「刑務所の前」天下の奇書はこれだ
奇書といってもいろんな本があるんでしょうが、今、描かれているマンガでこれというなら、花輪和一「刑務所の前」だ。前作「刑務所の中」も名作でしたが、「刑務所の前」はさらに突き抜けた作品。現在2巻まで刊行。
著者は拳銃不法所持で懲役三年の判決を受け、その獄中生活のスケッチが「刑務所の中」でした。悔恨に泣くでもなく、虚勢を張るわけでもなく、日常の如く淡々と記録される刑務所生活。著者の刑務所内の風景や生活細部の記憶力がスゴイ。
いっぽう「刑務所の前」は、これ何といっていいか、奇書です。内容は複数のストーリーが同時に展開します。
1)まず、タイトルどおり、刑務所の前。著者がサビた拳銃を手に入れ、いかにていねいにレストア(っていうのかな?)していったか。
2)そして中世の鉄砲鍛治とその娘の話。一応、この少女が主人公。母は少女を置いて出て行ってしまっています。父親は少女のひとことでがっくし落ち込むことを繰り返し、そのたびに少女は泣いてあやまります。「私だけ幸せですいませんでした」
いや、別に父親が悪人というわけではないんですが。父娘といえども、人間関係はむずかしい。
このパートでは種子島の造り方が細かく描写されます。コチラの世界でも銃。
3)そのご近所に住む、仲の悪い両親と娘の話。娘は仏法に救いを求めて修行しているのですが、俗物の両親とカルト宗教に走る娘の構図にも見えちゃいます。
4)そして、「刑務所の中」の話。
この4つが入り乱れながら展開するのですが、その他に、著者の出会った怪異の話や、ガンマニアとしての思い出やウンチクなど。さらに2巻になってからは「花子」という名の少女(ときどき無精ヒゲがはえます)に変身した著者自身が、友人から「ヤバイ」「本チャン」の銃を譲ってもらったり、すでに死んだ母親に会いに行ってロケット弾(?)を発射したり。いったいどこまで行くんだ。
銃を語る著者が楽しそうで楽しそうで。これが中世の家族の「業」の話とからみあい、さらには他の話が挿入され、なにやらモノスゴイことになっております。前衛マンガというのとはまったく違いますが、読者の10歩ぐらい先をゆく作品。ちゃんとついて行けますように。
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