズ」の女性作家は以下のとおり。
・わたなべまさこ、汐見朝子、木内千鶴子、水野英子、神坂智子、樹村みのり、長広洋子、飛鳥幸子、里中満智子
このうち、わたなべまさこは未見です。上記のうち、意識して戦争テーマを多く描いたのが樹村みのり。
樹村みのりは1949年生まれですから、いわゆる24年組のひとりですが、初期より早熟の天才ぶりを発揮し、かつ政治的社会的にはっきりと発言する、稀有なマンガ家でした。
1964年りぼん春の増刊でデビュー。翌年りぼん8月号付録で、「雨の中のさけび」「ふたりだけの空」「風船ガム」の3作を同時に発表。このうち「雨の中のさけび」が「ほるぷ平和漫画シリーズ」に収録されています。
サンコミックス「樹村みのり初期短編集 ピクニック」から、著者自身の文章。
・中学2年の夏休みでした。
・戦争中のポーランドを舞台としたマンガを、はじめてペンとぼくじゅうを使って描きあげると、それを持って集英社はりぼん編集部へと出かけました。
・「また持っていらっしゃい」という言葉に気をよくして、その夏休み中にもう1作、アメリカの黒人の女の子と白人の男の子の話を仕上げて、持って行きました。
・「あなたは学生なんですから、今度はもっと生活に身近なものを描いてみなさい」というアドバイスで描いたのが『ピクニック』で、わたしのデヴュー作となりました。
・その後、最初に描いた2作をB6版に書き直し、フランスの貧民街を舞台とした話を描きたし、その当時のりぼんの別冊ふろくになりました。
「戦時中のポーランドを舞台としたマンガ」というのが「雨の中のさけび」です。上の文章にあるように、著者の実質的処女作が戦争をテーマにしたものでした。
ポーランドの小さな村。ユダヤ人を家にかくまった村人が、ナチに逮捕され連行されようとしています。その村人の友人がナチを押しとどめようとして射殺されてしまう。物語は射殺された男の幼い息子の目から語られます。
驚くべきはこれが中学生の作品ということ。ドイツの若い軍人に、村人に同情的な人物を登場させるなど、構成はたいしたものです。絵はもちろんヘタですが、ドイツの軍服などは鈴原研一郎よりずっとまとも。
別の収録作「解放の最初の日」(COM 1970年5・6月合併号)は、渾身の傑作です。
ユダヤ人収容所の中で、16歳の少年はナチに通訳として協力する。そして彼は生き残り、やがて解放の日が来る。
ひとがひとに対しておこなう暴力の中では、生き残る行為までもが後悔や非難の対象になるという悲しい現実の指摘です。雑誌掲載当時、繰り返し読んだ作品です。
もう一作、「海へ…」(りぼんコミック 1970年9月号)はベトナム戦争が舞台。兄と妹が美しい幻想の中、海に入水自殺する。両親は村人ごと、虐殺されたらしい。その後妹は米軍に乱暴され、目をつぶされて失明。ふたりの亡霊が、燃え上がるジャングル、逃げるひとびとをバックに楽しそうに走り回ります。
青年マンガでは舞台を海外にしたとき、なんとかして日本人を主人公にしようとして苦労してました。いっぽう、少女マンガでの戦争は、ヨーロッパやベトナムを舞台にして日本人が登場しない事も多い。もともと少女マンガでは、日本以外を舞台にすることがあたりまえだったからです。日本や日本人から離れた自由な設定で描くことができたから、これらの作品群が存在しているのでしょう。
The comments to this entry are closed.
Comments